明治初期に誕生した内務省勧業寮内藤新宿出張所農事修学場と蚕業試験掛をルーツとする東京農工大学。産学共同に熱心なことは古くから知られているが、一方では世界最高水準の研究者育成も大きなテーマになっている。 聞き手=本誌編集委員・清水克久 写真=佐藤元樹

教員1人当たりの〝共同研究〟はトップクラス

松永 是(まつなが・ただし) 1949年生まれ。79年東京工業大学大学院博士課程修了。80年同大助手。82年東京農工大学工学部助教授。89年同教授。2001年同工学部長。07年同大学理事・副学長を経て、11年学長に就任。

松永 是(まつなが・ただし)
1949年生まれ。79年東京工業大学大学院博士課程修了。80年同大助手。82年東京農工大学工学部助教授。89年同教授。2001年同工学部長。07年同大学理事・副学長を経て、11年学長に就任。

-- 今年で創立140周年を迎えられましたね。

松永 本校は内務省直轄で、当時、日本を支えていた農業と繊維産業の研究機関として誕生しました。紆余曲折があって農学部は府中市に移転して東京高等農林学校に、工学部は小金井市に移転して東京繊維専門学校となったのですが、戦後に統合されて現在の東京農工大学になりました。

 明治時代の国力増強を主目的に設立された経緯もあり、古くから実学重視で、日本産業の成長と共に歩んできました。民間企業とのつながりも強く、教員一人当たりの民間企業との共同研究の受入件数、受入金額共に、常に日本の大学の中では上位に位置しています。産業もグローバル化している現在、本校も世界に通用する研究をし続けなければなりません。

-- 学生への教育も大事ですが、特に研究開発を重要視するということでしょうか。

松永 教育も重要ですが、まずは高いレベルで最先端の研究をしなければなりません。農学、工学ともに、日本は世界的に高い評価を得ていますが、それをさらに伸ばしていくため、その先頭に立たなければならないと思っています。また大学には、既存の農業や工業の研究レベルを高めていくだけではなく、新たな産業、価値を生み出していくイノベーションが求められています。だからこそ、常に最先端で革新的な研究レベルを追求しなければなりません。

 現在、大学院は、農学研究院と工学研究院に分かれていますが、この2つに加えて、グローバルイノベーション研究院を設置、ここで、世界から著名な研究者を招聘して、本学の研究員と一緒に研究に取り組んでもらっています。食料とエネルギー、ライフサイエンスの3分野に的を絞って、9つの戦略チームで、研究に取り組んでいます。

テニュアトラック制度で優秀な若手教員を積極雇用

国立大学トップ級の評価がある研究水準

国立大学トップ級の評価がある研究水準

-- 研究者の養成も重要なミッションですね。

松永 本校の学生の多くは大学院に進みます。そして、先生からの刺激を受けて研究に参加しています。国立大学として、研究の場と指導者を提供することは重要なミッションです。

 また定年の延長などもあって、ベテランの先生が長く活躍できるようになったのはいいのですが、そのため若い先生の活躍の場がせばめられる弊害がありました。そこで、テニュアトラック制度というものを導入しています。若い研究者に5年間の期限付きで研究室を持たせる。そこで成果を出せば正式に雇用し、研究室を存続させる。

 最初の募集では全国から多数の応募があり、22人の若手研究者を採用。そのうち19人を現在、正式雇用して研究室が存続しています。今では全教員の20%くらいがテニュアトラック経験者になり、組織の活性化が図られています。

 その結果として、論文数の伸び率は国立大学の中で本校がトップとなりました。またトップ10%に数えられるほどの質の高い論文の増加数でも第3位となり、確実に成果が出ています。

武蔵野の豊かな緑に囲まれた小金井キャンパス

武蔵野の豊かな緑に囲まれた小金井キャンパス

-- 大学運営において少子化の影響が懸念されています。

松永 学部生は4学年で4千人程度、大学院生が2千人程度です。志願者数も減少せず、就職面でも良好な結果が出ています。志願者の出身地については首都圏が多いのは事実ですが、全国区という意味では東京大学に次ぐレベルだと思います。

-- 規模ではなく質で勝負しているということですね。

松永 最先端の研究に取り組める環境作りが優先で、規模は求めていません。留学生に関しても同じで、ただ学生を海外留学させる、海外から学生を招くのではなく、いかに優れた学生や研究者を招くか、どれだけ優れた研究をしている機関に留学をさせるかということが重要です。しかし、日本は最先端の研究も活発で、情報も集まりやすいので、最近の学生は海外に出たがらない傾向があります。異なる環境で研究を経験することは非常に重要なので、もっと国際交流を増やしたいと思います。

--最近は女性の研究者も増えていますね。

松永 学生の25%が女性なので近い将来、教員の方も同じくらいの割合にしていきたい。そこで大学の敷地内に保育所を誘致したり、女性未来育成機構という組織を作って、女性研究者の育成、フォローに取り組んでいます。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る