再生医療ベンチャーの日本における草分け的存在だった長谷川幸雄氏(現会長)から社長を引き継いだ橋本せつ子氏。セルシードが設立されて13年、これまでが研究開発中心だったとすれば、今後は収益化が最大の目標となる。聞き手=本誌編集委員/清水克久 写真=佐藤元樹

 

改正薬事法の成立など、事業環境は追い風に

独自の技術が生かされている細胞シート

独自の技術が生かされている細胞シート

-- 再生医療が今、脚光を浴びています。再生医療の新法と改正薬事法が成立するなど、法的な整備も進み、御社にとっては追い風ではないですか。

橋本 再生医療を治療法として確立させるには、これまでは薬事法に基づいて医薬品あるいは医療機器として承認を得る必要がありました。しかし、それには10年単位での時間がかかったのです。しかも、患者さん自身の細胞を使う再生医療においては、従来の化学薬品と違ってデータにバラツキが出やすい。そのせいで、これまでの審査方式ではうまく評価できないという問題がありました。それが今回の一連の法改正で、従来型の医薬品とは異なる基準で審査をしていくことが認められました。

 2012年に京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞したことも追い風になったと思います。向こう10年で国としても1千億円単位の研究予算を組んでいます。もちろん、それだけ研究開発に予算を投下するのですから、事業化、産業化が進まなければならない。当社もその環境の中で、いかにすばやく自社の研究成果を事業化できるかが問われていると思います。

-- 設立から13年がたち、いよいよ収益事業に結び付けていくということでしょうか。

橋本 当社は「細胞シート工学」という再生医療の基盤技術を持っています。そこについては東京女子医大をはじめとする大学と協力して、地道な研究開発を行ってきました。それが事業化のフェーズに入ったということです。

 今回の薬事法の改正は、世界的にも先進的な取り組みです。これまで日本は研究開発については先進的でも、事業化のレベルでは欧米に先を越されていたケースが多かったのですが、再生医療については、日本がトップを走る可能性があります。その意味でまさに再生医療元年と言っていいでしょう。

-- 具体的に御社が持つ技術はどのようなものなのですか。

橋本 再生医療は患者さんの細胞を採取して、いろいろな形で加工して患者さん自身にその細胞を戻すことによって、失われた機能を補完することが中心です。ここで問題になるのが細胞を体内に戻す方法です。培養皿で細胞を培養するのですが、その細胞は培養皿に貼り付いています。この貼り付いた細胞を剥がすために、これまでは酵素を使っていたのです。しかし、酵素を使うと細胞のタンパク質を破壊してしまい、完全な状態の細胞、健康な細胞を体内に戻すことが難しかったのです。

 ところが、当社は特殊なポリマー(温度応答性ポリマー)で培養皿を加工します。このポリマーは温度によって性質が変わるもので、通常37度程度で細胞を培養するのですが、いったん、これを20度くらいまで冷やすと細胞を壊すことなく回収することができるのです。

再生医療における基盤技術で絶対的な自信

-- 実際に事業化するにはどのような分野が考えられるのでしょうか。

橋本 最もシンプルなビジネスとして、温度応答性ポリマーを用いた器材の販売ビジネスがあります。次に、受託による細胞加工業があります。これまで臨床研究等に用いる細胞の培養や加工は医師しかできませんでした。それが今回の再生医療新法で、細胞加工の受託が認められるようになったのです。医師は治療に専念し、細胞の培養や加工といった特殊な作業は当社のような専門技術を持った企業が行えるようになりました。

 また、従来から取り組んできましたが、再生医療そのものを事業にしていきたいと考えています。当面、当社の事業としてはこの3つの柱を意識しています。

-- 再生医療には注目が集まる中、競合する企業も多いのではないでしょうか。

橋本 当社の強みは、再生医療に関する基盤技術、つまり細胞を加工して体内に戻すことについて、欠かすことができないプラットフォーム技術があることです。この技術なくして再生医療は成立しないとも言えます。この温度応答性ポリマーの技術を持っているのは、当社だけなのです。この点は圧倒的な強みだと考えています。

-- 再生医療の業界というとベンチャー企業が多く、収益化には各社、とても苦労している現実があります。

橋本 確かにこれまではベンチャー企業が多かったのですが、事業化への道筋ができたことで、大手企業も参入してくることになります。

 そうすることで、さらに技術が進歩し、再生医療のコストダウンも進むので、全体としてはとてもいいことだと思います。当社はその中で、業界の老舗として責任を果たしていかなければならないと思っています。

 

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界8月号
[特集]
会社が変わる時

  • ・伊藤秀二(カルビー社長兼COO)
  • ・星野佳路(星野リゾート代表)
  • ・森山 透(三菱食品社長)
  • ・笠原健生(クアーズテック社長)
  • ・駒村純一(森下仁丹社長)
  • ・小渕宏二(クルーズ社長)
  • ・大山健太郎(アイリスオーヤマ社長)
  • ・秋本英樹(リンガーハット社長)

[Interview]

 糸井重里(ほぼ日社長)

 クリエーターの僕が経営者になった日

[NEWS REPORT]

◆誕生10年! iPhoneは世界をこう変えた

◆インディ500とル・マンにF1 モータースポーツの経済効果

◆Jリーグ放送権喪失後の展開 スカパー! はどうなるか

◆売り手市場の就職戦線に笑うものなし

[政知巡礼]

 下村博文(衆議院議員)

 「教育立国こそが、国家として目指す道」

ページ上部へ戻る