世界の大学ランキングで東京大学の順位は低迷している。その現状を打開するために濱田純一総長は、〝秋入学〟を梃子にグローバル化を提起したが、実現には至っていない。しかし改革の手は緩めず、推薦入学制度の導入など、次々と新機軸を打ち出している。 聞き手=本誌・清水克久 写真=佐藤元樹

 グローバル化は教育、研究水準を高める手段

濱田純一(はまだ・じゅんいち) 1950年兵庫県生まれ。東京大学法学部を卒業。同大学大学院博士課程単位取得退学。東大社会情報研究所教授、所長などを歴任し、2005年に副学長。09年第29代総長に就任。

濱田純一(はまだ・じゅんいち)
1950年兵庫県生まれ。東京大学法学部を卒業。同大学大学院博士課程単位取得退学。東大社会情報研究所教授、所長などを歴任し、2005年に副学長。09年第29代総長に就任。

-- 大学改革の最重要課題はグローバル化でしょうか。

濱田 もちろん、グローバル化は最大のテーマです。ただ、グローバル化という言葉のとらえ方は考えなければなりません。直観的には英語ができて海外で活躍するということなのでしょうが、それだけではない。今、多様化の時代と言われていますが、さまざまなものの考え方からいろんな生き方まで多様化しており、世界の知や経験を取り込みながら多様性を生む新たな教育を確立することが、グローバル化です。つまり単純に講義を英語で行い、留学生を増やせばグローバル化になるということではなく、従来のやり方をブラッシュアップするために、いろいろな改革が必要なのです。

-- 国際的な大学ランキングで、日本の大学の評価は東大をはじめ低迷しています。

濱田 東大のランクはこのところ回復基調で、今年も日本の他の多くの大学がランクを下げる中、東大は踏み止まりました。もちろん、アジア・トップです。さまざまな指標で採点されていますから、それなりに価値はあると思います。ただその指標の中には、教員当たりの産業収入力に加え、どれだけ多くの外国人学生や外国人教員がいるかといった点が指標になっている。でも私は数ある指標の中でも最も重要なのは、研究力と教育力だと思います。留学生を多数集めることに注力して教育力が疎かになったり、資金調達に奔走して研究力が下がるといったことはあってはなりません。

-- グローバル化は手段のひとつであり、グローバル化そのものが目的ではない。

濱田 これまで、ほとんど日本人だけで高い学術水準を達成できたことは誇るべきです。ただ、もっと伸びていこうとすると国際的なものを取り入れていかないと駄目だと思います。日本という狭い枠の中で考えていても、いずれ頭打ちになる。次のステップに進むために、多様なものの見方、発想というものを取り入れていくという意味で、グローバル化が必要なのです。

 学生も同じで、入学時の実力は世界のトップレベルの大学の学生と比べても遜色ないのですが、卒業時に差が付いている。その理由のひとつには学生時代に異質なものにぶつかっていないということがあると思います。

 

4学期制は秋入学への着実なステップになる

東京大学「赤門」

東京大学「赤門」

-- 東大生は日本最高のエリート集団ですが、濱田総長は、〝タフな東大生に〟という言葉を発しておられますね。

濱田 一部の学生は、何もしなくてもどんどんいろんなことにチャレンジしています。しかし中間層の学生は頭は良いし、大抵のことはできるということに満足してしまっているきらいもある。そういう学生たちが外に出て、いろんなものとぶつかって苦労すれば、もっと伸びます。私は〝グローバルに、タフに〟と言っていますが、グローバル化とタフになるということはセットだと思います。

-- 大学のグローバル化の一環として、秋入学の構想があったと思うのですが、これは断念されたのでしょうか。

濱田 断念するつもりはありません。私は日本の大学はいずれ、秋入学が主流になると思っています。これだけ世界の垣根が低くなっている中で、向こう半世紀先までも、今のままの春入学かというと、それはあり得ません。ただし世の中の状況が変わり、それからやむを得ず秋入学を導入するのでは後れを取ります。時代の趨勢はグローバル化にあるのですから、1日も早くグローバル水準に合わせなければならない。むしろ、秋入学に至るまで、どれだけ早く段階を踏んでいけるかが大事です。

-- このほど導入した4学期制は、秋入学へのステップなのでしょうか。

濱田 そうです。4学期制のサイクルになれば、9月入学への移行はもちろん、サマースクールへの参加や留学もしやすくなります。秋入学は、一部の大学で既に実施しているところもありますし、大学院でも秋入学はあります。東大では秋入学式をやっていて、500人以上が入ってきます。そういうところをどんどん拡大させるなど秋入学の拡充と推進が必要なのです。

 もちろん、4学期制を飛ばして、秋入学にしたかったのですが、社会や学内の準備を含めて、4学期制というステップを踏んだほうが良いと判断したのです。ゼロか1かで選択せず、できることから確実に素早くやっていくことが、急速なグローバル化への対応では不可欠です。

教育内容変革のキーワードは〝双方向性〟

正門

正門

-- 秋入学で教育内容はどう変わりますか。

濱田 秋入学を実現したから、教育内容が国際水準になるわけではありません。教育の中身、授業をどうするか、もっと言えば教育哲学をどうするか。そういったことをしっかり考えておかないと、秋入学だけを導入しても意味はない。

 教育内容の変革を考えたときに、キーワードになるのは、主体性と能動性を基盤とした双方向性だと思います。議論しながら自分の考えをつくっていく、自分の表現力を鍛えていく。英語教育でも、単語を数多く覚えるだけではなく、英語で自分の考えをきちんと表現する、相手の考えを理解する力を身に着けることが重要です。ですから、教育をグローバル水準にするというのは、実際には教え方だったり、表現の仕方、論理の立て方、説得の仕方、グループワークの仕方など、そういったものを海外のトップレベルの大学で学ぶ学生達と同じ水準にもっていかないといけないのです。

-- 単純に、欧米の大学のマネをしてはいけないのですね。

濱田 英語をベースに、英語の文化の枠組みで知識や思想や論理を組み立てていくという英米の大学のような国際化はあり得ないと思っています。まず、日本語をベースに国際的に通用する研究、教育ができていることが基本です。それを高めていくために、共通語である英語のほかにさまざまな外国語を活用して、そうした言語の上に成り立っている文化や思想、制度や技術と格闘していく。そういう多様性の坩堝の中で、国際的な大学ランキングでの上位も狙っていくのです。英米のトップ大学と同じことをするのではなく、日本の大学として売りをつくっていかなければ、存在意味はない。

 Times Higher Educationのランキングには、評判ランキングというものがあります。これは、世界中の大学関係者にヒアリングして、どの大学の研究や教育が良いかといったことを聞きだしていくのです。このランキングだと東大は10位前後にいます。文系なども英語の論文数は少なくても、外国の大学と活発な議論をしている、そういったことも含めての評価になっています。単に英語で講義をしているかという評価ではなく、内容で評価されているのです。

 日本の文化や制度を研究するのに、英語で勝負しろというのは間違っていて、むしろ研究内容を国際水準に高めることが大事です。そこからエッセンスを英語で発信して世界と交流を深めるきっかけにする。理工系はもちろんすべて英語の論文ということがベースになるでしょうが、文系は必ずしもそうである必要はありません。

〝東大卒〟なら将来が安泰という時代ではない

-- 研究、教育の質を高めるためのグローバル化ということですが、卒業生の就職状況も、大学の評価としては1つの指標になるかと思います。

濱田 かつて文系、特に法学の学生は官僚になるという流れもあったのですが、昨今は官僚の人気低下があります。これは悪いことではなく、多様化という意味で良いことだと思っています。官僚になる学生も、今まで以上に創造的なスタイルの官僚になってほしいですね。起業したいという学生も増えていて、学内のアントレプレナー道場などは人気があります。ただ全員が起業しなくてもいいのです。そういったマインドを持って大企業で働くという選択肢もあります。今話題の新興企業にも東大のOBが増えています。

-- 推薦入学もスタートするそうですね。

濱田 今まではペーパーテストを通った学生の中から、面白い学生を育てようという考えだったのですが、少し広げて、ペーパーテストの枠外からも面白い学生を集めようということです。ペーパーテストも50年後も今と同じ制度かというと、そんなはずはない。ペーパーテストの内容や性格も変わってきます。私は、中学、高校で必死に詰め込み勉強をしてくることにも大事な価値があると思います。それは、主体的で創造的な学びの基盤になります。ただ、詰め込み勉強だけで終わったらしょうがない。大学に入ったら学び方を切り換えないといけない。推薦入試の導入は、これからさまざまな形態の入試を考えていく実験ともなると思っています。東大が多様な学生を求めている、大きなメッセージになるでしょう。

-- 学生に対して多様性に順応させる工夫はありますか。

濱田 来年度からそうした工夫が盛り込まれたカリキュラムになります。また、社会的・国際的な体験活動のプログラムもさらに充実させていきます。既に、平成25年度から初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)というものを実施しています。これは入学直後の学部生が自ら申請、1年間の休学期間を取得して、ボランティア活動や就業体験活動、国際交流活動など、長期間にわたる社会体験活動を行い、そのことを通じて自らを成長させる、自己教育のための仕組みです。あくまでも学生の自主的な活動になっています。欧米ではギャップイヤーと言われる仕組みが定着していますが、その日本版です。

 昔は東大卒というだけで将来は安泰というイメージがありましたが、今はそういう時代ではない。だからこそ、グローバルで、タフ、付加価値がある人間に育ってほしいと思っています。

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