現金に対する不安を解消し日本の繁栄を牽引する企業に―ADVASA
2019年2月22日
2017年4月にフィンテックを手掛ける企業として誕生したADVASA。ITベンチャーにありがちな高揚感は見られない。テクノロジーありきではなく、「日本の勤勉な労働者の力になりたい」という思いから繰り出すビジネスには、明日の日本を救う可能性が秘められている。
非正規労働者の不安解消こそ明日の日本を開く道だ
「久保田さん。パートやアルバイトの採用を増やしたり、離職率を下げる良いアイデアはないかな」
久保田俊輔代表はクライアントである大手飲食系企業のトップから投げ掛けられた言葉に足を止めた。それは、その企業から依頼を受けていたエグゼクティブヘッドハントのプレゼンが無事に完了した時のこと。
「申し訳ありません。弊社の人材紹介はエグゼクティブに限定しているため、パート・アルバイトに関する知見は持ち合わせていないのです」
そう答えを返しながら久保田代表は頭の片隅に常にかかっていた靄が晴れていく感じを覚えていた。
久保田代表は、大手カード会社で実務経験を積んだ後に現在のエグゼクティブヘッドハントのキャリアを重ねてきた。いずれもパート・アルバイト層と深く関わる現場ではなかったが、学生時代のアルバイト経験から、非正規労働者の苦労が身にしみて分かっていた。
「これをなんとかしないと日本はヤバイぞ」。これが頭の片隅の靄の正体。
「企業も困っている。双方が満足できるサービスを生み出せれば、社会貢献になる」。
久保田代表は、これまで得てきたファイナンスとリクルーティングの知見を活用する新事業を始める決意を固めた。
現在の日本には2千万人を超える非正規労働者がいる。貯蓄額が少ない彼らは常に手持ちの現金に不安を抱えて生活している。労働基準法は非常時に限定して賃金の前払いを企業に義務付けているが、労働者にとっての非常時を企業側が認めてくれるとは限らない。
そこで現金が不足したときに頼るのは消費者金融やカードローンとなり、それが多重債務問題を生む要因にもなっている。
「労働者が働いた分の賃金を、いつでも受け取れる仕組みがあれば、借金をしなくて済む。そしてそんな制度を導入している企業には、求人への応募も多くなり離職率も下がる」。
賃金を前払いするサービスは、現在のきらぼし銀行が2000年代半ばにスタートさせた「前給制度」が源流である。非正規労働者の増加とともにニーズは高まり、金融機関だけでなくITベンチャーもフィンテック企業としてこの分野に参入し始めた。
17年の金融庁の調査では、20社超の企業が同種のサービスを展開している。しかし労働者目線のサービスがあまりにも少なかった。久保田代表は労働者のためにADVASAを17年に起ち上げた。
コンプライアンスを信用の源に社会のプラットフォームとなる
「ITさえあれば、参入障壁が低そうに見えますが、それは大きな勘違いなのです」
このサービスはどれも同じように見えるが、実は中身のシステムや、ビジネスモデルの法的構成は各社で異なっている。中には労働基準法などに違反している可能性が高いサービスも存在する。
また、この仕組みを導入することで企業側の負担が増えてしまうと浸透していかない。ADVASAは事業開始前に、コンプライアンスファーストを定めた上で、導入企業側の費用、業務負担をかけない仕組みにできるかを、徹底的に検討を重ね、盤石の体制を固めていった。
「当社は単なる賃金の前払いのようなサービスを提供する企業ではありません。現在は労働者の勤怠情報を基に資金を提供する形ですが、IoTによる行動履歴、健康管理状況の集積、決済情報などを活用した資金提供サービスを展開しています」
同社は「勤勉な労働者に健全な労働環境を提供する」をミッションに掲げている。日々の現金を求める人の数が増える社会では、そのニーズに応えられる制度を導入している企業に人が集まる。同社のサービスを導入したある企業は、応募数が8倍に跳ね上がったそうだ。
久保田代表は仮説の正しさを自信に換え、さらに大きなビジョンに向けて進もうとしている。手始めが消費税増税に伴うキャッシュレス化推進に向けた施策。既にシステム開発は完了し、金融機関との連携も進めており、19年から順次各種新サービスをローンチする予定だ。
また、自らが貸金事業者の認可を受け、少額の融資や決済サービスを提供するためのシステムも現在開発中だ。「利息、手数料が中心となるビジネスモデルは変革が必要です。狙いは利用者から得られるビッグデータ。私は勤勉であることが与信に結び付くべきだと考えています。今はそのような仕組みがない。全く新しい与信ロジックを構築することで、勤勉な労働者を支援する、それが日本の繁栄に役立つと信じています」。
その視線は、海外での展開や、入管法改正に伴って増える外国人労働者の利便性向上などにも向いている。
「当社の技術力とコンプライアンスは金融機関から高い評価を受け、複数の連携話が進んでいます」
現在は「現金がないから」利用する人が中心だが、今後は「便利だから」利用する人が増えていくだろう。同社の事業が社会全体のプラットフォームになる日も近そうだ。
会社概要
設立 2017年4月
資本金 5,000万円
事業内容 労働者への資金提供スキームの開発・提供、ブロックチェーン、IoT技術を活用したシステム開発、Fintech関連サービスの開発・提供
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