インターネットを通じて企業が直接欲しい人材に声を掛ける「ダイレクトリクルーティング」。欧米では定着しているこの手法を2009年に日本で初めて仕掛けたビズリーチは、社会課題をテクノロジーで解決することを目指すHRテック・ベンチャーだ。文=榎本正義

 

南 壮一郎・ビズリーチ社長プロフィール

南壮一郎氏

みなみ・そういちろう 1976年生まれ。99年米国タフツ大学を卒業後、モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)入社。2004年楽天イーグルスの立ち上げに参画。09年ビズリーチを創業し社長に就任。

 

求職者と採用企業が直接交流

 

 即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」、挑戦する20代の転職サイト「キャリトレ」、人材活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」、求人検索エンジン「スタンバイ」、事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」などを展開するビズリーチ。「インターネットの力で世の中の選択肢と可能性を広げていく」をミッションに掲げ、人材領域を中心としたインターネットサービスを2009年から運営している。求人中の企業と求職者を直接結び付けるプラットフォームビジネスで急成長を遂げた。

 少年期と大学生時代を海外で過ごし、米国証券会社を辞めてプロ野球球団創設に身を投じた経歴を持つ南壮一郎氏が手本にしたのは、フリーエージェント(FA)制度だ。

 南氏は、インターネット事業に携わりたいと、プロスポーツ事業の世界を07年に退職し、求職活動を始めた。

 ところが、自ら情報収集に走り回らなければならない転職の不便さを痛感する。FA制度のように、求職者に求人中の企業が直接声を掛ける事業モデルを作れないかと考えたのがビズリーチの起業につながった。

 「流通や小売りの世界では、かつては売り手と買い手の間に卸売問屋などが介在し、直接取引できませんでした。しかし、インターネットの普及によって、これができるようになりました。人材採用の世界でも同様で、採用する側の企業と求職中の個人が直接交わることはできなかった。これを実現したのがダイレクトリクルーティングという仕組みです。転職サイト『ビズリーチ』には毎月約4万人の即戦力人材が登録し、平均年齢は約40歳、管理職や専門職、グローバル人材などさまざまです」

 

人材紹介業の市場規模は10年で2倍に

 

 09年4月サービスを開始した「ビズリーチ」の会員数は160万人以上、導入企業数は累計1万500社以上。14年4月からサービス開始した「キャリトレ」は会員数54万人以上、導入企業数6600社以上となるなど、採用という受け身の仕事を主体的で能動的な仕事に変えてきた。

 「私がこの転職サイトを始めたとき、転職することはまだ一般的ではありませんでした。しかし、医療の発達や食生活の変化などいろいろな社会の進化によって、人間はより長く生きられるようになりました。同時にIT技術の進歩によって、あらゆる産業の環境が変化しています。情報を大量に早く安く伝えられるようになったことで、すべてのビジネスモデルの寿命は短くなっています。

 働く期間が長くなる一方で、産業の寿命が短くなるということは、そこで働く人も、環境の変化に対応して働く場を変えて行くことが必要になります。これを裏付けるように、矢野経済研究所の資料によると、人材紹介業の市場規模は、この10年くらいで2倍以上になっています。このような社会変革の流れを予測してこのプラットフォームを作ってきたのが評価され、当社の成長につながったのだと思います」(南氏)

 

人材領域で培ったモデルを他の産業にも“横展開”

 

 ビズリーチは採用支援サービスだけでなく、働く個人の活躍と企業の生産性向上支援も行っている。

 16年6月に開始したSaaS型の人材活用プラットフォーム「HRMOS」は、あらゆる人材データを一元管理し、従業員のパフォーマンスを効率よく最適/最大化することができる。HRテックで採用を強くする「HRMOS採用管理」と、19年4月に開始した従業員データベース「HRMOS Core(ハーモスコア)」、人事評価クラウドの「HRMOS評価」の3つから成る。

 「社会の変化の速さによって、今までのマネジメントスタイルや目標設定と振り返りの頻度が実情に合わなくなり、随時アップデートしていかなくてはいけなくなっています。HRMOSは当初、当社で活用していたものですが、次世代の評価制度に対応したクラウドサービスとして正式リリースすることにしました」

 南社長は、人材領域で培ったIT技術によるこれらビジネスモデルを、別の産業にも“横展開”している。

 17年11月に始めた事業承継プラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」は、株式・事業の譲渡を検討している経営者と譲り受け企業をつなぐオンラインプラットフォームだ。経営者は、企業情報を登録しておくことで、自社の市場価値を知り、経営の選択肢の1つとして、事業承継M&Aを早期に検討することができる。

 今年3月には、横浜市、横浜企業経営支援財団(IDEC)と、事業承継で協定を締結した。このプラットフォームを通じて、市内企業の円滑な事業承継に取り組む。協定では横浜銀行など神奈川県内の金融機関とも連携し事業承継を支援する。今後はビズリーチが運営する「スタンバイ」などを通じ、市内企業の後継者や幹部人材の採用も支援する。

 「M&Aの領域も、人材領域同様、売り手と買い手のニーズが可視化されていませんでした。ビズリーチ・サクシードは、官民が連携し事業承継ニーズを徹底的に顕在化させるものです。当社のお客さまは企業であり経営者なので、そこに関わる課題はいろいろあり、それは国家課題でもある。子育ても、教育もそうです。そこに横たわる課題を徹底的に要素分解し、新しい技術を使って解決のための手段を提案することが、一番の社会貢献だと思います」

 

ビズリーチ・南社長の行動指針

 

 そんな南社長が、ここ数年最も大切にしている行動指針は、生き残るためには、常に変わり続けることであり、変わり続けるためには、常に学び続けることだという。

 社会の構造や常識がどんどん変化する中で、それに合わせるための必要不可欠なものがこれで、自分自身を何度も再定義していかないといけないのが今の時代だと気を引き締めているそうだ。

 ビズリーチはこの4月に創業10年目を迎えた。人材領域を皮切りに、次々イノベーションを起こしてきたが、次の10年でどのような世界を見せてくれるのだろうか。

 

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