経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

中道康彰

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2019年10月号より転載) 

中道康彰・家族葬のファミーユ社長プロフィール

中道康彰・家族葬のファミーユ社長

なかみち・やすあき 1967年京都府生まれ。90年京都産業大学経済学部卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)入社。2010年リクルートコミュニケーションズ社長。16年7月エポック・ジャパン(現家族葬のファミーユ)入社、17年6月社長に就任。

葬儀業界の慣習に違和感を持ち「家族葬」をブランド化

葬儀は手順や内容、忌み事などの作法やしきたりが地域ごとに大きく異なる。

地域の特定の病院と太いパイプを築くことで安定した“受注”が見込まれるため、地場の業者が強い面がある。地域の画一的な葬儀のメニューからプランを選ばせるケースも多い。葬儀は昔からその地域でつながりのある業者によって執り行われるのが慣例であり、そのため価格やサービスの面では不透明な部分も多いのが実態だった。

こうした慣習に違和感を持ったのが、エポック・ジャパン(現・家族葬のファミーユ)を創業した高見信光会長だ。宮崎県で葬儀社を営む家に生まれたが、外資系銀行に勤め、米国に留学してMBA(経営学修士)を取得した経歴を持つ。

その視点で家業と葬儀業界を見直し、これまでの葬儀の価値観にない「家族の意向を汲んだ、家族のための葬儀」である「家族葬」を会社設立時の20年前から手掛けてきた。

業界でいち早く家族葬をブランド化した同社だが、定着するにつれ他社も参入し競争が激化したため、さらに差異化を図るべく2016年からは、「世界に一つだけの葬儀」としてオーダーメード葬儀「オリジナルプラン」を始めた。

その発案者が、当時、リクルートから副社長として移籍したばかりの中道康彰氏だった。中道氏は、葬儀業界にイノベーションを起こしてきた高見氏の実績に加え、「葬儀再生は、日本再生」という大志を経営理念として掲げて経営していることに感銘を受け、誘いを受けたこともあって転職した。

「準備期間が極めて短い葬儀で、故人の趣味などをヒアリングし、オーダーメードの演出をするのは至難の業です。葬儀はやり直しがきかないので、執り行う者にとっては手順に従って進めたい。このため社内から大反対されました。でも私は生活者目線で考えたら絶対支持されるはずと考えて社内を説得しました。オリジナルプランは最初の6カ月間、受注ゼロでしたが、徐々に認知され、年間受注数は17年5月期が120件、18年5月期は460件、今期は倍増ペースの1千件の家族葬を執り行うところまでこぎつけました。来期は1500件に届くのではないかと思っています」と中道社長は確かな手ごたえを感じている。

葬儀会社は全国に約7千社あるとされるが、大半はごく限られた地域で展開する地場の事業者だ。それらの多くが大型の葬儀施設を抱え、その中で複数の会場を稼働させる手法なのに対し、家族葬のファミーユは、全国72の直営ホールをはじめ、7道府県にフランチャイズを含め100カ所近くの小規模な葬祭ホールを展開する。公営斎場・集会所・寺院など1千以上の葬儀場と提携し、8万件以上の葬儀に携わってきた。

葬儀社目線ではなく生活者目線で自分らしさを

「大きな会館だと、いくつも部屋があります。中くらいの大きさの部屋で自分たちの葬儀を行っている隣で非常に盛大な葬儀が行われていたら、みじめな気持ちになるでしょう。そこで1日1組限定の『家族葬のファミーユ』や、自宅のような空間と家族がひとつになる時間を提案する新ブランドの邸宅型家族葬『弔家の灯(とむりえのひ)』を15年から開始しました。これらは業界のやり方とは真逆で、当社の強みになっていますが、利益面では弱みでもあります。1日1組なので、近くに複数の会館を持っていないと別の葬儀社で、ということになってしまいます。しかし時間がたつにつれ、あそこは貸し切りでやってくれると知られてくると、その日に葬儀ができなくても待って下さるようになってきました」

中道社長は葬儀社目線ではなく、徹底した生活者目線を追求し、前出の家族葬ホール、オーダーメード家族葬、明瞭簡潔なセットプランの提供を行ってきた。オリジナルプランの平均価格は140万円と一般的な家族葬に比べ4割ほど高いが、引き合いは多い。

中道社長が生活者目線にこだわるのは、“人材輩出企業”と呼ばれるリクルート出身だからだろう。同社の創業者である江副浩正氏にあこがれて入社し、祖業のリクルートブックで営業マンとしてスタートを切った後、40代でリクルートコミュニケーションズの社長を務めた。現在は大半のモノやサービスに多くの選択肢がある。葬儀もそうならなければいけないし、この部分を大切にしていれば、大きく道を外れることはないとの思いがあるという。

「リーマンショックの際、世界中の多くの人が職を失い、希望を失うさまを見て、経営者の責任の重大性について考えざるを得ませんでした。あれだけの経済変動であっても雇用を維持し、耐え抜ける会社もあったので、それは経営者の力量の問題なのではないかと感じ、経営者は力量を磨かなければならないと痛感しました。勝ち抜くことや生き抜くことよりも、生かされることを大切に経営していきたい」(中道氏)

昨年10月には新業態の葬儀相談窓口「田町葬儀スタンド」をオープン。キャッチフレーズは「困った時の、クイック葬儀相談15分」。実際に葬儀を執り行う喪主は、50歳前後の働き盛り世代が中心だ。葬式や供養の手配を行う重要な立場として、事前準備の必要性が浮き彫りになっているが、その人たちが気軽に相談できる人や場所を整えてサポートしたいという思いから誕生した。

中道社長は今後の成長戦略として、M&Aを軸に直営ホールの47都道府県展開を目指すという。

「消費者にとって選択肢がないのは良くないと思うからです。葬儀も究極は、自分たちだけで葬儀社の手を借りずに行う“セルフ葬”を作り出したいとも考えています。葬儀社は、必要なものをコーディネートし、お手伝いする。それには技術的な問題などもありますが、自分らしさという選択肢がない世界は、いずれ支持されなくなると思うからです」

2~3年後には売上高を100億円台に乗せ、30年5月期には500億円を目指すという。拡大の道筋を描きつつも、顧客本位の葬儀を追い求める中道氏だ。