1929年の開校以来、日本画や油絵、彫刻などの分野で数多くの芸術家を育ててきた。専門的な技能を高める指導はもちろんだか、一方で、教養あふれる豊かな人間性の育成も重視、卒業生はプロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、クリエイター、映像作家など多彩な分野で活躍している。(聞き手/本誌編集委員・清水克久)

モノを作り上げる能力はビジネスにも通用する

-- 90年近い歴史を持つ美術系の大学としての特徴は。

学校法人武蔵野美術大学 理事長
天坊昭彦(てんぼう・あきひこ)
1939年生まれ。64年東京大学経済学部卒業。同年、出光興産入社。91年取締役、98年常務、2000年専務を経て02年社長に就任。09年会長。12年から相談役。10年学校法人武蔵野美術大学理事・評議員。12年より現職。

天坊 帝国美術学校として1929年に誕生しました。創立に尽力した金原省吾氏は、創立の理念として「教養を有する美術家養成」を挙げています。また、同じく創立に深く寄与した名取堯氏は「人間が人間になる道は激しい鍛錬、たゆまざる精進の中にあって、放任の中にはない、その框(わく)を固定させず、しかも、放縦に任せず、真に人間的自由に達するような美術教育への願い」が理想であると語っています。単に芸術家を育てるのではなく、総合的な人間形成を目指していたのです。

 ここでいうところの学びの総合力とは、教養ある専門家としての「人間力」を高め、コミュニケーション力を身に付けた「伝達力」を鍛え、そして「表現力」「語学力」を備えた人材を育成し、社会に貢献しようというものです。

-- 美術大学というと、専門性が重視されるので、一般の大学とは異なりますね。

天坊 私も最初は好きなことを気ままにやっている学生の集まりで、勉強熱心だという印象はありませんでした。ところが、実際はそうではありません。美術大学に入学するには、デッサンなどを学ばないといけませんが、その他の学力試験科目もあるので、簡単に入学できません。入学後も、実技科目では時間を惜しんで作品を作らなければなりませんし、その作品をプレゼンテーションすることも求められます。単にいい作品を制作するだけではないので、かなり高度な教養を身に付けて勉強しなければならないのです。本学の学生は、総じて真面目だと思います。

-- プロの芸術家を目指す人以外は、一般企業で相当活躍されているようですね。

天坊 先ほど申し上げたように、本学ではきちんとモノを創り上げ、それをプレゼンテーションできる人材を養成しています。実は、企業はそういった人材を求めているのではないでしょうか。素材や課題を自ら見付け、自分で創意工夫をしながら形にしていく。こういった訓練は普通の大学ではなかなかできません。インダストリアルデザインの分野で、大手自動車メーカーで活躍されているひとも多数いますし、建築系の企業で活躍されている人も多い。これらの企業に止まらず、「モノを創り上げる能力」の需要は非常に高いと思います。「モノづくり」と「ビジネスのデザイン」は意外と共通する部分が多いのです。

他大学や産学共同事業などのコラボレーションも

-- 専門以外の教育を充実させるためには何を。

天坊 すべての学生が専門と異なる領域を実習する「造形総合科目」や専門の基盤をより豊かにするために、広く諸学問を学ぶ「文化総合科目」など、特色あるカリキュラムを実施しています。また、早稲田大学や多摩地区にキャンパスがある国際基督教大学や国立音楽大学、東京経済大学、津田塾大学、東京外国語大学および本学で構成する「多摩アカデミックコンソーシアム」で単位交換制度を行っており、東京工業大学とは教育研究交流に関する連携協定を締結しています。

 その他、学外とのコラボレーションも盛んで、数多くの産学共同プロジェクトも実施しています。これらの活動を通して学生は大きな刺激を受け、今後の励みになるのです。

-- グローバル化への取り組みはどうですか。

天坊 前身の帝国美術学校時代から留学生の受け入れなどを行っており、国際化への取り組みは積極的でした。また2012年には文科省が募集した「グローバル人材育成推進事業」において、芸術系の大学としては唯一の採択校となりました。英語教育を充実させて、海外へ出て行く留学生を増やしていきます。美術には国境はありません。海外の美大とのネットワークを強化して多くの学生が海外で学ぶ機会をもち、視野を広げる環境づくりに努力します。

 また現在、武蔵野美術大学パリ賞という制度があります。これは1965年に創設した賞で、本学が使用権を有する「国際芸術都市」アトリエへの1年間の入居を認める賞です。ほかにも、スウェーデン国立芸術大学やデンマーク王立芸術アカデミー建築学部との合同ワークショップなど、さまざまな海外の教育機関、美術機関とのプロジェクトを進めています。

-- 今後の展望をお聞かせください。

天坊 今、デザイン系の学科の再編に向けて検討を進めています。鷹の台キャンパス(東京都小平市)の中を都道が通る計画があり、それに合わせて15年度末をめどに、キャンパス施設の移転、建築をしていきます。

 また、経営面で言えば、将来の人口減少を見すえて、新しい大学の在り方を考えなければなりません。時代の流れに対応した改革が必要なのは言うまでもありません、そのためにはまず、教職員の意識改革が求められていると思います。

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