世界有数の時計製造企業として知られるセイコーグループは、その精密加工技術を生かして、時計以外の分野でも幅広く事業を展開している。その中でもセイコーインスツル(SII)は、基幹となる電子デバイスなどを手掛ける企業だ。村上斉社長に現状と今後の経営戦略を聞いた。(聞き手/本誌編集委員・清水克久)

 

―― セイコーと言えば、時計という印象が強いのですが、電子デバイス等の分野でも高い信頼を得ていますね。

村上 1881年に服部時計店として時計の販売業で創業した後、1892年に精工舎を設立して国産時計の製造を開始。さらに1937年に腕時計の製造を目的に第二精工舎を設立、これが現在のセイコーインスツルの元になっています。その後、電子デバイスやコンピューター周辺機器等、事業の多角化を進めましたが、いずれの事業においても時計の製造技術が基盤となっています。1969年の世界初のクオーツウオッチ誕生を機に、液晶、CMOS IC等も当社が開発してきました。時計で培った精密加工技術は、自動車用金属部品や産業用インクジェットプリントヘッドなどの分野にも生かされています。さまざまな事業に多角化展開をしても、基盤となる精密加工技術を生かしていくという姿勢は変わらず、「モノづくり」を大事にした企業なのです。

―― 先日、セイコーホールディングスから第5次中期経営計画が発表されましたが。

村上 前回の中期経営計画では、時計中心の事業形態から電子デバイスを重視する方向になっていました。事実、売り上げ的には電子デバイス事業は大きいのですが、一方では競合も多く、利益面では厳しいものでした。そこで第5次中計では、原点回帰を掲げました。当社の基盤となるのは、時計の製造で培った精密で信頼性が高い技術です。各事業において、精密、信頼性が求められる分野をコア事業として特化し、選択と集中を進めています。

―― 選択と集中で判断する際のポイントは。

村上 当社の技術が生きる分野として「匠、小、省」のキーワードがあります。当社の半導体は、事業規模は小さいものの、低消費電力や超小型パッケージ化の技術が高く評価されています。スマホやタブレット以外に、車載ICや各種センサーICなど、今後大きく需要が伸びると考えられる分野も少なくありません。現在、電子デバイスの中には、多品種中小ロットが求められるジャンルがあり、そこで当社の技術を生かして、特化していきたいと考えています。

技術力を土台にソリューションビジネスへ

 ―― 事業分野には、3つの柱がありますね。

村上 ウオッチ事業、電子デバイス事業、システムソリューション事業の3つです。ウオッチ事業は当社の基盤であり、非常に安定しています。時計は工業製品でありながら嗜好品でもあります。嗜好品だからこそ、極めて高価な腕時計なども存在するのです。ただ当社は、宝飾的価値ではなく、実用時計の最高品質を提供しているという自負もあります。日頃、身に着けていただける時計を作っていこうというコンセプトが根底にあるのです。第2の電子デバイス事業は、アナログ半導体が中心事業ですが、近年伸びている事業として、産業用インクジェットプリントヘッドがあります。これはミクロン単位の微細な孔を開け、制御するという極めて精緻な技術が必要です。 いかにも当社らしい事業だと考えています。最近は、サイン看板等のプリントだけでなく、布地や建築材料へのプリントなど、業務用大型プリンター向けの需要も増えています。

― 第3の柱がシステムソリューション事業ですね。

村上 これは当社の中では比較的新しい事業です。一例としては、クレジット無線決済サービス専用端末や、非接触ICを用いた電子マネー専用端末の開発、販売、それら決済処理を行うための情報処理センターの運営等があります。近年、都内近郊を走るほとんどのタクシーに搭載されているクレジット決済システム等がそれにあたるのですが、決済端末開発、無線技術、セキュリティーなど、いずれも高い信頼性が求められます。また、最近注目しているのは、無線センサーネットワークを使ったエネルギー監視ソリューションです。これは温度や湿度、電力などを測定できる無線センサーを工場やオフィスに設置し、建物全体の温度や電力の監視と制御を行うもので、同じグループのセイコーソリューションズと協業しながら進めています。

―― 「モノづくり」を基盤として、それに関連するサービスを今後もグループ全体で提供していくということですね。  

村上 あくまでも土台となるのはモノづくりです。そこから派生するものとしてソリューション事業をとらえています。時計の製造という分野は、非常に高度な精密加工技術が必要で、新規参入が難しい事業です。当社はその分野で100年を優に超える歴史があり、それだけの技術の蓄積があります。この蓄積を生かして、電子デバイス、ソリューションビジネスを展開していきたいと考えています。

 

セイコーインスツル社長 村上 斉

【むらかみ・ひとし】

1952年生まれ。74年慶応義塾大学商学部卒業。同年服部時計店(現セイコーホールディングス)入社。2003年セイコーウオッチ取締役。05年同常務。08年セイコーホールディングス常務。10年セイコーインスツル取締役。12年和光社長。12年セイコーホールディングス専務。13年6月より現職。

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