福沢諭吉、新島襄とならび、明治の3大教育者と称され、女子教育のパイオニアと言われる成瀬仁蔵氏。同氏が1901年、日本最初の総合的な女子高等教育機関として創立したのが日本女子大学だ。少子化の影響などもあり、女子大学の経営は難しい局面にあるが、今後の大学運営について新理事長に話を聞いた。  聞き手=本誌編集委員・清水克久

110年以上の歴史を誇る理系学部を含む総合大学に

―― 女子大の名門として知られていますが、どのような特徴がありますか。

日本女子大学 理事長・学長
佐藤和人(さとう・かずと)
1977年東京医科歯科大学医学部卒業。81年同大学院博士課程修了。86年東京女子医科大学講師。94年日本女子大学家政学部助教授、99年同教授。2007年同家政学部長を経て13年4月に学校法人日本女子大学理事長・学長に就任(04年から12年まで東京医科歯科大学医学部臨床教授)。

佐藤 本学が創立された当時は、女子に高等教育が必要であるという発想自体がありませんでした。しかし、創立者である成瀬仁蔵先生が渡米した際、米国で生き生きと活躍する女性を目の当たりにして、日本の女性も同じように育ってほしいという思いを強くし、本学を創立したのです。建学の精神は、「女子を人として教育する。女子を婦人(女性)として教育する。女子を国民として教育する」です。この3つは、絶対に順番を間違えてはいけません。何よりもまず人間教育、人としての教育を優先するのです。その精神は今日も変わらず、息づいています。

―― 明治期に創立された女子大はほかにもありますが、それらと貴校の違いは。

佐藤 同時期にできた女子大は単科専攻が多いですが、本学は4学部を擁する総合大学です。理学部の学生が文学部の講義を聴くなど、学部を横断した学習もできるようになっています。また、近隣の早稲田大学、立教大学、学習院大学などと単位互換制度もあり、広く男子学生と一緒に学べる仕組みもあります。

 さらに、生涯教育を早い時期から意識しており、通信教育課程やリカレント教育課程など、女性が生涯学んでいく環境をサポートしています。

―― キャリア教育とは、職業教育のようなものですか。

佐藤 職業教育と言うよりも、女性としての生き方の教育と言った方が良いでしょう。女性が社会の中でどのように生きていくかの道標となるような知識を身に付け、実際に自ら己の進む道を考え、実践していくときの手助けになるような教育を目指しています。

―― 家政学部、文学部、人間社会学部、理学部の4学部の中で、看板の学部は何ですか。

佐藤 どの学部にもそれぞれ特徴があり、ひと言では言えませんが、強いて挙げるとすれば家政学部でしょうか。そもそも日本における家政学とは、本学が生み出した学問でもあります。イメージとして古めかしく、家事を学ぶ良妻賢母育成の学問と思われがちですが、そうではありません。人間の生活、安全を科学するサイエンスなのです。衣食住、子育てなど、人間の生活そのものに関する総合科学ですから、まさに、今の時代に求められている学問の1つだと思います。

 家政学部を志望する学生は、学部内の特定の学科を志望してくる人が多く、初めから強い目的意識を持っています。そのような学生に、単科大学にはない総合大学の利点を生かした学部横断的な幅広い教育を行っています。

 人間社会学部も、日本では本学が初めて設立した学部です。文学部の日本文学科、英文学科も創立当初からの歴史があります。理学部は私立女子大学では本学が唯一です。

 総合大学としてはそれなりの規模ではありますが、学生数に対する教員の数は多いと思います。また、学科単位でみると、一つひとつの学科は小さいのですが、それゆえに少人数教育を実現できています。規模の大きさと、きめ細かさの両方を生かした多彩な教育を行っています。

 少子化の影響で、今後入学志願者の減少が懸念されますが、幸い、総志願者数からみると現状ではその影響はありません。20年前の志願者数が1万2千人程度、10年前が1万4千人、昨年度は1万3千人と堅調に推移しております。

創立時の理念を原点に共学化はありえません

―― 8年後の創立120周年に向けた方針は。

佐藤 120周年に向けて、本学が育成する学生像を描き、創立の原点に立ち返って「人として」の教育をさらに深化させようと考えています。それが、これからの時代を支える女性の育成に相応しいと思っています。それには本学が持つ人的・物的資源の総合力を発揮して教育にあたる決意を新たに、4つの科学系統(人間生活科学系・人文科学系・社会科学系・自然科学系)の教育・研究を目白キャンパスにおいて展開します。緑豊かな西生田キャンパス(川崎市)では、地域との連携を保ちながら、目白キャンパスと相補的な教育・研究環境の充実を図っていく予定です。

―― 近年は女子大の共学化、新キャンパス建設や新学部設立など、さまざまな動きがありますが、今後の戦略は。

佐藤 本学は創立時から、女子高等教育を基本理念に掲げていますから、共学化はありえません。また、ハード面での改革は分かりやすく、即効性があるかもしれませんが、継続的になるかどうかは別の問題です。本学ではキャンパス整備などの学習環境の改善に加えて、長年培ってきた理念、本学の良さをきちんと理解していただくことを重視していきます。創立120周年の改革も、本学の良さをさらに引き立たせ、際立たせるために取り組んでいく方針です。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界10月号
[特集]
リーダーの育て方

  • ・吉田忠裕(YKK会長CEO)
  • ・金丸恭文(フューチャー会長兼社長)
  • ・酒巻 久(キヤノン電子社長)
  • ・山極壽一(京都大学総長)
  • ・立川理道(ラグビー日本代表主将)
  • ・武内 彰(都立日比谷高校校長)

[Interview]

 尾崎 裕(大阪商工会議所会頭)

 大阪を“実証事業都市”として広く喧伝し、人材・投資を呼び込みたい

[NEWS REPORT]

◆1兆円M&Aをぶち上げた三菱UFJ信託の未来像

◆誘拐事件の解決にも使われる中国・百度のAI技術

◆中計見直しに追い込まれたNEC「再成長の鍵」は

◆日本橋に空が戻り、東京は三度水の都となる

[政知巡礼]

 太田昭宏(衆議院議員)

 「未来を見据えて今何をすべきか考えるのが政治家の仕事」

ページ上部へ戻る