都市圏への人口流入が続く中、国立といえども地方大学の運営は楽ではない。しかし長崎大学では、学長をリーダーとするトップダウンで教養教育の質向上に努め、今年4月にはグローバル化を視野に入れた「多文化社会学部」を設置するなど、大学改革が急ピッチで進んでいる。 (聞き手/本誌編集委員・清水克久)

片峰 茂(かたみね・しげる) 1950年長崎県生まれ。76年長崎大学医学部卒業。82年東北大学大学院医学研究科修了。85年米国国立癌研究所国際研究員。長崎大学同助教授を経て、98年教授。副学長、学長特別補佐を経て2008年から現職。

片峰 茂(かたみね・しげる)
1950年長崎県生まれ。76年長崎大学医学部卒業。82年東北大学大学院医学研究科修了。85年米国国立癌研究所国際研究員。長崎大学同助教授を経て、98年教授。副学長、学長特別補佐を経て2008年から現職。

歴史ある個性を軸に多様性を担う人材を輩出する長崎大学

-- 若年人口の減少で地方の国立大学も厳しいですね。

片峰 人口減少に加えて受験者が首都圏に流れており、地方大学は総じて厳しい。しかし首都圏への一極集中は良いことではありません。多様化する世界のニーズに対応できる人材を輩出するためには、地域による多様化もまた重要な要素なのです。

 長崎という街は、歴史的に見ても非常に個性豊かな街です。江戸時代は「出島」という唯一の外国との窓口があり、幕末には開明の志士が全国から集った。江戸時代末期、最新の学問は長崎から伝わっていったのです。また原爆による被爆の体験もあります。日本の西端にあって、中国大陸と向きあっている。こういった街で学ぶからこそ、多様性に対応できる価値観を持った人材を育成できるのです。

-- 貴大学の特徴とは。

片峰 まず、医学部には戦中から熱帯医学の研究所があり、感染症の研究では日本、中でも長崎大が世界をリードしています。戦後の一時期、日本で感染症が減少した時に、他大学では、別の研究分野に関心が移っていきましたが、本学では感染症の研究に注力する姿勢を変えず、アフリカでも半世紀以上にわたり、最前線で研究に取り組んできました。ケニアには、本学からのスタッフ10人、現地スタッフ100人以上を擁する一大研究拠点があります。今後は、医学だけではなく、工学、水産学の研究者も送りこんで、アフリカでの水資源の活用、養殖技術の普及に取り組みます。さらに、「グローバルヘルス」というキーワードの下、ロンドン大学と共同で新たな大学院を立ち上げる予定です。

 放射線の健康被害、医療にかかわる長年の研究は、もう1つの特徴です。同じ被爆都市の広島大学には当時医学部が無く、本学の医学部が世界で唯一、被爆を経験しました。ですから、放射線の健康被害にかかわる研究は、本学最大のミッションとも言えます。福島第一原発の事故の際も、いち早く現地に駆け付けて、被ばくに対する健康リスク管理に取り組みました。

長崎大学は、個性重視で偏差値によらない入試制度の改革を

緑豊かなキャンパス(長崎市)

緑豊かなキャンパス(長崎市)

-- 文科省もグローバル人材育成を課題にしていますね。

片峰 本学が目指すのは「長崎大学ブランドのグローバル人材」の育成です。本学には校風というか、確固とした個性があります。東日本大震災の時には、医学部のスタッフが放射線リスクマネジメントのために一番に現地入り。水産学部も支援物資を満載した船を震災直後の3月14日に出航させました。海路で支援物資を運んだのは本学が最初です。この初動の早さもさることながら現場重視、危機的状況での強さ、行動力は本学の個性だと思っています。

-- 教育面の改革も急ピッチで進めているそうですね。

片峰 今、教育面で取り組んでいるのは、アクティブラーニングへの転換で、可能な限りすべての授業を変えていきます。その一環として、教養教育を改革しました。かつて教養教育というと、多くの授業の中から学生が選んで学ぶもので、広く浅くでした。この広く浅く方式を廃し、7〜8科目の教養科目を組み合わせた25のモジュールをつくり、学生が関心のあるモジュールを選ぶスタイルに変えました。例えば「核兵器のない世界を目指して」というモジュールでは、核分裂反応について学ぶ物理学から国際法まで核兵器廃絶という軸に沿った授業が集められ、そこから系統だった考え方を身に付けてもらいます。

多文化社会学部の新設を控えて昨年秋に開催された東京でのイベント

多文化社会学部の新設を控えて昨年秋に開催された東京でのイベント

-- 4月には「多文化社会学部」も設置しました。入試も大胆に改革したそうですね。

片峰 実学中心だった本学に、多文化社会学部という人文社会系の学部を新設しました。この学部は、全学生に海外留学を義務付けています。初年度の募集人員100人に対して38都道府県から3・5倍の志願者がありました。情報が行き届けば、次年度はさらに多くの学生が志願するものと期待しています。

 この学部では、偏差値偏重からの脱却を狙っています。センター試験からの配分は、300点満点のうち英語が200点です。高校時代にTOEFLやTOEICで一定の得点を取った学生はセンター試験の点数を満点扱いにしました。一般入試も、高難易度の英語と総合力を問う問題を用意し、かなり特徴的な入試です。偏差値によらず本学で学びたい学生を全国から集める目的でしたが、一定の成果を得られたと感じています。

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