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山下俊彦の名言「25人抜きは、僕ひとりでたくさんですよ」

パナソニック3代目社長の山下俊彦氏といえば、25人抜きで社長に就任した「山下跳び」で有名だが、師である松下幸之助翁とは、どのような関係であったのだろうか。山下氏に幣誌主幹の佐藤正忠が話を伺った時の記事である。(1984年新春合併号)

 

山下俊彦氏が相談役(松下幸之助氏)から教わったこと

 

山下俊彦

山下俊彦(やました・としひこ)
(1919〜2012)大阪府出身。松下電器産業(現・パナソニック)3代目社長。高校卒業後松下電器に入社。77年、居並ぶ役員25人を抜いて一挙に社長に就任。“山下跳び”と話題になった。

佐藤 社長になってもうすぐ7年ですね。

山下 最初は無我夢中だったんですけど……。あまり長くやるとシンドイし、惰性になってきますね。

佐藤 春先に一度勇退説が出ましたね。

山下 あれは後継者づくりということが問題になって、結局留任することになったんです。これまでそのほうにあまり力を入れてこなかったですしね。それともうひとつは相談役(松下幸之助氏)の問題。

佐藤 松下さんなら「死ぬまで働け」と言うでしょうね。

山下 ええ、仕事が趣味の方ですから……。「88歳のオレがまだ働いているのに、64歳で退くなんて早い」と言っていますよ。

佐藤 山下さんからご覧になって松下さんはどういった方ですか。

山下 経営に対して執念を持っている方ですね。それと人づかいが上手です。

佐藤 松下さんとは呼吸が合っているようですね。

山下 相談役は松下電器を心配している。それには報告ではなく相談をこちらから持ち掛けていかないとならないと思っています。ただ、最初は激励されたけど、今はもう小言ばっかりですよ。「客を大事にする気風がなくなってきた」とか……。ただ、そういうことは確かにあるように思えるんです。

佐藤 会社が大きくなると、そうなりがちですね。

山下 相談役は腰が低いでしょう。われわれはああいうことは身に付いていないからできないんです。私と2人で販売会社に出掛けて頭を下げると、相談役のほうが私より低く下げている。若い時から身に付いているんです。われわれは頭で分かっていても、実際には普通の礼しかできない。

佐藤 よく経営者の資質と言われるけど、松下さんは「努力」がぴったりくる。

山下 それと経験でしょうね。この2つはかなわない。

佐藤 もうひとつ運ということもありますね。

山下 相談役もよく言いますよ。「運の付いている男を見付けろ」と。一所懸命やるけど、その者が長になると景気が悪くなるとか、巡り合わせの悪い人間がいるんです。ツキに見放された人はいくら人格が立派でも結局、アカンです。

佐藤 その点、山下さんは強運でしょう。

山下 今まであまり感じなかったけど、6年無事にやってこれたのは、運が強いのかもしれませんね。

佐藤 しかも明るい!

山下 悲観的に考えて、それを言ったところで解決しないから、楽観的なほうがいいですよ。社長業は楽観的でないと精神的にも参ってしまう。

佐藤 今、山下さんは若い人の憧れになっていますからね。

山下 それは25番目からポンと上がったからでしょう。私の場合は皆が好意的に見てくれるから嫌な気はしない。でも、本来なら社長になるような立場にない者がなったのだから悪意的に見られても仕方がないんです。逆に周囲の者が、私が潰れないように支えてくれて助かっています。

佐藤 すると、次の社長は、〝山下跳び〟はないですか。

山下 絶対ないですよ。私ひとりでたくさん。された方が気の毒です。2度もあったらおかしいでしょう。

 

山下俊彦氏の名言「人を育てることは任せることだ」

 

佐藤 事業部の見直しを行ってから会社が元気ですね。

山下 活気が出ていますね。また、出てこないといけないんです。企業というのは1つの人間集団ですから、社長ひとりがたとえどんなに非の打ちどころがないくらい働いても、それだけではダメなんです。やっぱり、社員が動いてくれないと……。

ですから、偉そうには言えないけれど、社長が自己の満足感を得るのではなく、社員全体が自己満足感を得るように仕事を与えることが大切だと思います。そのためには、やはり適度に難しい仕事を与えるなり、会社としても新たな分野にチャレンジすることです。全員が力を出し切ったという会社にしていくことが社員も満足して喜びますし、経営者にとっても大切だと思います。

佐藤 その意味では、部下に仕事を任せたほうがいい。

山下 任せると、皆やりますよ。そして、それができれば、当人にとっても感激が湧きますし、自信と実力が付いてきますから。

人間をつくるということは、任すということです。ただ教育だけしてもダメ。経営学を知っている人はいくらでもいますからね。それと同じで、経験しないと力にならないということですね。

(構成/本誌・古賀寛明)

 

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