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米山 久氏(エー・ピーカンパニー社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)〜外食産業エー・ピーカンパニーの独自のスタイルと今後〜

左から米山 久氏、夏野 剛氏

 外食産業において生販直結のビジネスモデルを確立し、着実に成長を遂げているエー・ピーカンパニー。生産者、従業員、顧客すべての満足度を高める独自のスタイルはどのように確立され、今後どんな方向を目指すのか。夏野剛氏が米山久社長に迫る。

夏野 剛

なつの・たけし――1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。95年米ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBAを取得。ITベンチャー企業を経て、97年NTTドコモ入社。iモードビジネスを立ち上げ「iモード生みの親」と呼ばれる。2008年同社退社後は、ドワンゴほか数社の取締役を務める傍ら、慶応義塾大学特別招聘教授として教壇にも立つ。

【米山 久氏(エー・ピーカンパニー社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)】売り上げや利益を伸ばす以外に、社会貢献できるという意識

夏野 エー・ピーカンパニーさんの社内は、絶えず人が行き来していて活気がありますね。

米山 これだけ研修をやってる会社も珍しいんじゃないですかね。ウチはやたら研修好きなんです(笑)。

夏野 それは接客などを教えるためですか。

米山 と言うより、当社のミッションへの共感を生むためです。契約農家や漁師さんなど生産者の映像を見てもらったり、彼らの現状を知ってもらったりして、自分たちがやるべきことを繰り返し学んでもらうための勉強会ですね。

夏野 どれくらいの頻度で行っているんですか。

米山 店長クラスだと週に1回ぐらいですね。他の従業員も2週間に1回、アルバイトさんだと月に1回ぐらい行っています。それが理念の共有につながっていると思います。

夏野 そこまで徹底されている会社も珍しいと思います。

米山 多分、普通の外食企業だと研修するための材料がないと思うんです。僕らは1次産業にも2次産業にもかかわっていて、1つの料理ができるまでのお皿の上のストーリーをいくらでも持っているので。

夏野 それを店員さんが、お客さんに伝えられるということですね。

米山 久

米山 久(よねやま・ひさし)
1970年生まれ。東京都出身。不動産事業、海外ウエディングプロデュース事業などに携わった後、2001年、エー・ピーカンパニーを設立。八王子市のダーツバーを皮切りに飲食事業に参入。04年、みやざき地頭鶏(じとっこ)専門居酒屋「わが家」を出店。06年、宮崎県に農業法人を設立し、自社養鶏場と加工センターを立ち上げる。11年には漁業への進出も果たす。現在、「塚田農場」「四十八漁場」など、全国で177店舗を展開中。

米山 要するに店員がお客さまに伝えたいと思えるストーリーを用意するということです。マニュアルどおりに話をさせるのではなく、生産者の思いや生産者の所得向上を意識して伝えてもらえれば、結果的に売り上げが増えて地域活性化につながります。ウチのスタッフは、心に響かないと売ってくれないんです。そういう時は、どうして薦めないんだととがめるのではなく、薦めたいと思わせるストーリーが足りないということに気付かされます。

夏野 どうやってそういう形に行き着いたんですか。

米山 会社がある程度の規模になった時、みんながちゃんと奮い立つ会社としての理念を持たないと先が怖いなと思ったんです。お客さまにいいものを出そうと思って川上の1次産業までさかのぼっていった結果、雇用不足など地域の問題に気付きました。われわれが規模を拡大することによって、売り上げや利益を伸ばす以外に、社会貢献できるという意識が芽生えていったんです。「経営者の夢の実現のために事業を拡大してくれ」と言ったところで誰も動いてくれませんから。

 事業を拡大する目的が社会性と一致しているので、それを伝えることで社員やアルバイトさんの心に響いていったと思います。経営者としては、当然マーケットニーズに応える形で事業を拡大しますが、これはスタッフに対しても同じです。いかにスタッフが奮い立ってくれるかが重要で、経営者の夢の実現なんて小さいことなんです。それより、1千億円売り上げれば1千戸の農家が潤い、何千という雇用が地域に生まれるというほうが、皆が賛同できますよね。

夏野 最近は、大義のある経営者が少ないんですよ。大義を言う人はいても実態は全く異なる場合もありますが、米山さんは地に足が着いている。

米山 最初はそこまで考えていなくて、後から気付いた部分もあるのですが。お客さま目線で考えて、いいものを安く仕入れるには、卸さんから仕入れるより、生産者から直接から仕入れたほうがいいと思って、それを実行しているうちにそういう考えに行き着きました。

【米山 久氏(エー・ピーカンパニー社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)】多くの生産者とつながりを持つ

夏野 同じようなことを考える経営者はほかにもいると思うのですが、なぜ米山さんだけが成功したのですか。

米山 タイミングが良かったというのもあります。農家に接触しようとすると既存の流通業社などの横槍が入ったりするんですが、ここ10年ほど、しがらみを乗り越えてわれわれと組んだほうが、地域に雇用を生むと考える地方自治体が増えてきました。そうした自治体を通じて生産者を紹介してもらうと、割とすんなり話が進みます。今ではエー・ピーカンパニーというブランドは信用されていますが、最初は生産者の方からも煙たがられることもありました。そこは地方自治体の力を借りて、突破していきました。

 あとは、単に売買の関係だけではなく、産品の加工場はわれわれが造るなど、農家さんにはできない投資の部分を引き受けたりして、きちんと一緒にやっていく姿勢を見せました。単にバイヤーが買いたたいて、ほかにいい産地を見つけたら去っていくようなやり方では農家は疲弊するし、われわれとしてもつまらないんですよね。鶏に関しても、一番売れる部位だけではなく、さまざまな部位をわれわれがきちんと商品化することで、農家さんには喜ばれています。

米山 久夏野 今後はどこを目指していくのでしょうか。

米山 日本国内で社内競合しないのは400店舗、売上高500億円が限界と思っています。塚田農場というブランドに関しては、地鶏のほかにも野菜やいろんなものを取り扱うようになって、美味しくて安いという分かりやすいイメージができてきたので、今後はそれを生かしてそばや宅配弁当など、居酒屋以外での販売チャネルを拡大し、ブランドのシナジー展開を図っていきます。例えば宅配弁当で言うと、生姜農家が考えた生姜焼き弁当とか、玉ねぎ農家が考えたカレーとか、いわゆる生産者発信の商品作りができないかと。外食以外に、塚田農場と触れるシーンをいかに増やすかが課題です。小売りを増やすことで、さらに多くの農家とのつながりを持ちたいと思います。

夏野 ただ、利益率は外食のほうが高いですよね。

米山 そうですね。それとストーリーをお伝えする時間が弁当や通販だと取れません。だから外食で塚田農場イメージをどんどん定着させる一方で、大量消費の場として小売りにも注力していきます。大量消費をしないと多くの農家や漁師さんを巻き込めないので、利益率は外食で確保して、シナジーを高めつつ小売りも行うという発想です。

対談の様子【米山 久氏(エー・ピーカンパニー社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)】顧客がいることと採用しやすさは同じ重み

夏野 人材活用についても伺いたいんですが、ある程度事業の形ができると外から人が入って来なくなって、昔からのメンバーで経営陣が固定化されてしまうところがほとんどです。米山さんのところはどうでしょうか。

米山 その点、僕は割とドライというか、創業メンバーはもう誰もいないんですよ。彼らとは夢の実現のためにスタートして、売上高が20億円ぐらいになった時に、メンバーのキャパシティーを超えてしまったんです。1次産業や2次産業の活性化という新たなミッションができたので、そこに精通している役員を入れたり、会社のステージと目指すべきビジョンによって、人材も変えてきています。

夏野 それはドライじゃなくて、むしろ、株主のためにも消費者のためにも会社のためにも必要なことだと思います。日本ではそういうことをやると、冷たいみたいに言われますが、それが企業の成長の限界をつくっていると思います。会社のステージごとに必要な人材は変わってくるので当然と考えます。

 

 ここで話はエー・ピーカンパニーが行っている就活セミナーに及ぶ。就活時期に入った500人近くのアルバイト学生に対して、アルバイトと就活が両立できるように、媒体に載っていない優良企業の会社説明会を行ったり、就職活動のノウハウを教えたりする試みだ。外食産業全体で人手不足が問題となる中、時給以外の付加価値を提供することによって、アルバイトの定着率を高めるとともに、学生の間で塚田農場の認知度が上がるといった効果をもたらしているという。

 

夏野 就職セミナーのような試みは、自信のある会社しかできないでしょうね。それで他社に就職して塚田農場のお客さんになってくれてもいいし、そのまま自分のところで働いてくれてもいい。僕も一応慶応義塾大学で教えているから分かるんですが、理念がしっかりしている会社が好きな学生は多いですよ。

米山 われわれは顧客満足度と従業員満足度をイコールに考えているんです。だから就活支援を含めて、社員、アルバイトさんを満足させるにはもっと何かないかなと常に考えています。就活セミナー以外にも、業務とは直接関係ない自己啓発セミナーみたいなことも従業員発信で頻繁に行われています。アルバイトさんは、最初は単に時給稼ぎで入ってきたとしても、いつの間にか自己成長につながっていたり、社会貢献したいと考えるようになったりします。

左から米山 久、夏野 剛夏野 1つの教育機関みたいになっていますね。ところで、銀座あたりにもっと出店する考えはないんですか。

米山 銀座には1店舗しか持っていないんです。理由は、お客さまはいくらでもいますが、学生が少ないので優秀なアルバイトが確保できないから。オフィス立地に塚田農場が存在しないのは、われわれの目指すサービスが提供できないからです。お客さまがいることと、採用が効くことは同じくらいの重みです。

夏野 そこが一貫しているのが素晴らしいですね。

(構成=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

 
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