経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

水道民営化について考える

実践主義者の経済学

水道民営化によって大阪市民への付加価値は高まるのか?

 2013年11月9日、大阪市が100%出資する新会社に、30年間分の水道サービスの運営権を売却して民営化する方針を固めたとの報道が流れた。浄水場などの資産は大阪市が保有したままで、かつ水道料金にも上限を設ける。いわゆる、コンセッション方式だ。既存の水道職員(約1600人)は大半が新会社に転籍となり、将来的には1千人まで削減するとのことである。大阪市が本当に水道事業を民営化した場合、全国の自治体では初となる。

 水道の民営化が実施されると、大阪市の行政コストは下がる(そもそも、それが目的だ)。とはいえ、別に水道の運営権を購入した「水道株式会社」は、新たな付加価値を創出するわけではない。水は単なる水であり、しかも現状の大阪市の水道サービスは「品質が悪い」「水が供給されない」などの問題を抱えているわけではない。

 水道事業を民営化することで、「大阪市民に供給される水の品質が向上する」「これまで水道サービスを提供されていなかった家庭・企業に、水が供給される」などの「新たな付加価値の創出」があって初めて、水道民営化は「正しい解決策」になり得るのだ。とはいえ、大阪市が水道を民営化したところで、サービス享受者である大阪市民に対する付加価値が高まるわけではない。

 付加価値を創出しないとは、「所得(=付加価値)のパイが一定」という話である。水道が民営化されたからと言って、
「それでは、水道サービスを使おう」などと言う人は、1人もいないだろう。

 既に、すべての大阪市民は、既存水道サービスのユーザーなのだ。所得のパイが増えない状況で、水道株式会社が「新規参入」し、事業を請け負う。そのために、法律を変更する。果たして、何が目的なのか。

 水道サービスを民営化することで、大阪市は当初の予算よりも水道サービスの供給費用を削減できるだろう。新たに参入した水道株式会社も、利益を上げることができる。そういう意味では、行政と水道株式会社はウィンウィンとなる。そして、大阪市の予算削減+水道株式会社の利益分、必ず「誰か」が損をすることになるのである。

大失敗に終わったボリビアの水道民営化

 ボリビアのコチャバンバ県の事例をご紹介しよう。コチャバンバ県で水道事業を営んでいたSEMAPA(市営上下水道サービス公社)が、世界銀行主導で00年1月に民営化された。

 民営化されたコチャバンバの上下水道事業は、コンセッション契約(大阪市の民営化と同じ)でロンドン国際水供給会社が「トゥナリ水供給会社」として受注した。ロンドン国際水供給会社は、米国の大手ゼネコンであるベクテル社の完全子会社だ。

 トゥナリ水供給会社が上下水道設備を手にした数週間後に、ダム建設の資金調達のためと称して、水道料金の大幅な値上げが実施された。当時のコチャバンバの最低月収は、100㌦以下であった。トゥナリ水供給の値上げにより、住民は20㌦以上の水道料金を支払わなければならなくなったのである。日本で言えば、月収20万円の人が、4万円もの水道料金を徴収される事態になったのだ。

 コチャバンバ市民は激怒し、ストライキやデモという形で抗議活動が始まった。00年4月10日には、水道民営化の撤回を求め、数千人がコチャバンバでデモ行進を実施する。政府側は武力弾圧に走り、6人の死者と100人を超える負傷者を出す大惨事になった。その後、騒乱はボリビア全土に広がってしまい、4月12日にトゥナリ水供給会社が事業撤退を表明。ボリビアにおける「水道の民営化」という実験は幕を降ろした。

 ボリビアに限らず、南米では外資系企業、すなわちグローバル企業による水道民営化の失敗事例が相次ぎ、ウルグアイに至っては国民投票によって、
「上下水道事業の民営化は違法である」との決定がなされたほどだ。

水道民営化で財政問題は解決しない

 大阪市の民営化に関する報道には、水道料金について「上限を決める権限を市に残す」とある。ということは、一般消費者ではなく別の誰かが損を引き受けることになる。

 もちろん、既存の水道サービス事業で働いている人々だ。料金に上限があり、売り上げを増やせないとなると、あとは「コストカット」をする以外に、「大阪市の予算削減+水道株式会社の利益」を編み出す方法がない。大阪の水道サービスが実際に民営化された場合、既存の従業員(今の公務員)が損失を負担することになるわけだ。

 また、リストラや給料削減で従業員の士気が落ちたところで、「さらなるコストカット!」などとやった日には、間違いなく大阪の水道サービスの品質は低下していくことになる。道路公団民営化もそうだったが、株式会社が「コストカット! コストカット!」とやった場合、品質や安全性にツケが回らないわけにはいかない。

 問題は、上記の事態を引き起こす代わりに、大阪市民が何を得られるか、という話である。もちろん、行政コストは減るが、そもそも大阪市の財政問題の根幹は「デフレにより税収が増えない」ことにある。水道民営化をしたところで、デフレで税収が増えない状況では、大阪市の財政問題は解決しない。

 とはいえ、一般の大阪市民は、「大阪市の財政が悪化しているため、水道事業を民営化しなければならない」という単純なレトリックを信じているのではないか。

 民営化を推進する人は「民間活力の導入を」などと、まことに抽象的なレトリックを振りかざす。水道民営化の話に限らず、抽象論の向こう側の「真実」について見極める目を、今こそ日本国民は持たなければならないと考える。

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