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参加国の事情と思惑が交錯し岐路に立つアジア大会

スポーツインサイドアウト

アジア大会初のメダルを取ったのは武術

 韓国・仁川で開催された2014アジア競技大会。日本に最初のメダル(銅)をもたらしたのは武術・男子長拳の市来崎大祐だった。

市来崎大祐選手

2014アジア競技大会で銅メダルを獲得した市来崎大祐選手(Photo:時事通信)

 武術とはいっても、相手と戦うわけではない。男子長拳は素手で行う型を、動きの質と表現力、それに難易度の3つを10点満点で採点して争われる。

 晴れて表彰台に立った市来崎は「武術家にとって最高峰のアジア大会に出場させてもらって、銅メダル以上の宝物をもらうことができました。自分ひとりではここまで来られなかったので、家族に感謝したいです」と涙ながらに語った。

 オリンピック競技ではない武術にとって、アジア大会は市来崎が言うように「最高峰」の大会である。

 JOCによれば今回の仁川大会の実施競技は38。前回の中国・広州大会より4つ減った。

エスニックテイストがアジア大会の醍醐味

 武術のようにオリンピックにはなく、アジア大会のみで行われる競技は、ほかに9つもある。

 例えば1990年の中国・北京大会から採用されたセパタクロー。タイやマレーシアなどで盛んなボールゲームである。

 これを初めてタイのバンコクで見た時には驚いた。言うなればサッカーとバレーボールが合体したような競技で、ネットをはさんで戦うため「足のバレーボール」とも呼ばれている。

 サーブもレシーブもアタックも基本は足。時に頭を使うこともあるが、人間がこれだけ足を器用に使いこなせるとは思わなかった。

 そのスペクタクル性において、もっと普及してもらいたい競技のひとつである。

 インドやバングラデシュの国技と言われるカバディも、94年広島アジア大会で初めて見た時は衝撃的だった。ひらたく言えば、南アジア一帯で親しまれている鬼ごっこだ。

 ルールは難しくない。人数は7対7、ひとりのレイダー(攻撃手)が守備側のコートに入り、アンティ(守備側)と呼ばれる7人の誰かの体にタッチして自分のコートに戻ると得点が入る。

 逆にその際にアンティがレイダーをつかまえて攻撃側のコートに戻らせなかったら、守備チームの得点となる。攻守は交互に交代する。

 もう随分前のことだが、日本代表だった神津剛史にルーツ国の実力について聞いたことがある。

 「インド人の攻撃手って見えないんです。自分を触りにくると分かっていてもどうすることもできない。予備動作が全くないため、動きを読もうにも読めないんです」

 私見だが、こういうエスニックテイストの競技こそがアジア大会の醍醐味ではないだろうか。

 しかし近年、競技数をもう少し絞り込もうとする動きがある。アジア大会のためにつくった競技場や施設が大会後には〝負の遺産〟となり財政の圧迫要因となっている開催都市が相次いでいるからだ。

 次の開催都市に決定していたハノイはベトナム政府が財政難を理由に、この4月に開催権を返上している。

アジア大会にはオリンピック前哨戦の意味合いも

 さて、ここで簡単にアジア大会の歴史について振り返っておこう。第1回大会は51年春、インド・ニューデリーで開催された。

 実施競技は陸上・水泳(競泳・飛び込み・水球)、サッカー、バスケットボール、ウエイトリフティング、自転車の6競技だった。いうまでもなくすべて五輪競技である。

 日本での初開催は58年の東京。6年後のオリンピックを招致しようとの思惑が背景にあった。実際、この大会での運営能力が評価され、翌年、ドイツ・ミュンヘンでのIOC総会で東京は64年大会の開催地に選ばれたのである。

 日本は94年にも広島でアジア大会を開催している。これは首都以外で初めて開催されたアジア大会だった。ちなみにアジア大会は51年の第1回ニューデリー大会から82年の第9回ニューデリー大会までアジア競技連盟(AGF)が主催していたが、それ以降はAGFを発展的に解消した後に設立したアジア・オリンピック評議会(OCA)に移っている。

 日本は78年のバンコク大会までアジア大会で最多の金メダル数を誇っていたが、98年のバンコク大会以降は中国がトップで2位が韓国、日本は3位に甘んじている。

 JOCは基本的にアジア大会を2年後のオリンピックの前哨戦と考えており、中国や韓国ほどには力を入れていないように映る。

 あるJOCの幹部は「オリンピックの実施競技以外はもっと削減し、スリム化してもいいのではないか」と語っていた。

 確かに財政難を理由に第2、第3のハノイが出てきてもらっては困る。その一方でアジアの独自性も捨て難い。アジア大会は岐路に差し掛かっている。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

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