経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日本を普通の国に

榊原英資の「天下の正論」「巷の暴論」

軍事施設と大学というコンビネーションに驚き

 久しぶりに韓国・ソウルを訪問した。1年に1~2回は国際会議や講演で訪れているのだが、今回は初めてソウル大学で「東アジアの統合」というタイトルで話をした。芸術学部や体育学部まで有する本格的な総合大学で、朴軍事政権の時、ゴルフ場を強制的に徴収してつくった大学だという。

 大学の中に軍事施設があるのには驚いた。38度線が突破されたら直ちにヘッドクォーターを大学内に移すというのだ。また、万一の時に備えて地下にも施設が整備されているという。東京大学でこんなことをやろうとしたら大騒ぎになるだろう。陸続きで北朝鮮という脅威を抱えているのだから当然と言えば当然なのだろうが、軍事施設と大学というコンビネーションは少なくとも筆者には驚きだった。

 北朝鮮の脅威を受けているという点では日本もさほど違いはない。陸続きではないが、海を隔てた隣国だし、北のミサイルは十分日本に届く射程距離を持っている。別に筆者は右寄りでもなく、軍拡を主張しているわけでもない。しかし独立国である日本が同盟国に依存することなく自らの国を防衛する体制を整えることは当然だろう。もちろん日本の自衛隊はその装備や能力では十分実力を持っているのだが、問題は憲法や自衛隊法でその活動が制約されていることだ。

 実は日本国憲法制定には筆者の父がかなりかかわっていた。父は芦田均総理の2人の政務秘書官のうちの1人で、GHQ担当だった。当時、日本政府の重要なカウンターパートのひとつは民政局。ケーディス、ハッセイ、ラウエルの3人のハーバード大学出身者が大きな力を持っていた。3人とも別に左翼ではなかったが、かなりリベラルな考え方の持ち主だった。筆者の自宅にもしばしばハッセイ中佐が訪れ、当時まだ5、6歳だった筆者にハーシー・チョコレートのおみやげを持ってきてくれた。幼い筆者にとってはミスター・ハッセイならぬミスター・ハーシーだった。現在と違って当時チョコレートは貴重品。まだ日本のメーカーはチョコレートを発売していなかった。自宅に潤沢にあったチョコレートを時々幼稚園に持っていって友達に配ったが、お陰で女の子たちにはかなりもてた記憶がある。

理想主義から現実主義への転換が求められている日本

 芦田内閣は専門家に依頼して政府の新憲法草案を用意するのだが、GHQは保守的にすぎるというのでこれを拒否し、民政局に憲法原案の作成を指示したのだ。当時の民政局はケーディスを中心とするリベラルグループ。近年よく日本のメディアに登場していたベアテ・シロタ女史なども若きスタッフとして民政局にいた。民政局はわずか9日間で憲法原案を作成しマッカーサーに提出したのだった。リベラル派の彼らが作った憲法案は極めて理想主義的。第9条では永遠の戦争放棄をうたったのだった。さすがに、時の総理芦田均はいわゆる芦田修正を加え、日本の再軍備の可能性を残した。幼かった筆者も鮮明に覚えているのだが、憲法の作成・公布後、芦田均も筆者の父も早期の憲法改正を強く主張するようになっていた。たった9日間で若い民政局のスタッフが作った憲法だということを熟知していたので、できるだけ早く、日本人自身による憲法改正を望んだのだった。GHQのスタッフたちも7年の占領期間が終われば、日本は確実に憲法を改正すると思っていたようだが、日本の世論はこの理想主義的憲法を支持し、今日に至るまで憲法改正は行われていない。

 しかし、そろそろ自主憲法を作る時期ではないのだろうか。理想主義はそれなりの良さを持つが、理想だけでは厳しい国際情勢を乗り切ることはできない。日本を普通の国にし、自衛隊を普通の軍隊にすべき時なのではないだろうか。前述したように決して筆者は右寄りのナショナリストではない。しかし、自衛隊を日本軍と改称し、さまざまな制約を解くべき時期に来ているのだ。自らの国を自ら守るというのは当然のこと。日米同盟は重要だが、日本は日本軍だけで守るべきだろう。「普通の国」とはそういうものだ。理想主義から現実主義への転換が今の日本には求められている。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る