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日本に外国人メイドがやってくる?国家戦略特区の規制緩和とシンガポール外国人メイド事情

2015年7月、地域限定で規制を緩和する改正国家戦略特区法が可決・成立し、神奈川県と大阪府では、炊事、掃除、洗濯などの家事サービス分野で外国人労働者を受け入れることができるようになった。日本政府は女性の就労を促進するため、これまで慎重だった「外国人メイド」の受け入れに踏み切ったのだ。[提供:経営プロ]

1978年の「外国人メイド計画」が女性の就労を後押し

外国人メイド 厚生労働省や内閣府などの調査によると、1980年には共働き世帯は614万で、専業主婦世帯の方が約400万多かった。それが1997年には949万に増えて専業主婦世帯より多くなり、2012年からは3年連続で1千万世帯を超えている。2020年に管理職の30%を女性にという政府目標もあり、2014年には総合職採用者に占める女性の割合も22.2%と2割を超えた。安倍首相の言い方を借りれば、文字通り全ての女性が男性と同じように働いて「輝く」時代が近づいてきたわけだが、そこで問題となるのが「誰が子供を育てるか」だ。

シンガポールでは女性を労働市場に呼び込むため、1978年という早い時期に「外国人メイド計画」を策定した。その結果、当時約5000人だった外国人メイドの数は右肩上がりに増え続け、2013年末には21万4,500人と、約5世帯に1世帯が外国人メイドを雇用するようになっている。多くのメイドが住み込みで、子供を育てるベビーシッターの役割も担っている。ベビーシッターには、早朝の会議やどうしても仕事が終わらない時、子供が病気の時、休日に夫婦ででかけたい時などに、融通をきかせて預かってもらえるというメリットがある。こうした施策が後押しとなって、シンガポールは女性の労働力率が2013年に58.1%へと上昇。子育て世代の落ち込みもなく、1世帯あたりの平均月収は10,503シンガポールドル(約90万円)と日本を抜き、アジアで最も世帯収入の高い国になった。

シンガポール外国人メイド事情とは

シンガポールの高学歴・高収入の共働き家庭の家事や育児を支えているのが、外国人メイドの存在だ 。メイドは12ヵ国から来ることが認められている。出身国はフィリピンが最も多く、次いでインドネシア、マレーシア、ミャンマー、インド、バングラディッシュなど。フィリピン人は英語が話せるので人気がある。メイドの給料は平均400~600シンガポールドル(日本円で約3万4000円~5万1000円)。これに派遣エージェンシーへの手数料、保険料、エージェントへの斡旋費用(だいたい月給の2ヵ月分)、保険料などを含めると、月に5~6円位になる。

メイド探しは友人・知人など口コミもさかんに利用されるが、派遣エージェントに紹介してもらうのが一般的だ。シンガポールには派遣エージェンシーが多数あり、“maid”というキーワードで検索すると“bestmaid.com” “netmaid.com” “InnovaMaid.com” ‎“okmaid.com” “nation.com”“islandmaids.com”など多数の派遣エージェント名がリストアップされ、メイド派遣がビジネスとして確立されていることがわかる。登録メイドのプロフィールは身長、体重、結婚の有無など詳細な情報が掲載されており、写真やパーソナルな紹介文も付いている。日本人からすると、「ここまでネットに個人情報をだしていいのか!?」と驚くほどだ。ユーザはサイトに、国籍、年齢、言語、基本給、学歴、宗教、経験など様々な条件を入力して希望のメイドを検索することができる。

派遣エージェンシーのサイトを見ると、外国人メイドは選び放題のように思える。しかし、事務や経理を頼むのと違い、幼い子供の命を預けるのだから、親は人選に慎重にならざるを得ない。接する時間が長いのでメイド、またナニーの人柄や教養が子供に影響を与えるし、若いメイドなら親が見ていないときに家を抜け出して恋人に会いに行ったり、家の中にいても怠けてちゃんと面倒を見てくれなかったりする可能性もあるからだ。また、サイトのプロフィールでは英語ができると書いてあっても、実際に会ってみると片言だったり、つくった料理が口に合わないことも珍しくない。そのため、運が悪いと相性のいいメイドに巡り合うまで、5人、10人と面接を繰り返すことになる。

日本に外国人メイドがやってくる可能性とは

日本人の感覚だと、メイドを雇うなど贅沢と思うかもしれない。ところが、シンガポールでは都市中心部で保育園に乳幼児を預けようとすると、1200~1500シンガポールドル(日本円で約10万2000円~12万7500円)位するので、メイドの方がずっと安いのだ。それでも、メイドに提供する部屋がないとか、気に入ったメイドが見つからない、あるいは子供のエネルギーが有り余っていて、友達と遊ばせた方がいいと判断した場合には、保育園という選択をする母親もいるようだ。あるいは、言語や教育程度、家庭環境などを考慮して、シンガポール人で子育て経験豊富な人をナニーとして頼み、その人の家に毎朝子供を預けにいくという選択をする母親もいるようだ。但し、その場合には食費込みで10万位払うのが一般的で、外国人メイドよりは高くつく。

シンガポールでメイドが成立する理由の一つに、国が認めているほか、英語が公用語で、同じく英語が話せるフィリピン人やインド人のメイドを雇いやすいことがあげられる。働く方も、同じ出稼ぎをするのなら、英語で働けるシンガポールを選ぶだろう。文化や言語の問題もあり、今の段階では、日本で一気に外国人メイドが増えるとは考えがたい。だが、日本は政府が右を向けと言えば、一気に右に舵を切る国だ。「1億総活躍社会」というのは、言い換えれば、子育て時期の女性も男性に伍して働くことを理想とする社会ということだ。だとしたら、ごく近い将来、共働きの高所得世帯や富裕層が外国人のベビーシッターや外国人メイドをあたりまえのように雇う日が来るかもしれない。

【経営プロ編集部 ライター:島崎由貴子】

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