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高島屋参入で競争必至の空港型免税店

高島屋が、全日空商事、サムスングループの新羅ホテルとともに合弁会社を設立し、空港型免税店事業を開始する。1号店は来春、高島屋新宿店に出店する予定だ。今年に入って銀座や福岡など出店が相次ぐ空港型免税店。店舗同士の競争も始まりそうだ。文=本誌/古賀寛明

高島屋が来年春から免税店事業に進出

 観光庁の調査によれば、2015年に日本を訪れた外国人観光客の消費した額は3兆4771億円。このうちの41.8%にあたる1兆4589億円が買い物に使われている。その前の年である14年が7146億円であったことを考えれば驚異的な伸びである。

 わずか1年で倍に膨れ上がる市場など成熟したこの国では、ほぼ考えられなかったことであり、救世主である外国人観光客を取り込もうと、小売業界が一丸となって利便性を高め、環境を充実させようと躍起になっている。そのひとつの形として「空港型免税店」が挙げられる。

 今年の1月下旬に三越銀座店の8階にできた「Japan Duty Free GINZA」が話題になったばかりだが、3月末には「東急プラザ銀座」内に、翌4月1日には福岡三越の中にも誕生する。そして、高島屋も全日空商事、免税店運営で韓国2位のホテル新羅と組み、来年春に高島屋新宿店内に空港型免税店を開設、免税店事業に進出すると発表した。

 誕生が相次ぐ空港型免税店とは、街中でよく見掛ける消費税などの付加価値税が免除される「TAX Free Shop」ではない。関税やたばこ税、酒税なども免除される「Duty Free Shop」のことである。日本人にとっては海外旅行の際に空港でお酒やたばこを購入する免税店といったほうが分かりやすいだろう。あの免税店が街中に進出してきたというわけだ。

 商品を購入しても関税や酒税、たばこ税がかからないため、市中にある店舗では転売などできないように商品を選び代金を支払うだけ。商品の引き渡しは出国手続きが終わった後に専用カウンターで渡される。そのため店舗は保税蔵置所とよばれる税関長の許可が必要な場所であり、保税状態で店舗から空港まで運ぶ必要もある。そうした特別なノウハウが必要であるため、高島屋の場合は、物流のノウハウを全日空商事が、免税店のノウハウをホテル新羅が受け持ち、参入を果たした。

 海外では珍しくもない空港型免税店が、この1月まで国内には那覇市にある「DFSギャラリア・沖縄」のみであったのは、税務上の煩雑さや物流コストなどがネックになっていたのであろう。しかし、旺盛な訪日客の需要を前にしては既に障害にもならなくなっている。

高島屋が空港型免税店を新宿店に開設する理由とは

 高島屋の木本茂社長も「既に新宿店の免税売り上げは96億円を超えるが、新たな店舗と食い合うことがあったとしてもそれ以上の効果をもたらす」と期待を寄せ、初年度の売り上げを150億円と見込む。年間の売り上げが700億円弱の新宿店にとっては2割を超える。

 期待の理由は立地にある。JR新宿駅南口は現在、大規模再開発が行なわれ、この春には大型バスターミナルが完成する。交通の要地であれば外国人も集まりやすい。さらに、新宿は既に訪日観光客にとって人気の宿泊地であるのだ。

 実は、国によって宿泊する街が偏るようで、例えば池袋にはタイや台湾人が、銀座や赤坂には欧米人が多いといった傾向があるそうだ。その中で新宿はどの国の人からも支持が高い。人気旅行サイト「エクスペディア」によれば、都内各所だけでなく富士山へのアクセスの良さ、さらに安宿から高級ホテルまで幅広い宿泊施設が人気の理由だ。当然ながら、買い物の主役である中国人観光客にも新宿が一番人気。中国人観光客にこだわるには、それだけの理由がある。1人当たりの買い物消費額は16万2千円。7万5千円で2位ベトナム人の2倍(観光庁データ)にもなる。そういった意味では先行する銀座よりも有利な気がするが、新宿には、百貨店のガリバーである伊勢丹新宿店もある。銀座や福岡の三越で蓄積したノウハウをもとにいつ新宿に出店してくるか分からない。

 ただ、銀座、新宿、高島屋、三越伊勢丹と争っていても全体のパイが減ってしまっては仕方がない。実際に中国の景気は減退しており、訪日観光客数は増加だが客単価は下降気味だという。そうした懸念に対して「消費は底堅く、中国の方でパスポートを所持しておられる方はまだ6800万人ほどしかおらず、今後も伸びる」(木本社長)と強気だが円安の問題もある。昨年夏には、人民元も切り下げており、今もじわじわ下げている。

 また、免税された商品を受け取る場所も現状では羽田、成田の両空港だけで、地方空港から入国する観光客は利用できないということになる。今後は、急増する茨城空港や静岡空港、クルーズ船でも受け取れるような利便性を高める努力をコストとのバランスをみながら進めなければならないだろう。

 まだまだ課題はあるものの、収縮する市場に突如現れた購買意欲のある新規顧客を見逃す手はない。まずは一体となって、彼らの欲求を刺激し日本へ来たいと思わせるような仕組みづくりが必要だ。例えば、他国は国を挙げてショッピングセールを行っている。ドバイやシンガポール、お隣、韓国もだ。日本も国全体でセールを行うなど、買い物大国をアピールすることが必要なのではないだろうか。

 
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