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空き家対策にも障害 所有者不明の土地が増えるナゾ

所有者が誰なのか分からなくなった土地が、全国的に増加している。「土地神話」が崩れて久しいが、人口減少が進むことで需要がさらに減少し、行政や住民の目の行き届かない低・未利用の土地の増加が懸念される。時代に即した土地法制の整備が必要だ。文=ジャーナリスト/横山 渉

空き家問題① 相続未登記で収拾がつかないケースも

東日本大震災の被災地では、津波被害を受けた宅地を買い取る事業が進められている。NHKが宮城・岩手両県の沿岸の19市町村に買い取り状況を聞いたところ、買い取り希望があった土地4万4725カ所のうち今も買い取りができていない宅地は7592カ所と、全体の17%に上ることが分かったという。

これらの宅地の多くは、相続人全員と連絡が取れない、相続が終わっていない、抵当権が抹消できないなどの理由で、買い取り手続きが困難だという。

福島原発事故の除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設予定地でも似たような問題が起きている。昨年8月の報道では、地権者2365人のうち、連絡先の分からない人が約1110人で、うち約800人は既に亡くなっているという。環境省は、死亡した地権者の相続人の連絡先確認を進めているが、難しそうだ。

近年ますます所有者不明の土地が増えているという。東北の被災地ではそれが表面化したにすぎない。「不動産登記簿があるのに、そんなバカな!?」と思う人は多いだろう。しかし、災害復旧や耕作放棄地の解消、空き家対策などを進める上で、現実的な障害になっているのだ。

外交や経済等で政策研究・提言を行うシンクタンク、東京財団は、土地の「所有者不明化」に関して行ったアンケート調査結果をまとめた(回答率52%、888自治体)。土地の「所有者不明化」に法的な定義はないが、所有者の居所や生死が直ちに判明しないケースをこう呼ぶ。

アンケートの対象は土地所有者(納税義務者)から固定資産税を徴収している全国自治体の税務担当者である。その結果によれば、「土地の所有者が特定できず問題が発生したことあるか」との質問に対して、557自治体(63%)が「ある」と回答している。具体的な問題として「固定資産税の徴収が難しくなった」「老朽化した空き家の危険家屋化」「土地が放置され荒廃が進んだ」などが挙げられた。

では、どうして所有者不明の土地が生まれるのか。

日本には現状、不動産登記簿、国土利用計画法に基づく売買届出、固定資産課税台帳、農地基本台帳など、目的別に各種台帳はあるものの、土地の所有・利用を国が一元的に把握できる仕組みはない。例えば、不動産登記は任意であり、登記後に所有者が引っ越しした場合でも住所変更の義務はない。固定資産課税台帳上の所有者情報は、法務局から届く不動産登記情報に基づいて、自治体が更新する。

所有者が分からず、放置される空き家が増えている

所有者が分からず、放置される空き家が増えている

所有者不明になってしまう大きな原因は、土地の所有者が相続登記をせず、死亡者名義のまま放置しているパターンだ。地方自治体では相続未登記の土地について、相続人調査を行ってはいるが、相続未登記のままだと、ねずみ算式に法定相続人が増えていて、収拾が付かない状態になっていることもあるという。例えば、新しく道路を作るために用地買収しようとしても、土地の権利関係が複雑になっていて買収できず、道路が通せないという事例もある。

また、土地や建物の所有者が亡くなり、相続人不在または不明という場合、利害関係者からの申し立てにより家庭裁判所は、残された財産を管理する人を故人の関係者から選ぶ。その手続きの件数は、今や1万5千件にものぼる。この20年の間におよそ3倍になっているという。

空き家問題② 資産価値の減少で変わる土地への考え方

不動産コンサルティング会社・さくら事務所のコンサルタント、田中歩氏はこれらの問題について、次のように話す。

「首都圏では、土地の所有者不明化はほとんど聞きません。地方に土地を持っているけど放棄したいという相談は聞くことがあります。地価が下落して相続しても仕方がないということでしょう。そもそも資産価値がない土地に固定資産税評価が付いているというのもおかしな話です。なお、都内に関して言えば、私道で所有者不明のところはたくさんあります。また、古く分譲されたところだと、水道管や下水管の管理者が分からないというケースもあります」

地価があまり下落していない首都圏や大都市圏では当面、土地の所有者不明化問題は起きないだろう。しかし、人口減少している地方の場合には、地価の下落で土地が資産価値としての魅力を失い、相続放棄する人が増えている。既に地方から大都市圏に引っ越したため、相続しても仕方がないという人もいるだろう。土地神話が崩壊し、土地に対する考え方が根本的に変わってきていることもある。

「相続登記を書き換えてもらうのは時間とコストがかかりますし、今は弁護士さんでも、個人情報保護の観点から、簡単には相続人を調べられないと言っています。土地の管理者がいなくなって荒れていき、最終的に国や自治体が管理しなければいけないコストをどうするかということですね」(田中氏)

人口減少社会では土地需要の絶対量は減り、行政や住民の目の行き届かない低・未利用の土地はますます増えていく。東京財団のアンケートでは、87%の770自治体が、相続未登記は今後も増えるだろうと予測している。人口減少化に対応した土地法制の整備が必要だ。

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