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事業構想を通じて実現したいこと――田中里沙(事業構想大学院大学学長、宣伝会議メディア・情報統括)

『宣伝会議』の編集長をはじめ、広告マーケティングの世界で数多くの実績を積んでこられた田中里沙さんをゲストにお迎えしました。この4月から事業構想大学院大学の学長にも就任され、ますますのご活躍が期待されます。今回は学長として取り組みたいことを中心にお聞きしました。

事業構想大学院 田中里沙学長が取り組みたいこと

佐藤 このたびは、学長ご就任おめでとうございます。先日開かれた「田中里沙のこれまでとこれから」というパーティーの場での発表でしたが、タイトルが意味深だったので、選挙に出馬するのではないかと言っている人もいましたよ(笑)。

田中里沙

田中里沙(たなか・りさ)1966年生まれ、三重県出身。89年学習院大学卒業後、広告会社入社。93年宣伝会議に転籍し、企画宣伝、マーケティングなどを経て、95年『宣伝会議』編集長就任。新市場の多様化に即し、『販促会議』『広報会議』を立ち上げる。2003年より『環境会議』『人間会議』の編集長。12年事業構想大学院大学教授就任とともに、月刊『事業構想』を創刊。16年4月事業構想大学院大学学長就任。

田中 思わせぶりですみませんでした(笑)。

佐藤 大学では既に教鞭を取られていますが、具体的にどんなことを教えているのですか。

田中 2012年の開学の時に教授に就任したのですが、日本の大学ではさまざまなことを変えていくために、教員も学識経験にこだわらず実務経験者の枠を設けるところが増えています。私は広告コミュニケーションやマーケティングの分野で、国や自治体関連の仕事に以前から取り組んでいたこともあり、教授として選出していただきました。

これまでは、主に事業構想を考えたり、地域活性の担い手になりたいと思っている方々に向けて、マーケティングコミュニケーションの授業を担当してきました。今期からは東英弥理事長にも相談をしながら、事業構想の源流をさらに深く掘り下げていきたいと思っています。院生の皆さんはすぐに起業するというよりは、学びながら事業の構想を育てて卒業後に起業したり、事業承継したりする方がほとんどです。

佐藤 学長として、最初に取り組みたいことは何ですか。

田中 事業構想は形のないものですが、周囲の反応を見ていると、世間は私どものような大学院大学を待っていたんだなと感じます。ただ、カリキュラムはゼロから作ってきましたし、事業構想に対する考え方をどうするべきかといった部分で難しい面もあります。われわれがどんな人材を輩出したいのかを明らかにし、それを常に発信することで、大学院の存在価値を高めていきたいですね。本学の場合は、月刊『事業構想』という雑誌や、事業構想研究所という付属機関もあるので、これらと連動した取り組みなどを通じて、事業構想に関わる人たちを増やしていきたいと思います。いろいろな方に気軽に来ていただいてアドバイスを頂いたり、アイデアを出し合ったりできる形をつくるのが理想です。

事業構想大学院大学の大学経営と起業家の育成とは

佐藤 マーケティングも昔と違って顧客満足にすごく重点を置くようになったので、トップダウンの手法はなかなか通用しなくなってきました。特に女性が活躍するようになれば、物事の本質が問われる部分が増えてくるのではないでしょうか。

田中 女性のほうが本質はどこにあるのか、という部分を重視する傾向はあるかもしれません。習慣的にやっていることでも、外から指摘されてその価値に気付くこともあると思います。自分自身を客観視できなかった方が本学で開眼して、いろんなことができるというモチベーションが生まれてほしいですね。

佐藤有美と田中里沙

佐藤 女性の場合は家庭や子どもなどを理由に、自分を縛っている部分もあります。

田中 私の場合は、若いころから「いろんなことをやったほうがいいよ」と勧めてくださる方が周りに多かったので、「それならば」と取り組んできましたが、やるとなれば勉強するので自分の可能性が広がります。大学経営の部分をはじめ、支援してくださる方は新しい形の大学院を期待されていますから、その実現にも力を入れていきたいです。

『宣伝会議』の編集では、広告やマーケットの話で経営トップの方々を取材することはありましたが、それほど多くの方にお会いしてきたわけではありません。ですから、そうした方々との出会いがこれからもっと増えて、企業家の育成に役立てたいですね。女性の起業についても、いろいろな形で支援したいと考えています。

田中里沙氏の思い 老舗雑誌に新しい流れをつくり出す

佐藤 広告の世界も紙媒体以外のメディアが増えて、随分変わったのではないでしょうか。

田中 近年の変化の中で一番大きいのはメディアの変化だと思います。メディアは生活に密着していますし、仕事のやり方にも影響します。人々の情報との距離や接し方が大きく変わっている印象です。

田中里沙

佐藤 人口も減っていますし、誰もが新聞を取る時代でもなくなりましたからね。

田中 宣伝会議では社員全員が新聞を読んだり、年賀状は元旦にきちんと届くように出そうと呼び掛けたりする文化があるのですが、世の中の変化をうかがいつつ、新旧交代も考えなければならない時期です。

佐藤 「旧」の部分を知らないと新たなこともできないですからね。田中さんが若くして編集長になった時もそんな状況だったのではないですか。

田中 29歳の時に編集長になったのですが、当時は広告ビッグバンのような動きが出てきて、情報の環境が大きく変わろうとしていました。『宣伝会議』もちょうど40周年に差し掛かり、前例を打ち破らないといけない時期だったんです。一緒に伸びていく、新しい読者の開拓も必要でした。老舗の雑誌なので、私以上に雑誌のことをご存じの方もいらっしゃいました。そういう方々に雑誌の魅力や、やるべきことなどについて教えていただき、多くの世代の方のご縁を頂いたことがありがたかったです。スタートしたばかりで失うものはあまりなかったですし、同世代の女性編集者もいたので一緒に新たなものをつくろうと頑張りました。

佐藤 若い時は寝なくても元気に仕事できますしね(笑)。

田中 ワークライフバランスはもちろん重要ですが、この仕事はオンとオフの切れ目があまりないですし、仕事と私生活を両方楽しめるようなマネジメントを模索したいと思います。

佐藤 雑誌で表現したいのはどんな部分ですか。

田中 コミュニケーションの雑誌ですから、人と人がつながる部分を大事にしたいです。その意味で、自分自身がメディア的な役割を果たせるのも楽しいところです。人が生み出すアイデアや可能性を重視しているので、仕事から得られるものは非常に大きいです。

子育てでもコミュニケーションを学んだと語る田中里沙氏

佐藤 お子さんがいらっしゃるんですよね。仕事との両立は大変でしたか。

田中里沙田中 子どもが生まれたばかりの頃は、仕事をしながら子どものことを心配するのは良くないので、目の前のことにしっかり向き合うよう意識しました。子どもはどんなに愛情を注いでも所詮自分とは違うひとりの人間です。そこでも、お互いを分かり合うために、人はもっとコミュニケーションを取るべきと学んだので、外の人に対する接し方も変わりました。

佐藤 今後の夢や目標を聞かせてください。

田中 専門にしている広告や広報は、人の良いところを見いだして世の中に広く知ってもらうことです。いわば、社会や人を応援していく立場なので、マーケティングやクリエーティブの機能をまだ活用していない分野や地域に、もっと生かしてもらえるようにすることが目標です。


対談を終えて

佐藤有美と田中里沙同じく出版に携わる立場として、仕事を持つ女性として、参考になる話をたくさん聞かせていただきました。これからも大きなパワーで、後に続く世代を引っ張って行ってほしいと思います。

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