経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

サイバー・ディフェンスの専門家である名和利男氏に聞く(中)

サイバーテロ 政府・企業とも対応は待ったなし!

マイナンバー制度の穴 日本もエストニア型のサイバー攻撃を受ける恐れが

「出来合い」を導入する限り攻撃される可能性は大

サイバーディフェンス研究所 情報分析部長(上級分析官)の名和利男氏

サイバーディフェンス研究所 情報分析部長(上級分析官)の名和利男氏

 今年6月から7月にかけてサイバー空間で米中間を中心に激しい攻防が繰り広げられていることが明らかになった。

 米国の中央情報局(CIA)元職員で国防総省国家安全保障局(NSA)で働いていたエドワード・スノーデン氏が、NSAによるインターネット上の個人情報収集などを明らかにしたのだ。特に同氏は、サイバー攻撃に関して「米政府は2009年から中国本土や香港の公務員などのコンピューターをハッキングしている」という機密も暴露した。

 米中両国は、首脳会談(6月初旬)や「戦略・経済対話」(7月初旬)の場でサイバー攻撃問題について協議したが、NSAの情報収集活動を念頭に「情報収集と、中国がやっている貿易や知的財産、企業の機密情報を盗む行為とは別の問題だ」と主張する米国と、「中国こそハッカー攻撃の被害者だ」と反論する中国との間の溝は埋まらなかった(末尾の【注】参照)。

 サイバー空間での大国同士のつば競り合いが激化する中で日本としてできることは何か。結局のところサイバー攻撃やサイバーテロへの防御態勢作りを急ぐしかないということだろう。

 今回は(株)サイバーディフェンス研究所の情報分析部長(上級分析官)の名和利男氏の2回目。名和氏は、航空自衛隊でサイバーセキュリティーに向けたプログラム管理を担当。その経験を生かしながら、国民のライフラインを担う都市の重要インフラに対するサイバーテロの発生について警鐘を鳴らし続けている人物である。

-- 前回、名和さんは「日本でも電力や都市ガスの供給システムなど公共インフラに対するサイバーテロが1、2年以内に起きる可能性がある」と言いました。それを予測させる例として今年3月に韓国で起きた銀行や放送局などに対するサイバー攻撃を挙げましたね。

名和 その時の攻撃で韓国では4万8700台の各組織内のパソコンが破壊されました。日本も、韓国と同じような〝出来合い〟のIT製品をどんどん導入しています。そのことを考えれば、日本が攻撃される確率が高くなるということは容易に推測できると思います。

-- 攻撃されるべくして攻撃されるということですか。

名和 そうです。私がそう言い切ったのには理由があります。韓国政府は1998年に、互いの端末間の通信の安全性や信頼性を確保するために、統一された認証システム「PKI(Public Key Infrastructure=公開鍵暗号基盤。公開鍵暗号方式を利用したセキュリティー・インフラストラクチャとも訳されている)」の導入を始めました。これは個人が使用する端末を認証するものですが、セキュリティー上問題のあるActiveXに依存したアプリケーションで実装したため以前から安全性が危惧されていました。今回の攻撃発生を許した原因のひとつは、このセキュリティー上の問題だったと報告されています。

社会インフラの「穴」も現場の処理で済ます危うさ

名和 日本でも今年5月に「マイナンバー法」が成立し、韓国のようなPKIの導入がしやすくなるのではないかと考えられております。いずれ、あらゆるサービスをマイナンバー制度に一本化するという動きになっていく可能性が否めないからです。そうなれば、かつてロシアから大規模なサイバー攻撃を受けたことのあるエストニアや米国、韓国と同じ状況に日本もなっていくかもしれません。つまり、日本もそうした国々と同じ軌跡をたどり、その結果、日本に対するサイバー攻撃もそう遠くない将来に起きるだろうということです。

 日本国内でも最近、いくつかのメディアが報道し始めていますが、社会インフラを担うクローズドシステムでマルウエア(悪意のある不正ソフトウエア)感染が発生したようです。その多くは、内部関係者にかかわる不可抗力によるものですが、すべては公表されていません。

 これは、もし攻撃者側が意図的にこのシステムに入ろうとした場合、いとも簡単に入ることができる、つまり侵入を許してしまう「穴」が潜在的に存在しているということを意味しています。

-- 公表されなかったのはどうしてですか。

名和 軽微な事故あるいは障害だったと整理されたと聞いています。つまり上部の制御システムのベンダーや各インフラの事業者に知らせないまま、現場限りで処理されたということです。日本にはそんな構図がまだまだ存在しており、非常に残念なことだと思っています。

【注】 スノーデン氏の内部告発については今年6月5日、英ガーディアン紙が「NSAが米電話会社ベライゾンの通話記録数百万件を毎日、収集している」とスクープしたのが始まりだった。続けて6日には米ワシントン・ポスト紙が「NSAと米連邦捜査局(FBI)が『PRISM』と呼ばれる極秘情報収集プログラムでインターネット上の個人情報を集めている」と特報した。9日になってスノーデン氏が「内部告発したのは私だ」と名乗り出た。

 一連の暴露は、ちょうど米カリフォルニア州の保養地で開催されていた米中首脳会談に影を落とし、オバマ大統領がネット上の極秘調査はテロ防止策の一環であり、連邦裁判所の許可や米議会の承認を得ており、法的な問題はないと釈明する事態に追い込まれた。同首脳会談でオバマ大統領は中国側にサイバー攻撃の中止を求めた。

 ところが同月12日になって米国の面子が潰されるという事態が起きた。今度は香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙が、スノーデン氏の情報をもとに「米政府が2009年から中国本土や香港の大学、公務員、ビジネスマンらのコンピューターをハッキングしている」と報じたのだ。

 その後、サイバー攻撃問題は7月10、11日の両日、ワシントンで開かれた米中の「戦略・経済対話」でも取り上げられた。しかし、双方の主張は並行線をたどった。両国は年内に2回目のサイバー問題に関する作業部会を開くことにしたが、相互不信が残っている限り、サイバー空間にかかわる国際ルール作りは難航が予想される。

 
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