経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

外国人役員が引き上げる日本企業の役員報酬

株主総会が終わり、上場企業の役員報酬の実態が明らかになった。かつては社長の報酬が1億円を超えるだけで大きな話題となったが、今ではそれは当たり前。役員全員が億超えの企業も現れた。これから日本企業の役員報酬はどこまで増えていくのか――。文=本誌/関 慎夫

ソフトバンクの役員報酬が1、2位を独占

6月の株主総会を終え、今年もまた、役員報酬ランキングが話題となった。今年のトップは、先日、退任したソフトバンクグループ(SBG)のニケシュ・アローラ前副社長の64億7800万円、2位も同じくSBGの米国事業責任者、ロナルド・フィッシャー氏の20億9600万円だった。

2年間で200億円以上の報酬を手にしたアローラ氏もすごいが、2位のフィッシャー氏も相当なもの。2013年3月期の報酬は1億6900万円、翌年は3億2300万円にとどまっていたが、15年3月期には17億9100万円と跳ね上がり、そして今年は20億円を突破した。これは、アローラ氏を招くにあたり、これまで米国事業を引っ張ってきたフィッシャー氏に配慮した結果だろう。

ちなみに孫正義・SBG社長の役員報酬は1億3千万円。アローラ氏の50分の1にすぎない。しかもこのほどアローラ氏に代わって副社長に就任した宮内謙氏でさえ3億1700万円もらっていることを考えると少な過ぎるようにも思える。ただし孫氏の場合、株式配当金が100億円を超えているので、役員報酬の多寡はあまり意味がない。

3位はアオイ電子の大西通義氏の11億6800万円。アオイ電子は高松市に本社のある電子部品メーカー。創業者の大西氏は1969年から47年間にわたり社長、会長を務めたが、今年1月に取締役を退任したため、その退職金および創業者慰労金が加わった。

4位以下は別表のとおりだが、4位カルロス・ゴーン氏、5位岡田和生氏、9位三津原博氏はいわば常連だ。ゴーン氏はついに10億円を突破したが、これ以外にルノーから8億8千万円の報酬を得ているため、合計では20億円に迫る。もっとも、今年のルノーの株主総会では、この報酬が高過ぎるとして、過半数の株主が反対した。取締役会は、減額せずに支払ったものの、次年以降見直すことにした。これが、今後の日産の役員報酬にも影響を及ぼす可能性もある。

また5位のユニバーサルエンターテインメント(ユニバーサルE)の岡田氏も、ここ数年、ランキング上位に定着しているが昨年の9億5400万円よりはほんの少しだが減額となった。もっともユニバーサルEの場合、現在、フィリピンに巨大カジノを建設中で、「開業に向けてさらなる建設資金および開業費用が見込まれる」ことを理由に、無配を決議している。株主の反発もあるかと思われたが、6月末に開かれた株主総会では、むしろカジノへの期待を語る株主が大半で、岡田氏の高額報酬についての質問は出なかった。カジノの開業は年末の予定で、運営がうまくいけば、年間1千億円程度の利益が見込まれるという。そうなれば岡田氏の報酬はさらに増えることになりそうだ。

日本人サラリーマンの役員報酬最高峰はソニー・平井氏

外国人を除き、サラリーマン経営者として唯一、トップ10に入ってきたのがソニーの平井一夫社長で、報酬額は7億9400万円。ソニーのトップとしては、前CEOのハワード・ストリンガー氏が00年3月期に8億1650万円の報酬を得ているが、金額はこれに次ぐ。

ストリンガー氏の時は、赤字決算の中の高額報酬だったため、大きな批判が起きた。その点、平井氏の場合は、不振に喘いでいたエレクトロニクス部門を黒字化し、営業利益で3千億円近い水準まで業績を立て直したのだから、ある意味、胸を張って受け取ることができるだろう。

表にはないが、ソニー以上に業績がいい日立製作所の中西宏明会長の報酬額は1億6100万円。平井氏の5分の1の水準だ。また、23人の役員全員が1億円以上の報酬をもらったことで話題になった三菱電機の柵山正樹社長も2億6千万円にとどまる。恐らくこの水準の報酬額が、日本の伝統的な巨大企業のサラリーマン経営者の報酬の上限なのかもしれない。

しかしランキングにもあるように、日立の場合、社長は1億円台にすぎないが、ジョン・ドメ執行役常務は9億円の報酬を受け取っている。ドメ氏は、日立の米州総代表を務め、企業買収をしかけるなどして事業を拡大してきた。今度の報酬はその功績に報いるとともに、人材流出を食い止める意味がある。

企業がグローバル化を目指せば目指すほど、外国人役員の登用は不可欠だ。そして優秀な外国人経営者を得ようと思えば、SBGのアローラ氏は例外としても、破格の報酬を支払わなければならない。そしてその高額報酬が、日本人経営者の報酬額を引き上げる。

「日本ほど新入社員と社長の年収に差がない国はない」。ほんの少し前まで、これが日本企業の常識だったが、今ではその言葉を聞くことも少なくなった。今までは、年収の「億超え」が話題になっていたが、あと何年かすると、「10億超え」でようやく騒がれる時代が来るかもしれない。

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