経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

霧島酒造はなぜ焼酎シェア日本一になれたのか

霧島酒造2代目、江夏順吉氏の執念

「日本一になったのに、いまだに鹿児島県産と間違われることが多いんですよ」

宮崎県都城市で観光PRを担当する職員は苦笑いしながらこう語る。

話題にしているのは、現在、日本で最も売れている芋焼酎「黒霧島」。蔵元は同市に拠点を構え、今年2016年にちょうど創業100周年を迎えた霧島酒造だ。

読者の中にも、芋焼酎と言えば鹿児島という認識の人が多いかもしれない。だが、霧島酒造が焼酎メーカーの売上高トップに立ったのは昨年で4年連続。15年の売上高は589億円と10年前の約2.9倍に達し、2位の三和酒類(大分県、主力商品は「いいちこ」)を約100億円突き放している。20年には1千億円突破が目標だ。

現在、焼酎市場自体は縮小傾向にある。

2003年ごろに始まった“焼酎ブーム”を覚えているだろうか。芋焼酎や麦焼酎などの乙類(いわゆる本格焼酎)が人気となり、全国的に愛飲者が増えた。だが、00年代半ばにブームは過ぎ去り、メーカー各社の売上高合計も08年をピークに減少を続けている。

そんな中にあって快進撃を続ける霧島酒造だが、今に至るには長年にわたる生みの苦しみがあった。

創業者、江夏吉助氏から1949年に社長を継いだ江夏順吉氏は、学者肌で研究熱心だった。霧島山脈からシラス層や砂礫(されき)、火山灰土などを潜り抜け、溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)にある無数の割れ目に溜まった地下水を掘り当てることに成功。この「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」を焼酎の仕込み水や割り水に使用し、原料となるサツマイモの選別にも没頭した。順吉氏の三男で現専務の江夏拓三氏いわく「シェパードのように敏感な鼻を持っていた」とのことで、晩年はブレンダー室にずっとこもっていたという。

血のにじむような努力の一方で、販売は振るわなかった。「いいちこ」や「白岳」、「雲海」といった競合商品にシェアをどんどん奪われ、売上高は100億円を下回る時代が続いた。そんな中、1996年に順吉氏は他界、次男の江夏順行氏が社長を継ぐことになる。

霧島酒造のこだわり―主役はあくまで「食」

霧島製造ライン3

水、米、芋などの原料には徹底的にこだわる

志半ばで逝ったとはいえ、順吉氏の残した遺産は大きかった。

品質を探求する根底にあったのは、焼酎はあくまでも“食”を引き立てるものであり、主従関係でいえば「従」であるという考え方だ。順吉氏が、スッキリとした味わいを実現できる霧島裂罅水を採用したことによって、これが実現できた。

そして98年、後進たちの手によって本格芋焼酎「黒霧島」が世に送り出された。

PRは、徹底的に「主」である食を強調する方法を取った。江夏専務は言う。

「何百種類という食の紹介をして、社内からは食ではなく焼酎の宣伝をしてくれと言われましたが、頑としてやり続けました。新聞などで宣伝するときも、大半が食のPRで、1/20程度のスペースだけを焼酎の宣伝に当てるという具合です。その過程で、食べ物をより引き立てる黒霧島という商品が生まれたんです」

食と焼酎の関係性をいち早く見抜き、それに合致する商品を徹底的に研究してきたことが現在の躍進につながっていると強調する。

冒頭紹介したように、今のところ「黒霧島イコール都城」の認識が世間に浸透しているとは言い難い。しかし、江夏専務は

「鹿児島の焼酎とは全く違う」

と、つくり手としての誇りを滲ませる。

 行政と強固なタッグを組む霧島酒造

業績が絶好調なことも理由だろうが、霧島酒造の社内には活気がある。社員の平均年齢は32歳と、高齢化が進む地方の企業としては異色だ。地元へのUターン就職組をはじめ、宮崎県とは縁のない若者も最近では入社してくるという。

そのエネルギーに呼応した人物がいる。現都城市長の池田宜永氏だ。

「行政もこれまでとは違うことをやらないといけない」

2012年に就任した40代の若き市長は、地元の振興のために霧島酒造と包括連携協定を結び、地元産の「食」と「焼酎」を前面に押し出す戦略を展開。畜産業が盛んで焼酎文化が浸透している都城の特性を生かし、「日本一の肉と焼酎」をテーマにPRを行った。その結果、15年度のふるさと納税額で全国一位、2位以下を大きく引き離す42億3123万円の寄付金額を集めた。

ふるさと納税の返礼品選びにあたっては、多くの地元企業が参画を希望した。しかし、霧島酒造が「食を引き立てる焼酎」にこだわったように、池永氏も当初は「肉」と「焼酎」に徹底的にこだわったという。現在は市と地元企業70社で「ふるさと納税振興協議会」を設立、企業が市に販売した商品売り上げの一部を地元のPRに活用する仕組みをつくり、さらなる地域の活性化に取り組む。

都城市にとって、肉と焼酎という2つの日本一があったのはラッキーでもあった。だが、躍進を可能にしたのは、企業と行政トップの揺るがぬ信念、そして強固な信頼関係だろう。

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