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北海道新幹線の現状は「函館独り勝ち」

3月の開業から半年が過ぎた北海道新幹線。その期待どおり、新幹線を利用して北海道を訪れる人は、開業前の倍に達した。しかし潤ったのは函館市などごく一部にとどまっており、今後どのように改善していくのか。この半年間で課題もはっきりしてきた。文=ジャーナリスト/住田寛

利用者数は在来線の2倍

北海道新幹線が今年3月の開業から半年を迎えた。観光キャンペーンなどの効果もあって乗客数は比較的順調に伸びているように見える。一方、観光客の多くは函館市とその周辺にとどまるなど、多くの課題も見えてきている。

「利用者数は累計で在来線の2倍弱に上り、着実に利用いただいている」

石井啓一国土交通相は9月23日の閣議後記者会見で、北海道新幹線の現状をこう評価した。さらに「特に函館周辺の観光地は客数が増えている。道全体もインバウンド(訪日客)が急増している」と付け加え、JR北海道などが引き続き、利用促進に取り組むことに期待感を示した。

JR北海道によると、3月26日の開業から8月末までの新開業区間(新青森~新函館北斗)の1日当たり平均利用者数は約7800人に上った。最低5千人と想定した当初目標を大きく上回っている。特に夏休みシーズンの8月は開業以来最多となる1日9600人もの利用があった。

最も恩恵を受けているのが、終点の新函館北斗から快速で20分程度で着く北海道の玄関口・函館市だ。国の特別史跡である五稜郭を見下ろす「五稜郭タワー」は4月からの半年間、入場者が前年比で約4割増えた。函館山や函館朝市にも例年より多くの観光客が詰めかけ、ホテル不足も指摘されるほどだ。JR北海道は「道外から観光客を呼び込むための旅行商品やキャンペーンが、首都圏や関西地方で成果を上げた」とホクホク顔だ。

東北にも効果は現れた。「青森ねぶた祭」「仙台七夕」など東北6県の主要な夏祭りの観光客が、東日本大震災前の2010年以来6年ぶりに1500万人を回復したのだ。

JR東日本によると、自社の旅行商品で青函地域を訪れた首都圏からの客は前年比で2倍、東北6県からも1・5倍となったという。

観光客は函館に集中

観光客は函館に集中

ただ現状では「函館独り勝ち」の印象がぬぐえない。

道南から北側への人の流れは大きく増えておらず、函館を中心とする道南地域以外に恩恵は及んでいないのが現状だ。ある調査では新幹線などで函館を訪れた道外からの客にその行き先を尋ねたところ、約7割が「函館だけ」と答えたという。

青森県は、北海道新幹線を東北新幹線八戸駅(2002年開業)、新青森駅(10年開業)に次ぐ「第3の開業」と位置付け、早くからさまざまな取り組みを進めてきた。だが、現状では開業効果は限定的と言わざるを得ない。

本州最北端の新駅「奥津軽いまべつ駅」は青森県今別町にある。人口は約3千人。新幹線駅のある自治体で人口が最も少なく、町は「日本一小さい新幹線のまち」を前面に出し、ハード、ソフト両面で誘客策を打ち出した。

そうした努力もあってか、利用者が1日平均70人程度の奥津軽いまべつ駅は、夏休みやイベント開催時に数百人が利用したという。観光名所の「高野崎」に近い宿泊施設は前年より3割程度客が増え、周辺の飲食店などの売り上げも増えた。

一方で周遊観光の盛り上がりは今ひとつだ。県や今別町、五所川原市などは奥津軽いまべつ駅と津軽鉄道の津軽中里駅を結ぶ1日4往復の路線バスを開設したが、1日の乗客は10人未満。利用者ゼロの日もある。当てが外れ、「観光シーズン以外はさっぱりだ」(バス会社)との声も聞こえてくる。

青函トンネルに140キロの壁

利用客増に向けた今後の課題は、「札幌延伸」「高速化」に尽きる。

青森~札幌間は法で定められた整備新幹線5路線のうちの一つだ。新函館北斗駅からさらに北を目指す札幌延伸ルートは、開業時期が当初の35年度から30年度末へ前倒しされた。既に国内の陸上トンネルでは最長となる約32キロのトンネルの掘削工事が始まっている。

現在、在来線の特急で約3時間半かかる函館~札幌間が、新幹線開業後は1時間余りで結ばれるとあって、観光だけでなくビジネスでの利用が大きく増えることは間違いない。沿線には訪日客に人気のスキーリゾート・ニセコ地区もあり、外資系のデベロッパーが開発を加速。関係者は「新幹線で観光客はさらに増える。ニセコもさらに発展するはずだ」と話す。

また、経済界からはさらなる開業前倒しを期待する声も上がっている。札幌市は冬季五輪の招致活動を進めており、これを前倒しの材料にしたいとのもくろみもある。

もう一つの課題はスピードだ。北海道新幹線は東京~新函館北斗間が最速で4時間2分。航空機よりも有利になるとされる「4時間の壁」を突破できなかった。航空機から客を奪い取った北陸新幹線とくっきり明暗が分かれた形だ。

理由はトンネル。青函トンネルを含む約82キロの区間は貨物列車と共用走行するため、安全性の観点から最高速度が時速140キロに制限されている。そもそも新幹線は「時速200キロ以上で走行」の定義があり、国交省とJR北海道、JR貨物は高速化に向けた検討を進めているものの、一朝一夕には解決できそうにない。

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