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日産・ゴーンでも苦労する三菱自動車の「病巣」

ゴーン会長、益子社長体制で再建に挑む(Photo=佐藤元樹)

ゴーン会長、益子社長体制で再建に挑む(Photo=佐藤元樹)

度重なる不正問題で地に墜ちた三菱自動車。日産の再建に成功したカルロス・ゴーン氏が会長に就任することで、「日産の奇跡、再び」を目指すが、果たして思いどおりにいくか。三菱の病巣は根深く、置かれた状況は日産よりもはるかに厳しい。ゴーン氏の手腕が問われることになる。文=本誌/関 慎夫

日産自動車は3番目の助っ人

三菱自動車工業の今年度の世界販売台数が国内主要メーカーで「最下位」になることが明らかになった。今春に発覚した燃費不正事件で国内販売は壊滅的と言っていいほど落ち込んだ結果である。

1990年代には、パジェロの大ヒットもあって販売を大きく伸ばしたが、2000年と02年の相次ぐリコール隠し発覚によって信用が失墜し販売は激減、国内大手5社の地位からは滑り落ちていた。それでも体質は改まらず、ついに最下位転落である。

三菱自動車は、70年に三菱重工業から分離・独立した、日本では最後発の自動車メーカーだ。その歴史の浅さもあって経営基盤が弱く、過去、不祥事が起きるたびに三菱自動車は、外部に救いの手を求めてきた。

最初のリコール隠しの時は、当時のダイムラークライスラーに支援を要請、社長を受け入れた。ところが2度目のリコール隠しによってダイムラークライスラーは支援打ち切りを決定、社長も引き上げた。そこで頼ったのが三菱グループ。三菱重工、三菱商事、東京三菱銀行(当時)の御三家が中心になって出資に応じ、三菱商事から派遣された益子修氏が社長に就任(05年)し、再建を目指した。

そして今回の不祥事では、結束の固い三菱グループでも匙を投げざるを得なかった。代わって救いの手を差し伸べたのが日産自動車のカルロス・ゴーン社長で、日産は33.4%の株を取得するとともに、ゴーン氏自ら三菱自動車の会長に就任する。

ゴーン氏は99年、ルノーから当時経営危機にあった日産に派遣され、瞬く間に再生を果たす。これは日本産業史に輝く快挙と言ってよく、ゴーン氏の手腕は高く評価された。

ゴーン氏が日産再生に用いたのが「日産リバイバルプラン」(NRP)だ。これは、工場閉鎖や調達先の半減など、聖域を設けない構造改革計画で、この計画を遂行することで、①00年度の当期利益の黒字化②02年度の営業利益率4.5%以上③02年度末の有利子負債7千億円以下――の3つの数値目標をコミットメント(必達目標)とし、達成できなければ経営陣全員が退陣するという背水の陣を敷いた。

結果は周知のとおりで、倒産寸前だった日産はよみがえる。日産が三菱自動車の救済に名乗りを挙げた時、多くの三菱社員が歓迎したのも、この実績があってこそ。「ゴーンさんが、これまでの経営陣ができなかったような施策を実行してくれればわれわれは生き残ることができる」(三菱自動車社員)と期待を寄せている。

益子社長留任に社内の白い目

しかし、本当にNRPの再現がなるのか、疑問も残る。ゴーン氏はNRPを進めるにあたって「すべての答えは社内にあった」と語っている。NRPの策定は、若手社員を中心としたクロスファンクショナルチームが担当した。そして、その施策は、多くの社員が認識していたものばかりだった。ただし、長年のしがらみと、「銀座通産省」(銀座は当時の本社所在地)と呼ばれるほどの官僚的風土が、「正しい経営判断」の邪魔をしていた。ゴーン氏は外部からきた人間の強みを生かし、邪魔をするしがらみや前例をすべて取り除いた。もともと日産には技術力があり、販売網も整備されていた。成長の阻害要因を取り除きさえすれば、自然と成長軌道に乗っていった。

ところが三菱自動車の場合、基礎的なメーカーとしての力が当時の日産と比べて劣っている。というのも、リコール隠しが発覚してからの長期低迷期に、多くの優秀な社員が会社を去って行ったために技術力は低下。燃費不正の問題でも、競合車よりいい燃費を追求したものの、技術力がないがために不正に走らざるを得なかった。今後、日産から技術供与されることになるだろうが、一度落ちた技術力を回復させるのはそう簡単なことではない。

もう一つ、再建の障害になりかねないのが社長人事だ。12月の臨時株主総会で新経営陣が誕生するが、会長にはゴーン氏、社長には現会長兼社長の益子氏が就く予定だ。

益子氏は10年以上にわたり三菱自動車のトップを務めているのだから、今日の事態を招いた経営責任は重い。益子氏本人も日産の支援が決まった当時は「新体制には残らない」と語っていた。しかしゴーン氏の強い要請により、残留することになった。

NRPでは、ゴーン社長、塙義一会長(前社長)という布陣だったが、それにならったともいわれている。改革には痛みはつきもので、その痛みは社員の不満を呼ぶ。塙氏はそのなだめ役として機能した。その役割を益子氏に期待しているという解釈だ。

しかし生え抜きの塙氏と違って益子氏は、三菱商事からの派遣社長である。同じ役割などできるはずもないし、社員の間には益子氏留任に白けた空気が広がっているのだから、なだめ役など到底、務まらない。

どんな立派な再生プランができたとしても、結局は社員が一丸となって取り組むかどうかで成果が決まる。今度の人事が水を差すことにならなければいいのだが。

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