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シャープ再生に自信をみせる戴社長の実力やいかに

戴正呉・シャープ社長

戴正呉・シャープ社長

シャープが2016年度上期の決算発表を開催したが、戴正呉社長にとっては初めて公にシャープの経営を語る場となった。戴社長は自ら練った「経営基本方針」の有言実行に努めているという。その成果は徐々に表れ、シャープの業績回復を後押ししている。文=本誌/村田晋一郎

有言実行の姿勢を強調

台湾の鴻海精密工業傘下として再起を図ることになったシャープだが、足元のビジネスは回復傾向にある。

戴正呉社長が実務を開始したのは出資完了後の8月21日だが、鴻海の意向は、戦略的提携発表から1カ月後の5月12日に公表した「早期黒字化に向けた3つの構造改革」で示された。2016年度上期はこの具体化に注力してきたという。

上期の売上高は第1四半期の落ち込みが響き、前年同期比でマイナスとなったが、営業利益は黒字転換。通期では売上高が前年度比18.8%減の2兆円となるものの、営業利益は257億円の黒字、当期純利益は418億円の赤字を見込んでいる。下期に限っては、純利益が3年ぶりに黒字化する見通しで、来年度以降の純利益の黒字化にめどをつける。下期以降は成長軌道へ転換し、18年度には東証一部への復帰を目指すという。

戴社長が決算会見で強調したのが「有言実行」と「責任」という言葉だ。これらを徹底することで自らの求心力を高めている印象を受ける。「対外的に公表したことは何があろうとも必ず達成する」というスタンス。未達となれば、「新体制になっても、やはりシャープは信頼できないとの烙印を押され、未来はない」との危機感に基づいている。有言実行については、14年度以降、2度仕切り直した中期経営計画が未達に終わった経緯があり、「今までのシャープは有言実行ではなかった」と語る。

戴社長の就任は4月の提携発表時に決まっていたが、実務開始までの約3カ月はシャープの経営に参画できなかった。その間に戴社長はシャープを分析。そして熟考の末、実務開始にあたり40ページに及ぶ「経営基本方針」をまとめ、幹部に説明することからシャープ再建を始めた。現在は経営基本方針の有言実行を追求し、内容の達成をその都度チェックしているという。

基本方針には、3つの構造改革の内容も含まれており、会見においては、構造改革の項目の推進状況がそれぞれ示された。現時点で全36項目のうち、堺事業所への本社移転をはじめ19項目を実現しており、その効果が徐々に業績にも反映しつつある。年末までにこの達成率をもっと上げていきたいという。

また、成長戦略についても現在10項目を設定。そのうち有機ELディスプレーのパイロットライン投資など3項目が達成済みという。このように進捗状況を公にすることで、有言実行の姿勢を強調している。

その一方で、現時点で不明確なことは明言しない慎重さもうかがえた。特に今後の成長の鍵を握る有機ELディスプレー開発については、「試作してみないと判断できない」と述べるにとどめた。なお、当初発表するとみられた中期経営計画は、今後の事業の統合や改革の状況を判断した上で、来年4月に発表するという。

いびつな人員構成をどうするか

戴社長は自らの「責任」についても熱く語った。経営上の課題はすべて自分の責任であり、すべてブレークスルーしたいと意気込む。

課題の一つとして挙げたのが商慣習だ。シャープは原材料の購買契約や施設の賃貸契約などで、取引先と多くの「不平等な契約」を結ばされており、それがコストに響いているという。今までの契約は尊重するが、見直しの余地があるものについては、自ら責任を持って交渉に乗り出し、改善していくという。ただし、現在のシャープの力は弱いため、鴻海の後ろ盾で有利に交渉を進めていく方針。

鴻海の力を借りる一方で、鴻海グループにおけるシャープの位置付けは、あくまで「戦略投資」であることも強調。シャープの独立性と透明性を維持することにも責任を持って経営に当たるという。その一環として、戴社長は年内に鴻海の役員を辞し、シャープの経営に専念する意向を明らかにした。

また、人材についても取り組むべき課題として挙げた。人員削減は経営陣の求心力低下につながりがちだが、戴社長は就任後、人員削減に言及したことはないという。三原工場(広島県)など拠点の統廃合を検討しているが、再編がどのような形になっても人員は削減せず、配置転換で対応する方針。今後の事業展開によっては、一部事業を内製化する可能性もあり、その際には人員が不足するためだという。むしろ問題は年齢構成にある。シャープの従業員の平均年齢は49歳以上、過去のリストラにより中堅層から若年層が不足している。このため、過去に退職した40代半ばの年齢層の再雇用や今後の新卒採用を積極的に行っていくという。

滑り出しとしては、戴社長の経営改革は順調なように見える。経営課題の抽出と解決に関して、有言実行で遂行する。この有言実行については、全社員にも遂行を求めており、徐々に成果が上がっていることから、戴社長自身、それなりの手応えを感じている印象を受ける。ここまでのところシャープに変化の兆しは感じられる。しかし最終目標に掲げる「グローバルブランドへの飛躍」は、今後も戴社長が有言実行と自らの責任を貫けるかに懸かっている。

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