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幹部育成と失敗の効用

「仕事を任せられない幹部社員が多い」というリーダーの声をよく耳にする。このようなとき、リーダーはどのような対応をとればよいのだろうか。[提供:経営プロ]

仕事を任せられない幹部社員

「ウチの幹部社員には仕事を任せられない」。リーダーの皆さんが抱える典型的な悩みの一つであろう。このように感じているリーダーに「なぜ幹部社員に仕事を任せられないのか」と尋ねると、異口同音に「まだ力不足だから」「失敗をするから」などの回答が返ってくる。かといって、リーダーがすべての業務を一人で遂行するには限界がある。そのようなやり方では組織の成長も頭打ちとなり、環境変化に対応することもままならない。

では、リーダーが「ウチの幹部社員には仕事を任せられない」と思うときは、どのように対処すればよいのだろうか。一つには「失敗をしても構わないから、あえて仕事を任せる」という手法がある。

人間の成長過程には「大きな転換点」が存在する。代表的な「転換点」が「失敗をしたとき」である。失敗から学ぶことは実に多い。失敗をするとたくさんの “気付き” を得ることができ、その後の大きな成長・成功に繋がることが多いものである。従って、幹部社員の成長を促して組織を支える人材に育成するためには、幹部社員の成長過程に必要な「大きな転換点」を意図的・計画的に与える必要がある。そのためには、「失敗をしても構わないから、あえて仕事を任せる」という手法が有効である。

これに対して、幹部社員が難なく遂行可能な仕事ばかりを与えた場合にはどうなるであろうか。確かにその幹部社員は仕事で失敗をすることはないであろう。しかしながら、「まだ力不足だから」とできる仕事ばかりを任せていては、その幹部社員が「成長」をすることもない。つまり、幹部を成長させるために「あえて失敗の機会を与える」というのもリーダーの仕事の命じ方の一つと言えるわけである。誤解を恐れずに言えば「失敗をさせるために、仕事を任せる」とも言える手法である。

成長のために「失敗」をさせる

リーダーの皆さんがこれまでの自分自身の職業人生を振り返ったとき、「一度も失敗をしなかった」という方は恐らくいないであろう。それどころか、上司から大きなハードルとなるような仕事を与えられ、失敗を繰り返しながらそのハードルを乗り越えたときこそ、自分自身の大きな成長を実感できたのではないだろうか。失敗を重ねたかもしれないが、その経験がその後の職業人生に大いに役立っているはずである。もしも、今まで「失敗をした経験」がなければ、確かに平穏無事な職業人生活であったかもしれないが、今のあなたの実力が身に付くことはなかったのではないだろうか。部下に「失敗をさせる」ということは、人材育成上、極めて効果が高くかつ重要な行為と言えよう。

ただし、「失敗をしても構わないから、あえて仕事を任せる」には、いくつか注意点がある。はじめに、経営が傾いてしまうようなあまりに大きな失敗をさせるのは好ましくない。あくまで、企業運営上の影響が大き過ぎない失敗を経験させることがポイントである。そのためには、「任せる仕事」が経営に与える影響をよく精査してから命じなければならない。

また、「任せる」といっても、企業の経営方針からかい離したところで好き勝手に仕事を進められては困ってしまう。従って、「業務の基本的な方針」「目指すべきゴール」などはリーダーから事前に提示し、その範囲内で任せるという手法が有効である。もちろん、定期的な状況報告などをルール化し、リーダーが状況を把握できる仕組みを用意しておくことも忘れてはならない。

さらには、予想どおりに失敗をした場合に、「何をやっているんだ!」などと単に失敗した事実を責め立てるのでは意味がない。「失敗から何を学ぶか」「その失敗を次の成功にどう活かすか」を考えさせ、本人の糧にさせることが何よりも重要である。

幹部社員にあえて失敗をさせるのはリーダーにも大いなる勇気が必要であり、決して簡単なことではないかもしれない。しかしながら、「失敗をするから仕事を任せられない」ではなく、「成長させるために、失敗をするような仕事を任せる」という“発想の転換”も幹部育成には必要なのである。

コンサルティングハウス プライオ代表 大須賀信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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