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H.I.SとANAが支援する「2023年宇宙の旅」

澤田秀夫・H.I.S会長

澤田秀夫・H.I.S会長

早ければ2023年にも国内企業によって初の宇宙旅行が事業化される。事業化を目指すのは、名古屋に本社を持つ宇宙ベンチャーのPDエアロスペース。H.I.SとANAホールディングスの支援を受け、「日本から宇宙へ旅立つ」宇宙ビジネスに挑む。文=本誌/古賀寛明

新たな出資は開発を加速させるか

宇宙ビジネスのベンチャーであるPDエアロスペース(以下、エアロ社)は、12月1日、エイチ・アイ・エス(以下、H.I.S)とANAホールディングス(以下、ANAHD)の両社と資本提携を行ったと発表した。

今回、H.I.SとANAHDの2社が出資した額は、それぞれ3千万円と2040万円。三菱重工の航空機開発などに携わっていた経歴を持つ緒川修治社長率いるエアロ社を以前より応援していたH.I.Sに対し、ANAHDの片野坂真哉社長は2016年9月にエアロ社の工場を視察したばかりだが、その時に、「情熱に引き込まれた」という。ただ、宇宙旅行に必要な宇宙機開発には莫大な金額が必要なため、今回の出資が与える影響は限定的。しかし、緒川社長いわく、「今まで会う方、それこそ全員が応援してくださいましたが、お金は出してくれません。ですからこの出資は大きい」と喜ぶ。出資するH.I.Sの澤田秀雄会長兼社長も「これで終わりということではなく、増資も考えている」と更なる後押しを明言。将来的には、機体開発や整備をエアロ社が、運航や機体整備をANAHDが、旅行商品の販売をH.I.Sが担当する形を目指す。

緒川社長の話では、宇宙機ビジネスは大きく2つに分類できる。ひとつが衛星を使うビジネス。そして、もうひとつがロケットを使って人や物資を運ぶビジネス。エアロ社は、この輸送系に当たるが、そのなかでサブオービタル飛行、通称、弾道飛行とよばれる形で宇宙旅行を実現させようとしている。

その旅は高度15キロメートルまでをジェットエンジンで、酸素が薄くなってからはロケットエンジンで高度50キロメートルを目指す。到達までにマッハ3程度まで加速すれば、後は慣性で宇宙空間である高度100キロメートルまで行ける。宇宙空間滞在は5分程度だが、この場所でしか見られない景色を堪能し、その後、宇宙船は飛び立った空港へと戻ってくる。

世界で初めて民間人の宇宙旅行者であるアメリカの富豪、デニス・チトー氏は、約20億円を支払いロシアの宇宙船ソユーズに乗って、宇宙ステーションに1週間ほど滞在した。しかし、サブオービタル飛行であれば、滞在時間こそ短いものの1600万円から2500万円程で行ける。緒川社長は、23年の事業化のときには、これまでより安い、1400万円程度の運賃を目指しており、100人規模の乗客を宇宙に送れるようになった暁には日本から欧州への航空運賃程度を実現し、宇宙を身近なものにしたいと考えている。

宇宙旅行の先にビジネスチャンス

23年の事業化を目指す緒川社長だが、「現実的に、その道のりの2%しか進んでいない」という。それでも先行する欧米企業にこれ以上の後れをとらないよう喰らいついていく。民間分野での宇宙競争において日本のプレゼンスは高くない。世界をみればペイパルの創業者であるイーロン・マスク氏がスペースX社を創業し、低コストで質の高いロケットを開発。宇宙旅行の分野でもヴァージングループのリチャード・ブランソン氏がヴァージン・ギャラクテック社を創業。サブオービタル飛行での宇宙旅行を販売している。既に世界で700人以上が搭乗リストに名を連ね、17年以降の実現を目指している。日本でもクラブツーリズムが代理店として販売。現在「男性16人、女性4人の計20人が申込み済みです」(クラブツーリズム・スペースツアーズ・浅川恵司社長)。

世界的な企業家が圧倒的な資金力を武器に宇宙ビジネスに参入している欧米に対し、日本では緒川社長のようなエンジニアが中心であり、「お金があればできるものでもないが、資金力の差が開発力の差になっている部分も大きい」(緒川社長)という。しかし、近年では月面探査の「HAKUTO」や小型衛星分野のアクセルスペース社など、日本の宇宙ベンチャーも技術で存在感を発揮する。エアロ社の強みもその技術力にある。

緒川社長が特許を取得したパルスデトネーションエンジンを改良したものであれば、大気の状態に応じてジェット燃焼、もしくはロケット燃焼に切り換えることができる。既存の技術であれば2つのエンジンを必要とするところを1つのエンジンで賄うことができるのだ。宇宙機でこの技術が生かされれば、低コストで軽量、環境にも優しい。さらに、帰還時も飛行機と同じように着陸できるのも強み。そのため、わざわざ専用の空港も必要としない。ただ、この技術を実用化させるには今後も膨大な実験や試行錯誤が必要となる。つまりは今後、資金をどれだけ調達できるかが、事業化の道筋を決定すると言っていい。

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