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健康だけでなく、美容ニーズへの対応も調剤薬局が展開する一歩先のビジネス――新関一成(新成堂ホールディングス代表取締役)

「会社の規模を拡大することよりも今後、さらに進む社会の高齢化に、薬局として何をなすべきかを考えていくことが大事」。時代の先を読んだ、調剤薬局の枠を超えた事業展開に注目が集まっている。

競争激しい業界で店舗数を着々と増やす新成堂

新関一成

株式会社新成堂ホールディングス
代表取締役
新関 一成 (にいぜき・かずなり)

首都圏を中心に約30店舗を展開している調剤薬局チェーンの「新成堂薬局」。破竹の勢いで店舗数を増やしてきた。

出店の戦略は明確だ。まず、ベッドタウンエリアを狙うこと。多くの人は具合が悪くなれば、住んでいる場所の近くの病院へ行くからだ。さらに患者数の多い総合病院の近くに出店すること。

加えて、新関社長が得意としてきたのが、知り合いのドクターから開業の相談を受け、一緒に出店するパターンだ。

「薬局は意欲があれば出店できるという業態ではありません。自然にできたご縁の中で、適切なタイミングでその地域の医療に参加していくことが大切なのだと思っています」

美容漢方の専門店や投薬管理のためのアプリも

フィールドは医療だけでなく美容の分野にも広がっている。

渋谷に開店した「美容漢方薬局SINSEIDO」は、女性向けのセルフメディケーションスポット。健康とアンチエイジングをテーマに、体の内側は完全オーダーメードの漢方、外側はリンパケアで向き合う。一人一人の悩みにていねいに応えるべく、カウンセリングは完全予約制。セルフケアのアドバイスも好評である。

さらに「漢方リンパdeコリ解消シリーズ」「女子力UPシリーズ」などの各種セミナーも実施。品質の良さで選んだ各種サプリメントや、グッズも扱うなど、薬局の域を超えたサービスが魅力となっている。

災害時など、お薬手帳が手元にない場合でも服薬状況が分かる

災害時など、お薬手帳が手元にない場合でも服薬状況が分かる

また、新関社長がその社会的意義に共感してサポートしているのが、電子お薬手帳サービスの「hoppe(ホッペ)」である。その名の通り、一般的な冊子型のお薬手帳をデータ化できるアプリだ。薬の情報を管理できるだけでなく、服薬が必要な時間にアラームを設定できたり、薬局へあらかじめ処方箋の内容を送信できたりするなどの便利なサービスも付帯している。

薬局側でのシステム導入もパソコンさえあれば簡単にできるうえ、初期費用も含めて無料で使える。薬局のICT活用ニーズを支えるプラットホームを目指す。

新成堂創業時の必死な姿が会社のスタンダードに

新関社長は薬学部を卒業し、自らも薬剤師の資格を持つ。若い頃の入院経験がもとで、「人の命に関わる仕事をしたい」と医薬の道を志した一方で、子供のころから夢は“経営者”だった。

「薬学部卒という経歴を活かしてビジネスをやるといっても、製薬会社を作るわけにはいかない。それで当時、医薬分業が進み始めて発展が見込まれた調剤薬局への参入を決意しました」

しかし、記念すべき1店舗目は当てが外れた格好となった。目の前の大病院の院外処方への切り替えが予定よりも遅れてしまったのだ。閑古鳥が鳴く状態が続く中、新関社長は毎朝5時から店舗の周辺を掃除した。一部院外処方を行っていた診療科もあったため、その患者を当て込んでのことだったが、人は一度行った薬局はなかなか変えない。

それでも、朝早くから来る患者がいると聞いて、挨拶をし続けた。従業員に給料を払うため、夜間救急医療センターのアルバイトもした。「店をつぶしてなるものか」。当時の新関社長の必死な姿が、努力を厭わない現在の新成堂の社風の原型だ。そしてかつての苦楽を共にした社員が、今は新成堂の屋台骨に。新関社長は「彼らが財産」と言い切る。本格的な高齢化社会の到来を目前に、医療ニーズも増大。新成堂薬局の今後の展開に期待が募る。

株式会社新成堂ホールディングス

  • 設立/1997年11月
  • 資本金/1億3000万円
  • 売上高/45億円
  • 社員数/140名
  • 事業内容/調剤薬局チェーン・漢方薬局運営、不動産管理など
  • 会社ホームページ/http://www.sinseido.info/

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