経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

サバにこだわり抜いたとろさば料理専門店「SABAR」の凄さ

大人気の「サバしか出さない料理店」とろさば料理専門店「SABAR」

メニューにある料理はサバばかり、サバしか出さない料理店。とろさば料理専門店「SABAR」をご存じだろうか。

当然ながら「そんな店が流行るのか?」というのが、当初の巷の予想。ところが、それを鮮やかに裏切って、2014年の1号店開店からわずか2年で、あっと言う間に国内13店に拡大。16年7月にはシンガポールに出店と、念願の海外進出まで果たしてしまった。

「SABAR」を展開する鯖やの代表取締役 右田孝宣氏の「38(サバ)」へのこだわりがすごい。

「SABAR」のメニューは全店、38種類。席数は38(一部店舗を除く)。営業時間は午前11時38分(イイサバ)から、午後11時38分まで。オーダーストップは午後10時38分(トロサバ)。

箸、コースター、テーブル、壁……店内の至るところにサバのモチーフが使われ、グラスには「おつかれサバです!」の文字。

お客が店内に一歩足を踏み入れたら、すかさず“サバづけ”にしてしまおうという魂胆だ。徹底的に語呂合わせをすることで、クチコミ、PR効果につなげる狙いもある。

そして何と言ってもお客を惹きつけているのは、「臭みがあって食べにくい」という従来のサバのイメージを覆す、脂がのっていながらも上品な「とろさば」の美味しさだ。

「サバは回遊魚なので、“お客サバ”にも回遊してほしい」と、メニュー構成や店舗設計は、店ごとに変えている。すでに全店を“回遊”した「SABAR」の熱烈なファンも現れているのだという。

ビールを注ぐグラスには、「おつかれサバです!」の文字

ビールを注ぐグラスには、「おつかれサバです!」の文字

鯖1本で勝負の決意の裏側

今ではサバについて語り出したら止まらない、“サバ愛”いっぱいの右田氏だが、もともとは魚嫌いだった。それが何の因果か、高校卒業後、友人のツテで鮮魚店に勤めることになり、得意先の寿司店でごちそうになった賄いのカレイの煮付けの美味さに衝撃を受け、一気に魚にハマる。

23歳のときワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、回転寿司チェーンで店舗スタッフから工場長、エリアマネージャーなどを経験。帰国し、04年、30歳のときに妻といっしょに海鮮居酒屋を開業した。

そこで評判となったのが、サバ寿司。クチコミで、遠方からもサバ寿司を食べにお客がやって来るようになる。それを見て妻が、「サバ寿司一本でがんばってみたら」と言い出した。

最初は「サバだけでビジネスができるわけがない」と思っていた右田氏も、妻に言われ続けてだんだんその気になり、ついに決意。「鯖や」の社名は、妻の「サバ一本でやるんだから、まんまでいいやん」の一言で決まったそうだ。

周辺のオフィスから注文をとって、ランチタイムに、1本1,000円のサバ寿司(ただし、1本注文するともう1本サービスなので、実質1本500円)を、屋根にサバのオブジェを載せたバイク、名付けて「サバイク」で配達に行く。マスコミにも取り上げられ、「美味しい」と評判になり、連日売り切れに。ただ、この値段では、売れば売るほど赤字になるため、2カ月でやめた。

代わりに始めたのは、スーパーの店頭での催事販売。サバ寿司は一回り大きくし、1本2,000円にした。事前告知・事前予約の仕組みを取り入れ、どのスーパーでも催事当日には行列ができ、商品は完売。評判を聞きつけた百貨店から引き合いがきて、卸売りも始めた。

あいかわらずマスコミにも取り上げられ、見かけは派手だった。けれど、家内製造のサバ寿司だけでは売り上げに限界がある。内情は火の車で、一時はついに預金残高が1万5,002円にまで落ち込んだ。

だがそのときも右田氏は、サバ以外には見向きもしなかった。

それができたのは、副社長で右田氏の双子の弟、孝哲氏が「社長はサバのことだけ考えてろ」と言ってくれたことが大きかった。とにかくやれることをやろう、と腹をくくったら物事が良い方向に動き出し、駅弁、空弁、大手量販店との取引が立て続けに決まった。そしてさらに、クラウドファンディングとの出会いがあった。

サバを屋根に載せたバイク、その名も「サバイク」

サバを屋根に載せたバイク、その名も「サバイク」

サバ料理専門店の開店資金をクラウドファンディングで調達

サバ寿司の販路拡大に奔走していた右田氏の頭の中に、いつしか、サバ料理専門店のイメージが湧いてきていた。

けれど、開店資金がない。どうしよう、と思っていたところに、お世話になっていた商工会議所の相談員から「クラウドファンディングを使ってみませんか」と声がかかる。右田氏はワラにもすがる思いでその話に飛びついた。この決断が、鯖やの運命を大きく変えていく。

飲食店は、数年かけて開店資金を回収するケースが多い。ところが、数年後にはすでに業態が古くなっていて、テコ入れが必要だったりする。その繰り返しでなかなか利益を出せないのが実情だが、右田氏は投資型クラウドファンディングを活用することで迅速に資金を回収し、利益を生み出すビジネスモデルをつくり上げることに成功したのだ。

とろさば料理専門店「SABAR」3店舗の開店資金を募るクラウドファンディングは、13年9月にスタートし、翌14年4月にクローズ。この間に、目標の3,500万円を超える金額を集めた。この資金で、14年1月に大阪・福島に1号店をオープン、同年7月に天満、15年3月に東京・恵比寿に店舗をオープンさせた。

クラウドファンディングでは、資金調達と同時に、「SABAR」のコンセプトを発信し、事前PRをすることができた。このため店舗の滑り出しは好調で、多店舗展開にも弾みがついたのである。

サバの水産資源を守るため畜養に着手

同社は今、サバ漁の変革を目指してクラウドファンディングを活用し、これを「クラウド漁業」と呼んでいる。

15年に日本では約56万トンのサバが水揚げされたが、そのうち養殖ものが約7万トンで、天然ものが約48万トン。そして天然もののうち95%が、まだ卵を産めない2歳未満のサバを含む小さなサバで、鮮魚としての価値を持たず、缶詰になったり、養殖のエサになったりしているという。こうした乱獲が続けば、サバの水産資源が枯渇してしまうと右田氏は危惧する。

そこで「クラウド漁業」では、小さなサバを生きたまま買い取り、鮮魚として流通できる大きさになるまで畜養する。その畜養のための施設や、育てたサバの販路となる店舗の建設のために、クラウドファンディングで集めた資金を活用するのである。

「クラウド漁業」第一弾となったのは、サバの町として知られる福井県小浜市とのコラボレーションで、2017年3月8日(サバの日)にスタートした、「SABAR鯖街道よっぱらいサバファンド」。1億1,380万円(イイサバ)の目標額を掲げ、まさに今、プロジェクトが進行中である。

「SABAR鯖街道よっぱらいサバファンド」の記者発表会で、小浜市長と握手を交わす右田氏

「SABAR鯖街道よっぱらいサバファンド」の記者発表会で、小浜市長と握手を交わす右田氏

サバだけに特化したビジネスで創りだしたムーブメント

サバは日本ではポピュラーな魚だが、これまでサバだけに特化したビジネスは存在していなかった。鯖やは社名の通り、サバ一本に狙いを定め、その価値を追求することで、独自のポジショニングを確立した。

さらに、コラボレーションやクラウドファンディングによって、他企業や自治体、一般消費者を巻き込んで、ムーブメントを創り出し、“サバ文化”の浸透・活性化を実現している。

コンセプトを研ぎ澄まし、シンプルな価値提案をすること。これが、情報爆発下におけるビジネス成功のポイントである。

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