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中期経営計画の見直しに追い込まれたNEC「再成長の鍵」は

かつて「電電ファミリー」の長兄と言われ、多くのシェアトップ事業を抱えたNECが停滞から抜け出せないでいる。成長を期した中期計画も早々に破棄する事態となった。仕切り直しとなった年度のスタートは明るい話題もあるが、まだ楽観視できない。文=村田晋一郎

社長肝いりの中期経営計画が初年度で頓挫

新野隆・NEC社長

新野隆・NEC社長

NECは今年に入って、2016年度の業績を受けて、18年度を最終年度とする中期経営計画(18中計)を破棄した。

新野隆社長にとっては、いきなり躓いた格好だ。というのも、この18中計は新野社長の存在意義そのものでもあったからだ。

新野社長の就任が発表されたのは15年12月の会見。実際の就任は16年4月であり、3カ月前の発表について、前任の遠藤信博会長は、「(次期社長として)中期計画を誰が遂行するのか内外に示す必要がある」と語った。

しかも中計の策定については副社長兼CSO(チーフストラテジーオフィサー)としてかかわり、評価されたことで、社長に就任したとも言える。また、新野社長自身も社長就任の抱負として、中期計画の実行責任を挙げていた。

初年度からいきなり頓挫したが、新野社長が進めようとした18中計はどのような内容だったのか。

前任の遠藤会長は10年度から15年度まで6年間、社長を務めたが、在任後半の3年間は15年度を最終年度とする中期計画(15中計)を遂行。これを「変革の1期」と位置付け、「成長の礎づくり」として、社会ソリューション事業に大きく舵を切った。新野社長が進めた18中計は、15中計に続く「変革の2期」にあたり、「成長の柱づくり」を目指した。

収益構造の立て直しと成長軌道への回帰を掲げ、大枠は国内を中心とした既存事業が横ばいで推移する中で、セーフティ事業、グローバルキャリア向けネットワーク事業、リテール向けITサービス事業の3つに注力し海外も含めた売り上げを伸ばすというもの。最終的には売上高3兆円、営業利益1500億円、営業利益率5%を目指していた。

しかし、16年度において、大型案件の期ずれや期待案件の失注などが発生し、既存事業が目標に届かなかった。さらに注力3事業の立ち上げが遅れ、売り上げ成長は実現できなかった。第3四半期決算発表前の1月末の時点で、売上高を2千億円、営業利益を700億円下方修正する事態となり、16年度は売上高2兆6650億円、営業利益418億円に終わった。

この時点で新野社長は、「18年度に営業利益1500億円を目標としていたが、このままでは1千億円は達成できるものの、1500億円の達成は難しい」と判断。20年度を最終年度とする新たな中期計画(20中計)を18年1月に発表するとした。

計画見直しを迫られたNECの病巣とは

16年度の決算会見において、新野社長は、18中計の頓挫の理由について、まず環境や顧客動向の変化に応じたマネジメントが実行できなかったことを挙げた。

この理由から察するに、NECが抱えている問題は根深いと見る。というのも、遠藤会長が進めた15中計も結果的には目標未達に終わっているからだ。この時も新野社長は、計画の未達の理由を「市場への過度の期待と実行力不足」と語っていた。

新野社長自身、マネジメントとしての実行力が評価されて社長になったはずだ。その新野社長が実行力不足を真っ先に課題に挙げることは、NECの置かれている状況の深刻さを物語っている。

NECについてよく言われる指摘として、「電電ファミリー」であったことの弊害がある。電電ファミリーの中でもNECは長兄と位置付けられただけにNTTや国内事業への依存度が高すぎたことが仇となったというものだ。

確かに30年前の通信自由化までは、当時の電電公社や国内市場だけを向いて仕事をすればよかった。しかし、そうした姿勢は悪しき企業文化として根付き、外的環境への感覚を鈍くし、危機意識を薄れさせていった。通信自由化から近年のグローバル競争が加速する状況が来てもなお、NECに関しては結果的にそうした慣習から抜本的には脱却できなかったと言える。

それが、市場への見込みの甘さや変化への対応力の欠如を招き、新規事業や海外事業をなかなか拡大できない状況につながっている。

まして新野社長は、既存の路線の継承が求められて就任した経緯がある。遠藤社長時代は構造改革に着手したとはいえ、結果的に計画は未達に終わり、過去の企業文化から脱却したとは言い難い。新野社長が、その路線を継承する限り、根本的な大改革は難しいように映る。

NECの今後と次の中期経営計画の行方

では、今後、NECはどうなっていくのか。

ピーク時に5兆4千億円あった売り上げは今や半減。この間に半導体、携帯電話、PCなど、世界シェア1位もしくは国内シェア1位を獲得した事業を次々と切り離した結果である。これらの事業は売り上げ規模が大きい割に、コモディティ化が進み、収益性は良くない。同分野の日本企業が総じて苦境にあることを考えると、事業を切り離した経営判断は間違いとは言い切れない。

ただし、当然のごとく売り上げ規模は下がる。14年度に売上高が3兆円を割り、その後、売り上げの減少は止まっていない。15中計、18中計でも目標に掲げてきたように、3兆円が売上高の一つの目安となるだろう。

そして新野社長は「グローバルで戦う企業になるには、5%以上の営業利益率は必要」と語っており、営業率5%にはこだわりを見せている。恐らく20中計でも18中計そのまま、「売上高3兆円、営業利益1500億円、営業利益率5%」が目標になるのではないか。「一般消費者に身近な分野のナンバーワン事業はないが、売り上げ規模3兆円の高収益企業」が、NECが目指すべき姿と言える。

18中計を返上した上で、17年度は売上高2兆8千億円、営業利益500億円を見込む。第1四半期については、期初の計画を、売上高と営業利益が50億円、純利益が70億円上回り、増収増益を達成。特に純利益は、08年度以来の黒字転換となった。「リーマンショック以降に進めてきたポートフォリオ改革の効果が出ている」と川島勇CFOは語る。

ただし、通期に関して楽観視はできない。NECの業績は通常は下期依存型で、第1四半期が低調で、第2四半期に伸び、第3四半期でいったん下がって、第4四半期に大きく伸びる傾向があるが、川島CFOによると、今年度はその動きは当てはまらないという。

第1四半期が好調だっただけに、逆に第2四半期は厳しくなると見ている。また、結果的に15年度、16年度と2期続けて減収減益が続いており、しかも業績悪化の理由で同じことが指摘されたことを考えると、NECの病巣とも言える問題が解消されない限り、ここで成長に転じるかは疑問だ。

もちろんこの間も、18中計で掲げた収益構造の立て直しや成長軌道への回帰といった大枠の方針は当初の計画通り進めている。しかし、17年度は20中計発表までの「つなぎ」の期間となってしまっただけに、目標が不明確になった感は否めない。それだけに計画が完遂できるかは微妙なところだ。

現在、NECが進める事業は大きくは4つ。官公庁や公共機関などに向けたITインフラを提供するパブリック事業、民間企業向けにITソリューションを提供するエンタープライズ事業、祖業とも言える通信事業者向けネットワークサービスを提供するテレコムキャリア事業、そしてサーバなどのハードウエアを提供するシステムプラットフォーム事業から成る。

こうした事業は、世の中のICT化の流れに乗っている。そしてAI、IoTを活用する場面が広がり、本来、NECの事業機会は増えているはずだ。また、その機会をとらえる技術、ソリューションもNECは有している。

特に期待されているのは顔認証技術で、インバウンドの増加や東京オリンピックを見据え、パブリックセーフティでの需要が増える。NECの顔認証技術は、静止画で世界一を達成し、既に米国の国際空港の入国審査用顔認証システムに採用されている。さらに動画においても米国立機関の性能評価で1位を獲得している。こうしたソリューションはこれから強みとなる。市場はある、リソースもあるとなると、あとはやはりマネジメントの問題になる。マネジメントが実行力を高めて、いかに早く事業につなげるかだ。

新野社長は、次の20中計に向けて経営のスピードを早めると語っているが、計画策定までのブランクが1年開くこと自体、スピードが遅い印象を受ける。これまでさまざまな事業を切り離して、企業体としては身軽になったはずだ。20中計について、18年1月の発表や遂行時期を早めることから始めるべきではないだろうか。

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