経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

仕事へのモチベーションを劇的に高める社員研修があった

社員研修と社会貢献を両立させる「シゴトのチカラ」とは

シゴトノチカラ

中堅・大企業社員のモチベーションを向上

高校生たちを前に、自らの仕事体験や熱い思いをプレゼンするのは、一流アスリートでも有名経営者でもない一介のサラリーマン。その、ただの会社員の話に、生徒たちは食い入るように聞き入っている。NPO法人じぶん未来クラブが主催する「シゴトのチカラ」プロジェクトのひとコマだ。

本当に効果が実感できる社員教育研修はないものかと、頭を悩ましている経営者や人事担当者は多いことだろう。さしたる効果が見られず、研修が形骸化しているケースもある。だが、同プロジェクトを主導する大野高史副代表によれば、シゴトのチカラに参加した社会人は、明らかに仕事に対するモチベーションが上がるという。

参加するのは、従業員500人以上の中堅もしくは大企業の社員たちだ。創業間もないベンチャーと違い、こうした企業ではいかに社員の仕事に対するモチベーションを向上させるか、仕事の社会的意義を見出してもらうか、という課題に直面しているところが多い。特に、管理職や幹部候補の社員にリーダーとしての自覚を促す場として、同プロジェクトが活用されている。

社会人と高校生の双方にメリットある研修

一回のプロジェクトに参加するのは4社で、各社から4人ずつの計16人が選出される。2日間の準備期間を設け、最終日の3日目には2人ずつ8つのチームに分かれ、それぞれ25人前後の高校生たちの前でプレゼンを行う。

内容は、自らの仕事の中身、壁にぶつかった経験、それをいかに乗り越えたかといった個人の仕事ストーリー。自らの仕事を高校生たちに分かり易く伝えるための作業を行うことで、参加者たちにはあらためて自分の仕事を見つめなおす機会となる。

プロジェクトを支える大学生のボランティアスタッフ

プロジェクトを支える大学生のボランティアスタッフ

そして、社会人と高校生の距離を近づけるために、重要な役割を果たすのが大学生のボランティアスタッフたち。彼らはプレゼンの準備段階から、より高校生に近い目線で社会人たちに改善点などを指摘、本番に向けたサポートを行う。本番でも司会進行やナビゲーション役を務め、社会人と高校生の融和に努める。

研修後には、「会社のポジションに不満を持って辞めようと思っていたが、毎日仕事に行くのが楽しく、やれることがたくさん見つかるようになった」「今まで何となく仕事をしていたが、自分の仕事の社会的意義が腑に落ちた」「人前で話すのが苦手だったが、自信を持って話せるようになった」といった、ポジティブな反応が数多く返ってくるという。

一方、高校生にとっては将来のキャリアについて、真剣に考える場となる。プロジェクトに参加する前に高校生たちに「仕事」に対するイメージのアンケートを取ると、「お金」「大変そう」「忙しそう」といったものがほとんど。これが、プロジェクト終了後には「やりがいがある」「楽しそう」「成長できる」など、劇的にイメージが変わるのだという。

このように、社員研修とキャリア教育による社会貢献を高いレベルで両立させているのが、同プロジェクトの特徴だ。

社会人のプレゼンが終わった後は、仕事に対する高校生たちの認識も変わる

社会人のプレゼンが終わった後は、仕事に対する高校生たちの認識も変わる

学びのレベルが深く均一に

学校や地域社会主導で、生徒たちのキャリア教育のため、社会人を教室に呼んで仕事について語ってもらうという試みは他にもある。ただ、話し手によっては生徒たちの関心を引くこともあれば、逆に仕事に対するネガティブなイメージを拡大させてしまうこともある。クオリティを一定に保つことは容易ではない。

実際にシゴトのチカラの現場を見ると、周到に準備され、高校生たちの興味を引く内容に仕上げられているのがよく分かる。「誰が話し手になっても、高いレベルでクオリティを維持できるようにすることが大切」と、大野氏は言う。

実は今年6月まで、プレゼンを担当するのは1企業から1人だけで、他のメンバーはそれをサポートする形だったが、今は研修に参加した全員が自らのストーリーを語る方式に変更している。これによって、社員全員がより密度の濃い経験を積めるようになったという。

「以前はマネージャーとメンバーの関係性を深めたいという企業のニーズに応える形でしたが、今後は個人によりフォーカスすることで、学びのレベルが深いレベルで均一になるようにしました」(大野氏)とのことだ。

仕事へのモチベーションを劇的に高める社員研修の源流と今後

リクルートのメンバーを中心に発足

じぶん未来クラブのこうした活動の源流は、2000年に遡る。当時、リクルート社長だった河野栄子氏が、座長を務めていた経済同友会の教育ワーキンググループにおいて、メンバーから「若者を元気にする事業をやってほしい」と持ち掛けられたことがキッカケだった。

そこでリクルートでは世界中のキャリア教育や日本のキャリア教育の事例を調査して事業化を試みたが、当時の同社は多額の負債を抱えていたこともあり、採算性の面から断念せざるを得なかった。数年後にその時のメンバーが中心となって立ち上げたのが、じぶん未来クラブだ。

シゴトのチカラの発想のベースとなったのは、リクルートが手掛けていた高校生向けの進路情報誌の事業だった。そこで取り引きのあったある高校から、生徒たちのインターンシップをリクルートで行ってほしいという要望を受けて実行したところ、高校生たちは仕事内容そのものよりも、社員たちの働く姿勢や仕事に対する価値観に対して深く共鳴したという。

プロジェクトによって社会人と高校生たちの距離はグッと近くなる

プロジェクトによって社会人と高校生たちの距離はグッと近くなる

企業のESGの取り組みとして導入を目指す

一方、高校生たちに協力した社員たちにも、仕事に対してより真剣になるなどの変化が見られた。高校生たちのピュアな姿勢が、社会人のモチベーションを喚起するという発見が、現在の活動につながっている。

今後はさらに活動の規模を拡大し、社会的な影響力を一層高めたい、と語る大野氏。もともと企業側の人材育成のニーズから生まれたプロジェクトではあるが、学校や地域社会からのキャリア教育のニーズは非常に高くなっているという。

現在、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の要素を重視して、これらに対する取り組みに熱心な企業に投資するESG投資の動きも大企業を中心に意識が高まっている。「われわれのプログラムをESGの取り組みとして採用してくれるような企業が出てくれば、もっと注目度は上がると思います」と、大野氏は期待を寄せる。

実際にプログラムを見れば分かるが、社会人たちの熱気や高校生たちとの一体感を作っていく様子は、エンターテインメントとしても十分楽しめるものだ。社員のモチベーション向上を目指す経営者や人事担当者は、一度見に行って損はないだろう。

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