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鉢嶺登・オプト社長インタビュー「優秀な経営者を探して23年間旅をしている」

圧倒的に稼げる人とそうでない人との違いは何なのか。事業における成功と失敗の分かれ道はどこにあるのか。本シリーズでは、幾多の修羅場をくぐりぬけてきた企業経営者たちを直撃し、成功者としての「原点」に迫っていく。

鉢嶺登・オプト社長CEOプロフィール

鉢嶺登

(はちみね・のぼる)1967年生まれ。千葉県出身。91年早稲田大学商学部卒業後、森ビル入社。3年後、26歳で起業し、ダイレクトマーケティング業を展開する株式会社オプトを設立。2000年に日本初のインターネット広告システム「ADPLAN」を開発・販売、04年にJASDAQに株式公開。13年東証一部上場。15年に持ち株会社に移行し、現在は同社の社長グループCEOを務める。

3年で辞めると宣言して森ビルに入社した鉢嶺登氏

江上 鉢嶺社長は1967年生まれの今年50歳で、私と同い年なんですね。もともと起業されたのは、どんなキッカケだったのですか。

鉢嶺 中学生の時に戦国武将に惹かれまして、「生まれてきたからには世の中に何かを残したい」とおぼろげながら考えるようになりました。そのときに思いついた職業が3つありまして、企業経営者、政治家、教師のいずれかになろうと。その中で、経営者に一番興味が沸いたというのが、そもそもの始まりです。

江上 それは早いですね。以前、私は著書に「15歳までに人生が決まる」と書いて批判を浴びたことがあるんですが、ソフトバンクの孫正義さんにせよ、ファーストリテイリングの柳井正さんにせよ、小さい時から明確な人生計画がある点が共通していますね。

鉢嶺 私の場合は、父が公務員だったので反面教師になったかもしれないですね(笑)。安定した職業ではありましたが、仕事をやってもやらなくても給料が同じであるように思えて、私の中ではあまり魅力を感じませんでした。自分は、もっとでかいことをやりたいなと思っていました。

江上 高校生や大学生のときは、どんな過ごし方をされていたのですか。

鉢嶺 もともと大学にはあまり行く気がなかったんです。日本の場合、大学生になると勉強しなくなるし、行く意味があまりないなと。ただ、どこの大学に入ったかということがブランドという意味では大事と思ったので、受験勉強はしました。当時はまだ、将来どんなビジネスをしたいか具体的な考えがなかったので、親からも「大学に行けば見つかるかもしれないよ」と説得されました。ただ、大学に入っても案の定遊んだだけでした(笑)。

江上 でも、それで早稲田に入ったのですから、地頭が良かったんでしょうね。

鉢嶺 どうなんでしょうね。浪人した1年間だけは必死に勉強しましたが。

江上 卒業後はサラリーマンも経験されたのですか。

鉢嶺 森ビルに3年間勤めました。ただ、自分は3年で辞めると宣言して入ったんです。よく「独立をしたい」と言いながらサラリーマンを続ける人は多くいますが、自分はズルズルいくのが嫌だったので。

江上 私が主宰している経営者向けの講座では、最初のワークとして受講者に人生計画をつくってもらっています。鉢嶺社長のように、期限を決めて行動することが大切だと実感しているからです。

鉢嶺登氏の起業時代―年商150万円でもメチャメチャ楽しかった

鉢嶺登

起業初年度の年商は150万円だったという鉢嶺登氏。

江上 最初はどんな事業を手掛けられたのですか。

鉢嶺 FAXを使ったダイレクトメール事業です。それまでにいろいろとビジネスモデルを考えて、学生時代の友人やアルバイトの仲間などから、将来一緒に起業できそうな人に目をつけてきました。その人たちと、さまざまなビジネスモデルを研究する勉強会を開いて起業の1年前から議論した結果、アメリカでは当時既にダイレクトマーケティング市場がマスマーケティング市場を超えていたので、この流れが日本にも来るだろうという話になりました。

ダイレクトマーケティングといえば、日本では郵送のDMやテレマーケティングが代表的でしたが、FAXは単に送信機器としか認識されていなかったので、これをメディア化しようと考えました。都内では、主要5区と呼ばれる地域にオフィスが集中的に存在していることが森ビル勤務時代に分かったので、そこにFAXを送って回覧してもらえれば大きな効果が見込めるのではないかと思いました。

江上 起業の1年前から準備していたのは素晴らしいことだと思います。PDCAとよく言われますが、プランの前に準備が大事ということですね。友人の方たちと一緒にビジネスを始めたのですか?

鉢嶺 資本金の300万円は自分も含めた5人で出資したのですが、私が言い出しっぺだったので最初は1人で始めました。そして2年目に1人、3年目にもう1人ジョインしてもらいました。

江上 起業された後に苦労したことは。

鉢嶺 1年目は年商が150万円しかなくて、給料は当然出なかったのですが、メチャメチャ楽しかったんです。森ビル時代は有名企業の方たちと名刺交換しても、結局彼らは私ではなく森ビルと名刺交換していたんです。独立した当初は会社のブランドが全くないので、発注していただける金額は5万円とか10万円でしたが、私個人を評価していただいたことがとても嬉しかった。これは絶対に効果を上げて、お返ししなければいけないと思いましたね。金額は小さくても、凄くやりがいがありました。

江上 長年サラリーマンを続けていると、会社と自分のどちらのバッジで仕事しているのか分からなくなりますからね。その後は壁にぶつかったりしたのでしょうか。

鉢嶺 2年目からは社員が入ってきたので、大きなプレッシャーを感じました。森ビルの後輩だったんですが、彼が入社した時にご両親がびっくりして飛んできまして「一人息子がせっかく森ビルに入ったのに、吹けば飛ぶような会社に転職するとは何事か」と。もし彼に今後1年間給料が出なかったら、故郷に帰って公務員になってもらうという約束をさせられて、分かりましたと。それで何とか、給料を払えるぐらいに2人で頑張りました。

鉢嶺登氏が語る経営者にとって大切なこととは

江上 中小・零細企業レベルから飛躍するまでにどれぐらいかかったのですか。

鉢嶺 1994年に起業して、2001年から急に業績が伸びたのですが、それまでは泣かず飛ばずでした。事業が軌道に乗るまでに、結局7年掛かりました。この間は本当に必死で、24時間365日会社のことばかり考えていろいろと手を打ちましたが、全く業績が良くならなかったんです。その間にも、金融危機で会社が潰れそうになるなど、ピンチは何度もありました。あの7年間はもう2度と経験したくないですね。自分の給料が増えないことよりも会社が大きくならないことが辛かったし、私が夢を語って入社してもらった社員たちが、業績が伸びないことを理由に辞めていくのも辛かったです。

江上 飛躍するためのポイントは、どの辺にあるのでしょうか。

鉢嶺 やっぱり諦めないこと、じゃないでしょうか。自分の中で何をしたいかという思いを、どれくらい強く持てるかだと思います。私も「こんな会社を作りたい」という思いは創業時から強くあったので、そこが挫けなかった大きなポイントかと思います。

江上 自分が何のために生きるのか、どうしたいのかという軸を判断基準に置くことが大事なんですね。上手くいく人は、明確な軸を持っている。

鉢嶺 私の場合は、会社を作ったときから、上場を目指すということは明確にしていました。今でも周りのベンチャー経営者にアドバイスする際、上場してパブリックカンパニーになるのか個人の会社で行くのかはとても重要なので、極力早めに決めたほうがいいと言います。それによって資本政策も全く変わりますし、会社の規模も少数精鋭にするのか千人単位の社員が働く社会的な影響力が強い会社にするのかで、戦略は大きく変わります。これは、どちらが良いという話ではなく、社長が何をしたいのかによります。その目標設定は早いほうがいいと思います。

江上 出口戦略というのは、経営にはとても大事だと思います。

鉢嶺 まずはゴール設定。ゴールを決めて、そのために何をするべきかを考えるのが重要なんです。

鉢嶺登氏はなぜチーム経営を重視するのか

鉢嶺登

江上 起業して7年目から業績が大きく伸びたということですが、何が上手くいったのですか?

鉢嶺 それまでは、最大でも年間3億5千万円くらいの売上しかなかったんです。それが2001年に12億円、翌年に29億円、さらに翌年に48億円と、倍々で増えていきました。

1つ大きく変えたのは、チーム経営の体制にしたことです。それまでは私が1人であっちもこっちもいろいろとやっていました。しかし、人には得手不得手があります。そこで、マネージメントが得意な役員、戦略を立てるのが得意な役員、守りが得意な役員など、4人の経営陣の役割分担をそれぞれ明確にしました。その体制で、3年後に売上30億円、利益3億円で上場する「333計画」に取り組もうと決めたんです。業績が伸びたのは、それからですね。 

「333計画」を設定する前に、役員4人で合宿を行いました。そこで、それぞれの夢を語ったのですが、将来は作家になりたい、大学教授になりたい、不動産業を営みたいといった具合で、みんながバラバラだったんです。全員の考えを聞いたのは、その時が初めてでした。

そんな話をする中で、まずはみんなでいったんオプトを上場させようと決めました。作家なら上場までのプロセスが題材になるし、大学教授なら教材にすることもできるし、上場すれば不動産事業のキャピタルゲインになる。こじつけでしたが、それぞれの夢が、上場によって実現に近づくじゃないかと。そのために4人でタッグを組んでやろうと話し合ったんです。

江上 なるほど。ところで、中小企業の経営者の中には、なかなか人材が集まらないという悩みを抱える人が多くいますが、そこは経営者が夢を語って、方向性を一致させる必要性がありますよね。

鉢嶺 中小企業だから人が来ないと言い訳するのは、ちょっと違うんじゃないかと思います。確かに、学歴などの面で一般的に優秀な人は大企業のほうが集めやすいと思いますが、本当にベンチャーマインドを持っている人は逆に大企業には来なくなります。むしろ上場前に来てくれる人のほうが、よほど自立心が旺盛だったりしますから。どんな会社であったとしても、そこにふさわしい人材でないと、戦力にはなりません。

江上 私も大企業にいたころは、同僚と飲みに行くと市場環境が悪いとか、この上司が悪いとかマイナスのことしか言わないので、外部の人とばかり一緒にいたのを思い出しました。成功する人はやはりプラス思考ですよね。

鉢嶺 成功する経営者にマイナス思考の人っているんでしょうか。私はいないと思いますね。

鉢嶺登・オプト社長から起業家へのアドバイス

江上 今はグループ全体で何人くらいいるのですか。

鉢嶺 1600人ほどです。グループ会社は23社です。

江上 そこまで拡大すると、事業を任せる人材を決めるのが大変だと思いますが、選ばれる人に共通項みたいなものはあるんですか。

鉢嶺 やらせてみないと分からないので、難しいところですね。まず、人として信用できる人にしかお願いしませんが、それでも成果が出るかといえば、出ないことの方が圧倒的に多いのでホントにやらせてみるしかありません。ただ、成果が出るかどうかは、任せた後にすぐ分かります。

江上 そうなんですか?

鉢嶺 たとえばネット広告だったら「動画はやらないの?」とか、「SNSなら今はインスタじゃないの?」とか、そうした要望をした時の反応で、コイツは大丈夫かどうかというのがすぐに分かります。ただ、それを事前に見抜けるかといえば難しい。そうやって経営者を探して23年間旅してますね

江上 「経営者を探して23年旅している」というのは名言ですね。

鉢嶺 自分は1人で何でもできる方ではないので、できる人を探してどんどんお願いするスタイルです。

江上 経営者があまりカリスマ過ぎてもダメなんでしょうね。

鉢嶺 自分にカリスマ性はないです。「これをやりたい」と言っても、すぐに役員会などで否決されますから(笑)。

江上 役員の方たちは若いんですか。

鉢嶺 若いですね。社外取締役の方たちは50代、60代ですが、実務系は私と同年代の役員が一番年上で、一番若い役員は30代前半です。IT業界では普通だと思いますが。

江上 実は、私も最近若い連中と組んで仮想通貨交換業を始めたんですが、スピード感が全く違うことに驚いています。会話の中身も全然分からなくて、通訳を1人入れているほどです(笑)。

鉢嶺 ベンチャーの場合は、スピード感が特に重要ですから。

江上 これから起業したり成功したいと思っている人たちに、アドバイスするとすればどんなことですか。

鉢嶺 やはり、目標設定が全てでしょうね。心の底から何がやりたいかを決めることができたら、8~9割は勝ちだと思います。目標設定したら、あとはどうやって実現するかだけですから。ほとんどの人たちが、おそらく目標や夢に対して明確な期限を作れていないと思うんです。社員たちには、自分がやりたいことを年末年始に考えるように言っています。

そうすれば、1年間を過ごす中で、常にそのことを考えることができます。そのプロセスがとても重要で、何も設定していないと何もない1年を過ごすことになりますが、一度目標を設定した人は、翌年に修正することもできます。

江上 若いうちに良い習慣を身に付けることが大切なんでしょうね。勝ちグセというか、目標設定して目標通りクリアする繰り返しが重要だと思います。

鉢嶺登氏の今後の大きな目標とは

目標設定の重要性を説く鉢嶺登氏。右は江上治氏。

目標設定の重要性を説く鉢嶺登氏。右は江上治氏。

江上 今後の大きな目標は何ですか。

鉢嶺 2030年までに、売上高1兆円を目標に掲げたので、すべてはそこですね。1兆円のうちの7千億円はマーケティング関連の事業で達成できると思います。

とはいえ、広告だけではそこまでいかないので、企業のデジタルシフトをサポートする分野に力を入れていきます。今は人材のデジタル教育なども、請け負い始めているところです。こちらは、どちらかといえば労働集約型モデルになります。あと3千億円は、収益逓増モデルしかやらないと決めています。こちらのほうは高収益ですが、ゼロからやらないといけないので、投資を実行しているところです。あれもこれもではなく、基本的にインターネット関連ビジネスしかやるつもりはありません。

江上 たとえば、孫正義さんは継続課金制のビジネスモデルしかやらないと決めているようですが、鉢嶺社長は何かこだわりのようなものはありますか。

鉢嶺 プラットフォームビジネスはやっていきたいところですね。簡単ではありませんが。

江上 鉢嶺社長のように、自然体で上手く他人を活用できる人のほうが会社を大きくできると思います。本日はありがとうございました。

(えがみ・おさむ)1億円倶楽部主幹・オフィシャルインテグレート代表取締役。1967年生まれ。年収1億円超の顧客を50人以上抱えるFP。大手損保会社、外資系保険会社の代理店支援営業の新規開拓分野で全国1位を4回受賞、最短・最年少でマネージャーに昇格し、独立。著書に16万部突破『年収1億円思考』他多数。

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