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12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

ソニーは、かつて一世を風靡した犬型ロボット「アイボ」を復活させる。普段は新製品発表会に登場することがない平井一夫社長が自ら紹介するほどの力の入れようで、強い意気込みが感じられた。「ソニーらしい」製品として、新型アイボへの期待は高い。文=村田晋一郎

ソニーらしさの象徴としてアイボを再び製品化

平井一夫・ソニー社長

「おいで! アイボ!」

去る11月1日、ソニーが開催した新製品発表会において、檀上から平井一夫・ソニー社長がこう呼びかけた。この呼びかけに応えて、3体のエンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」が歩いて登場してきた。

ソニーはこのたび、アイボを製品化、2018年(戌年)1月11日に発売を開始する。ソニーでは1999年に犬型のエンタテインメントロボットとして「AIBO(アイボ)」を発表。当時のソニーを代表する製品として家庭用ロボットという新市場を創り、累計15万台を売り上げた。しかし、グループ全体の経営悪化によりソニーはロボット事業の終息を決定、06年にアイボの製造を中止していた。逆にアイボ事業の撤退はソニー凋落の象徴の一つにもなっていた。そのアイボが12年ぶりに復活することになった。

平井社長は12年の就任以来、経営の立て直しを進めてきた。ここに来て着実に業績が上向いてきており、18年3月期の業績予想は、売上高が8兆5千億円、営業利益は6300億円、純利益が3800億円となる見込み。営業利益が5千億円を超えるのは、20年振りで過去最高となる。ただ、これを持って、ソニーが復活したとは言い切れない。

近年のソニーの業績回復は、安定した金融事業や映画・音楽などエンタテインメント事業に支えられている部分が大きい。しかしソニーに対するイメージは、やはりウォークマンやトリニトロンテレビなど人々の生活を変える革新的な電気製品を生み出してきた会社との印象が強い。祖業であるエレクトロニクス事業が大きく伸びたとは言えないため、多少業績が持ち直しても、ソニーが復活したというイメージは湧きにくい。

それだけ期待が高いとも言えるが、「ソニーらしい」製品が求められるのがソニーの辛いところでもある。そこは平井社長も認識しており、就任以来、「ユーザーのみなさまに感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続けることが、ソニーのミッション、ソニーの存在意義だ」と語り続け、エレクトロニクス事業の再生を掲げている。

新型アイボは、そのエレクトロニクス事業再生に象徴の一つと位置付けられる。「家庭の中で人との心のつながりを持って、育てる喜びや愛情の対象となるロボットがソニーのミッションを体現する存在であると確信し、約1年半前に私はこのアイボの開発を指示しました」と平井社長は語る。もともと平井社長は、16年6月の経営方針説明会において、エレクトロニクス事業で、AI、ロボティクス、通信などを組み合わせた新たな提案をしていくことを示唆していたが、既にこの時点でプロジェクトが動き始めていた。

ソニーでは、かつてアイボに加え、2足歩行のエンタテインメントロボット「QRIO(キュリオ)」の開発も進めていたが、これらのロボットを手掛けた技術者はプロジェクト終息に伴い散り散りになっていた。このため、今回の開発チームは30代前半の若手が中心で、カメラやスマートフォンを手掛けている技術者に本社のR&Dチームが加わった格好。かつてのアイボの技術者も社内に残っている数人が参加したという。

本物の犬に近づけるためリアルさと生命感を追求したアイボ

12年ぶりに復活したアイボだが、まず外観が大きく変わっている。先代のアイボがいかにもロボットという未来的なデザインだったのに対し、新型アイボは、実際の犬に近づけ、親しみやすい形で、「人が違和感なく自然に向き合えるものを目指した」(川西泉・AIロボティクスビジネスグループ長)という。製品のロゴも先代のアイボは「AIBO」と英大文字表記だったが、今回は「aibo」と英小文字表記で丸みを帯びたデザインで、新しいアイボをイメージしたものとなっている。

新型アイボは、平井社長が述べた「家庭の中で人との心のつながりを持って、育てる喜びや愛情の対象となるロボット」というペットロボット的なコンセプトは先代から継承しているが、12年たった現在の技術を盛り込み、よりリアルさと生命感を追求したものとなっている。

新型アイボはオーナーからの呼びかけを待つだけでなく、自ら能動的に働きかける。「ソニーで唯一、自律的に人に近づき、人に寄り添うプロダクト」ということになる。本体については、多彩なセンサーを搭載し状況を把握するほか、全身に独自開発したアクチュエータを22基搭載し、動きの自由度を大幅に向上させた。また、瞳には有機ELパネルを採用。身体の動きや瞳の表情で感情を豊かに表現する。

そして技術的に一番大きな違いは、ソフトバンクロボティクスのパーソナルロボット「Pepper」と同様にクラウドを活用していること。先代のアイボがスタンドアローンであったため、本体だけで機能が完結し、できることに限界があったが、新型アイボはクラウドのAIも活用することで、オーナーとのやりとりを学び、成長していく。アイボごとに個性がすべて異なる状況になり、同じアイボは再現できないという。

本体価格は税抜き19万8千円で、クラウドと連携するために必要なサービス「aiboベーシックプラン」が3年分一括払い9万円、修理サポートサービス「aiboケアサポート」が3年で5万4千円となっている。ソフトバンクのPepperは、本体価格を低く抑え、月々の利用料金に割賦で乗せていく販売形態であるが、新型アイボは本体価格でも十分利益が上がるという。あくまで従来のハードウエアビジネスの形態で、ソフトウエアサービスなどのリカーリングビジネスはあくまで補助的なものと位置付けている。

会話をしない強みを打ち出すアイボの戦略

ソニーが市場から退場している間に、ロボットビジネスは、Pepperに代表される人型コミュニケーションロボットが中心となっている。しかし既存のロボットビジネスとて大成功と言える状況ではなく、まだ市場の黎明期と言える段階だ。

では、新型アイボに勝算はあるのか。現在の人型コミュニケーションロボットは人間と会話できることが特徴だが、アイボはペットロボットであり会話はできない。そのことが逆にアイボの強みとなる。現状で、ロボットと言葉でコミュニケーションをとろうとしても、会話が十分成立しない場合、人間側がストレスを感じることがある。新型アイボはそこをうまく突こうとしている。

「ロボットとのコミュニケーションについては、なまじ音声のインタラクションができたらよいと思いがちですが、アイボは逆に話せないため、振る舞いなどでコミュニケーションがとれることが大きい。実際の犬も話せないが、そのことで人が文句を言うことはない」と川西氏は語る。

コミュニケーションロボットとしてのアイボの立ち位置は、まさに家庭のペットということになる。人間の代わりとしては物足りないかもしれないが、ペットの代わりと位置付ければ、受け入れられやすい。しかも実際のペットとは異なり、ロボットであるがゆえに世話をする手間は省ける。製品価格も実際に犬や猫を飼うよりも費用は掛からない。高齢者などペットを飼うのが難しいがペットを欲しい人は、ソニー側も顧客層に想定している。

もちろん生身の犬とアイボは別物で、つまるところ、その選択が新型アイボの成否を分ける。ただし先代のアイボにも根強いファンがいたことを考えると、「犬の代わり」と割り切るなら、新型アイボの需要は広がる可能性がある。しかも先代から12年たって、アイボの機能は進化し、振る舞いによるコミュニケーション能力も向上した。あとは市場環境が受け入れられる状況にあるかだ。1月11日の発売に向けた先行予約を11月1日に実施したが予約分は即受付終了となった。追加で11月11日にも再び先行予約を実施したが、こちらも即終了となるなど、期待の高さがうかがえる。

ソニーでは新型アイボをロボティクスとAIの融合製品の第1弾と位置付ける。今後、第2弾、3弾の製品も期待される。二の矢、三の矢となる製品が市場に受け入れられたときこそ、ソニーの復活を象徴するかもしれない。新型アイボはその嚆矢となる。

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