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LINEが中国モバイクと提携したシェア自転車事業の勝算

LINEが新たにシェアリング事業に参入する。パートナーとして中国モバイクと提携し、日本でのシェア自転車事業を展開する。「LINE」のようなSNSサービスはシェアリングエコノミーとの親和性が高いことが参入理由の一つだが、その分、競争も激しくなっている。文=村田晋一郎

LINEがシェア自転車事業に参入

 LINEは上場を果たした2016年より、「CLOSSING THE DISTANCE」をコーポレートミッションに掲げている。メッセンジャーアプリ「LINE」で人と人の距離を近づけることから、さらに広げて、人とコンテンツやサービスなど、あらゆるものとの距離を近づけることを目指している。具体的には、デリバリー、決済、ニュース、ゲーム、エンタメなど、あらゆる情報やサービスが「LINE」を入口としてつながり、すべてが完結するスマートポータル戦略を進めている。

 そのスマートポータルをさらに進める新事業として、シェアリング事業に進出する。その経緯としては、まずシェアリングエコノミー全体が世界的に大幅な成長が見込めること。PwCの試算では市場規模が13年の約150億ドルから25年には約3350億ドルまで成長するという。また、市場規模の経済インパクト以上に、人々の生活スタイルや物の考え方を根本から変えていくことから、LINEとしてもシェアリング事業に非常に強い関心を持っていたという。一方で、LINEにとって、ユーザー同士のつながりが大きな価値であり、「本来的にシェアリングエコノミーと『LINE』の相性は非常に良い」(出澤剛・LINE社長CEO)と考えている。そのような観点からシェアリング事業参入の検討を進めていた。

 シェアリング事業の第1弾として、シェア自転車事業に参入する。「LINEから、スマホから日本のユーザーの移動を変える」と出澤社長は意気込みを語る。

 シェア自転車参入の理由として、まず挙げたのは、自転車が単純に使える移動手段であり、多くの人に利便性を提供できること。「LINE」の国内月間利用者7100万人のユーザーの多くがサービスを利用する可能性がある。次に日本の交通事情として、1人当たりの自転車保有台数は中国よりも多く、世界でも上位であり、自転車に対して親しみを持つ国民性があるという。また、若い世代を中心に自動車の保有台数が減少する一方で、公共交通機関が発達しており、中長距離の移動は交通機関を利用し、ラストワンマイルは自転車を利用するスタイルが広がる可能性がある。そして20年の東京オリンピックをにらんだ場合、インバウンドが増えていくと、海外でシェア自転車を利用している外国人にサービスが受け入れられる可能性があるという。こうした事情から、出澤社長は、シェア自転車事業に大きな成長を期待している。

LINEが中国モバイクと資本・業務提携を締結

 具体的には、日本国内におけるシェア自転車事業展開に向けて、LINEはモバイク・ジャパンと資本・業務提携を締結した。シェアリング事業を検討する中で、半年ほど前にLINE側から交渉を始めたという。

 モバイク・ジャパンは、スマートバイクシェアサービス「Mobike」を展開する中国モバイクの日本法人。「Mobike」のサービスは16年4月に上海でスタートし、現在は世界200都市以上でサービスを展開。登録ユーザー数は2億人以上、全世界で800万台の自転車を配し、1日当たりの最大利用回数は3千万回以上に上り、世界トップクラスのシェア自転車サービスとなっている。日本では17年6月、モバイク・ジャパンが福岡に設立。8月より札幌市内で、12月末より福岡市内で試験的なサービスを開始した。使用料金は30分で50円。冬の間、積雪のため札幌はサービスを中止しているが、サービスを開始したばかりの福岡ではまず自転車を約100台設置、今後は駐輪場を増やし利用範囲を拡大し、18年末までに自転車を約1千台に増やすという。

 「Mobike」の強みは、まず自転車そのものにある。フルアルミボディによりさびにくく丈夫で、チェーンの代わりにドライブシャフトを導入。パンクのないエアレスタイヤを使用し、4年間メンテナンスフリーとなっている。また、スマートフォンによる開錠・施錠を行うほか、GPS機能を内蔵し、位置情報をリアルタイムで把握できる高性能のIoT自転車となっている。こうした自転車の機能の更新は常に行っているという。また、デザイナーの深澤直人氏とのコラボレーションによる自転車も投入している。

 モバイク創業者のHu Weiwei氏によると、モバイクの目指すところは、「いつでも、どこでも気軽に乗れるユーザーエクスぺリエンスの優れた自転車で、世の中を変える」ことにある。自転車には200年の歴史があるが、他の交通手段の発達で、近年は都市での利用が減少しているという。モバイクは、科学技術と新たなセンスを備えた自転車で、なおかつシェアリングという形態で、都市に再び自転車を戻そうとしている。そして都市そのものも駐輪場を増やすなど、自転車の利用を前提としたものに変えていくという。

 モバイクの最初の海外展開はシンガポールだったが、当地は公共交通機関が発達し、自転車を利用する人は少なかった。しかしモバイクが進出して以降は、徐々に自転車の利用が増えているという。こうした変化を日本でも期待している。

 LINEとモバイクの連携による日本での展開は、18年上期中のスタートを予定している。両社の役割分担としては、LINE側はまず国内7100万人のユーザーにアプローチし、「LINE」内で「Mobike」の自転車を利用できるようにする。そして「LINE Pay」と連携し、「LINE」内で決済を行う。また、官公庁や自治体、企業とのアライアンスを進め、インフラ整備のサポートを行う。出澤社長によると、地方自治体や企業に打診して概ね大きなトレンドとして、興味をもっている感触は得ているという。

 さらに事業へのコミットメントを強めるため、モバイク・ジャパンに出資するとともに取締役1人を派遣する。出資は持分法適用外の規模で、派遣する取締役は、新規事業開発を担当している室山真一郎・LINE事業戦略室室長を予定している。

 一方、モバイク側は、サービスの運営や自転車の提供およびメンテナンス、さらにアプリや業務システムの開発を行う。出澤社長によると、「Mobike」のアプリは使いやすく、裏側の業務システムも優れているという。

 今後の展開の詳細はこれから協議することになるが、Hu氏によると、一気に日本全国で展開することはないという。これまでの世界各地での展開と同様に、ソフトローンチ、スモールスタートとなる。モバイク・ジャパン単独で札幌と福岡でトライアルを行っているように、テストをしながら、どの地域で、どのくらいの量の自転車を投入するのが最適かを判断する。また、サービス開始にあたっては物流施設を用意しておく必要もある。まずは小規模でスタートし、その後、徐々に拡大していく方針だという。

シェア自転車事業で問われることとは

 LINEとモバイク双方の強みを生かそうという取り組みだが、気になるのは日本での競合状況だ。出澤社長は参入理由の一つに20年の東京オリンピックでのインバウンドの利用を挙げている。しかし、既に都内では、ドコモ・バイクシェアのシェア自転車がコミュニティサイクルとして利用されている場面を目にする機会が多い。同社は15年2月にNTTドコモがNTTグループ各社との合弁で設立。都内では千代田区、中央区、港区の都心3区に加え、新宿区、渋谷区などインバウンドが多く訪れそうなエリアも含めた10区でサービスを提供している。都内のほかは横浜市や仙台市、広島市、那覇市などで導入が進んでいる。

 また、注目を集めている市場だけに新規参入も増えている。ソフトバンクグループのソフトバンク コマース&サービスが中国のシェア自転車会社ofo(オッフォ)との協業を発表している。さらにフリマアプリ「メルカリ」を展開するメルカリが自転車シェアリング事業「メルチャリ」を18年初頭より開始する方針で、検討を進めている。出澤社長が「LINE」との親和性が高いと語ったように、ほかにもSNSサービスがシェア自転車と連携してくる可能性は高く、競争が激しくなることが予想される。

 一方で、シェアリングサービスそのものの日本での親和性も問われる。海外で盛んなシェアリングサービスがそのまま日本で適用できないケースがあり、発展を妨げている。

 典型的なのは配車サービスのUberで、日本では「白タク」となるため、海外のサービスをそのまま導入できず、タクシー会社の配車アプリとの差別化が難しくなっている。

 シェア自転車についても、「Mobike」では自転車の位置をGPSで把握するため、中国国内のサービスではユーザーは自転車の乗り捨てが自由だが、放置自転車を増加させることになる。このため、日本では乗り捨ては認められず、札幌や福岡のサービス開始においても、駐輪場の設置が必須となり、その確保だけでもかなりの労力を費やすことになる。海外発祥のサービスをいかに日本に適用させるかが、このシェア自転車事業でも問われることになる。

 こうした事業環境でLINEはいかに展開していくのか。まずは小規模でスタートし、一気に規模を取りに行くわけではない。しかし、いろいろな取り組みを試しながら、一つひとつ着実にサービスを改善していく。この改善のスピードがモバイクの強みだという。出澤社長は「世界で一番改善のスピードが速く、高レベルのサービスをやっている」とモバイクを評価。こうした速い改善の積み重ねが、長い目でみて、大きな強みになると考えている。その意味で、現在進めている福岡での試験サービスが注目される。

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