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「日系人コミュニティに貢献する媒体、日刊サンは広告で勝負」―小林一三(日刊サンハワイオーナー)後編

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

小林一三

(こばやし・いちぞう)1960年生まれ、兵庫県出身。中学卒業後、海上自衛隊少年術科学校に入学。その後ロサンゼルスに渡り、サンドウィッチの販売、自動車関係、不動産オーナーなどを経て、2003年ハワイ日刊サンの仕事を開始。06年に同紙のオーナーとなり現在に至る。英語版の日本情報誌『WASABI』も発刊。

小林一三氏が語る~日刊サンは求人広告でハワイに浸透した~

イゲット 日刊サンの仕事をハワイで始めて、後発ですから営業のハードルは高くなかったですか?

小林 やり方を知らないから、大変でしたよ。普通、フリーペーパーをやるときは最初に広告を取ってから発刊しますが、それをしなかったので毎月赤字が膨らんで、毎日ため息ばかりついていました。軌道に乗るまで1年ちょっとかかりましたね。

イゲット 日刊サンはほぼ毎日発行ですしね。

小林 火曜日から土曜日までの週5日です。印刷はロサンゼルスで行って、毎朝空輸してもらっています。そのほうがハワイで刷るより安いんです。

イゲット ハワイのフリーペーパーは、道端などにあるBOXに置かれていますが、あれはどんなシステムなんですか?

小林 ワイキキでは置く場所が決まっていますが、3年に一回抽選会があって、置き場所に番号が振られていて、良い場所から取られていくという仕組みです。

イゲット 日刊サンは観光雑誌と違って、現地の人が読者ターゲットですよね。

小林 全体の70%はそうですが、長期滞在者の間ですごく強い媒体ですね。ハワイに数カ月単位で住む人の中には、必ず読む人が2~3割います。

イゲット ハワイに来る前、ロスでは不動産関係の仕事もしていたと聞きましたが。

小林 車のビジネスで儲かったので、ロスで立地の良いビルを買って、20何軒か賃貸物件を持っています。今の仕事は趣味みたいなもので、家族はそれで生活しています(笑)。30歳で家を買おうと思っていて、自分が住んでモーゲージを払うよりも、アパートを買って他の人に払ってもらおうという考えでした。最初に6ユニット買って、その次の年に13ユニット買って、まあ儲かりました。

その後、バブルがはじけて少し苦しくなったんですが、不動産はそのまま残しています。ここ数年はまた家賃がどんどん上がっているので、なんとかやっていますね。

イゲット 日刊サンは趣味で(笑)。

小林 従業員はもっと必要なくらいですけど(笑)。

イゲット 日刊サンには求人情報がたくさんのっていますが、ハワイの中では求人が大変なことを実感させられます。

小林 ハワイに来て発見したのは、一般広告だけでは新聞が成り立たないということです。ロサンゼルスやNYのフリー雑誌ではクラシファイドアドを25ドルくらいで売っていますが、それをやったらハワイではやっていけません。そこで、求人情報を普通の広告サイズで売ることにしてみました。企業広告は予算の都合で出せなくても、求人広告なら出るんです。

観光関連についても、一般広告なら観光雑誌に出したほうが良いですが、求人であれば企業は人事部の予算が使えます。他の雑誌ではこういうことはあまりしていません。ライバル紙の方たちからは「日刊サンは求人だけ」みたいな言われ方をされますが、逆にウチの強みを宣伝してくれていると思っています。

イゲット「こんな施設がオープンするんだ」とか「どういう人が求められているのか」といった情報が分かるので、私も求人広告をリサーチ用に見ています。ハワイはずっと求人に困っている島なので、安定的な収入になりますね。

日刊サン以外にも新たな媒体でハワイの魅力を伝える小林一三氏

イゲット千恵子と小林一三

イゲット ハワイにきて苦労されたことってあるんでしょうか?

小林 みんな同じかとは思うんですが、人材の部分ですね。以前は自分ひとりでビジネスをしていたから、秘書が1人だけいれば良かったけど、今は会社として従業員がいるので大変です。いろんな人が入ってくると、どうしてもみんなの気持ちを分かってあげられない部分が出て来ます。そこで、アメリカのプロダクションみたいに平均化してしまうのか、みんなでご飯でも食べて話を聞いてあげたりするのか。いくら自分が平等だと思っていても、コミュニケーションのすれ違いが出る部分をどうするか、考えますね。

制作に関しては仕事が忙しいので、残業は良くないと言いつつも、忙しいから文句を言う暇もない人が多いかもしれません。営業は仕事のペースが個人に依る部分が多いので、その辺を聞いてあげたりするのが難しいですね。今は新しい雑誌もできたので、自分で走り回って営業マンも一緒に連れて行っています。

イゲット 新しい雑誌というのは最近創刊した『WASABI』のことですよね。

小林 英語版の日刊サンみたいな雑誌ですが、日本のカルチャーを紹介したり、ローカルイベントを紹介したり、有名人のインタビューなどを掲載しています。今回は小錦さんがインタビューに応じてくれて、トランプタワーで話を聞いてきました。うちのエディターが自分でウェブサイトを作って、日本の面白い動画など、ほかで紹介していないものを紹介したりもしています。次回は大阪でDJをやっている男性に、ハワイ出身の大阪のベストナイトクラブ、バーというテーマで紹介してもらいます。

ほかにも、ハワイの少年野球チームが日本のチームと試合をして、日本のチームは早めに行って準備して礼儀正しくて素晴らしかったというストーリーを読者寄稿欄で紹介したり、日系人が始めて50年以上続いているビジネスの紹介なども行っています。

イゲット 読み応えがすごくありそうですね。

小林 現在は隔月ですが、そのうち月刊にしようかとも考えていて、今はトライアル版を配っています。日系人のコミュニティは今はそれなりにありますが、私たちの子供の時代になったときに、新しいコミュニティができたらいいなと。それと、今度日刊サンとWASABIでフルスポンサーをするコスプレカフェをホノルルフェスティバルで開く予定です。若い人のカルチャーをもっと理解していきながら、何か一緒にできればいいなと思っています。

イゲット 楽しみです。将来はどんな媒体を目指していますか?

小林  将来の姿はあまり考えたことはないですが、一番はコミュニティに喜ばれるものを作りたいですね。今まで日系人に関して楽しく読める媒体がなかったですから。そのうち、合コンを開くのもありかなとか(笑)。日系人で日本の奥さんを貰っている人もたくさんいますからね。コミュニティが違うと接点がないので、良い意味でそういうこともできたら面白いですね。

イゲット コミュニティに貢献したいということですね。本日はありがとうございました。イゲット千恵子×小林一三(前編)

イゲット千恵子

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

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