経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「良い人仮面」の吹き込みから新入社員を遮断せよ 野崎大輔

社労士・野崎大輔氏

「うちの会社は危ないらしいよ」「この前の事業は失敗したみたい」と、根拠のない噂話で不安を煽る社員がいる。とりわけまっさらな状態で入社してきた新入社員や若手社員を前に、社歴が長く表面的には「良い人」な古参社員からそうした言葉が発せられた場合、組織全体の働く意欲を削ぎかねない。数多くの企業で「良い人」の化けの皮を剥ぎ、組織を救ってきた野崎大輔氏が今回もぶった切ります。(聞き手・文=大澤義幸)

古参社員の悪気ないネガティブ発言が組織を暗くする

―― 野崎さん! 面白いオチのある話を聞いてください! 最近、私は女性からよく「良い人ね」って……。

野崎 それ「どうでもいい人」っていうオチでしょ。自ら「面白い」とかハードル上げなくていいですよ。

―― はい。定番ですが、一理ある言葉ですよね。同じような言葉で、「嫌われるのを恐れて、30歳を過ぎて『良い人』と思われる奴にろくなのはいない」というのもあります。今回はそんな「良い人」や「どうでもいい人」にすらなれず、新入社員や組織に悪影響を及ぼす「良い人仮面」をかぶった管理職や古参社員がテーマです。「良い人仮面」、野崎さんのコンサル先でもいます?

野崎 どこにでもいますよ。余計なことを吹き込む人ですよね。社歴が長い割に活躍していない人に多いですね。ある程度のポジションに就いている人もいます。ポジティブなことならまだいいのですが、「うちの会社は倒産しそうだからお前も気をつけたほうがいいぞ」「うちはブラック企業だから体調に気をつけろよ」とか、本人は悪気なくネガティブなことを言うから困ります。

―― 性質が悪いのは、野崎さんが仰るように「悪気なく」言っている場合ですね。例えば上司が飲み会で笑いながらであっても、「うちの会社はつぶれるから」と言い続けていれば、それを信じた新入社員や若手は働くモチベーションを落としてしまいます。それが積もり積もれば会社にとって大きなマイナスになる。解決策はあるのでしょうか?

野崎 ネガティブな発言を慎む、これを全社的なルールにすることです。ネガティブな発言って伝染しやすいんですよね。もう4月で新入社員は働き始めていると思いますが、本来は2-3月の新人の受け入れ態勢をつくる時期に周知徹底します。実際に話しているのを見かけたら厳重に注意する。まずはここからですね。最初は強制のような形になりますが、これを続けることで、ネガティブなことを言う人は減ってきますよ。

―― なるほど。私も昔、「疲れた」「嫌だ」「面倒くさい」などの「暗病反言葉」を言うと罰金という規則のある会社にいたことがあります。ブラック企業でしたが、在籍中は確かにネガティブなことは一切言いませんでした。

野崎 その会社の善し悪しは別にして、ネガティブなことを言わない文化ができていますね。言っていいこと、悪いことのけじめをつけるのも組織づくりの一環です。

ネガティブ発言は新入社員の頭に残りやすい

―― ただそうした決まりのない会社は多いでしょうし、うちの会社でも何気ない会話中に、「ネガティブな吹き込みだな」と感じることがあります。そんなときは若手社員に「真に受けないように」とフォローしたりします。

野崎 大切なことですね。ただ難しいのは、ネガティブな言葉は新入社員の頭に残りやすく、すると会社や人の悪いところしか目につかなくなります。入社したての頃に理想と現実の差を感じたりすれば、愚痴をこぼしたくなるものです。そこで「良い人仮面」が「つまんないね」「あの人はダメだ」と吹き込めば、新人は同調して簡単に染まってしまいます。

―― そうですね。愚痴は仲間意識を生みやすいですし。

野崎 そこでネガティブな粗探しではなく、会社の良いところを話す組織風土を醸成しておくことです。私はある会社で管理職に「今から採用面談だと思って御社の良いところを私に話してください」と聞くと、1つも言えなかった人がいました。実はこれは結構あるケースです。日頃から良いところに目を向けていないから、ポジティブな会話ができないんです。それでは新人にも伝えられませんよね。

―― その通りですね。「良い人仮面」は社歴の長い古参社員に多いとのことですが。

野崎 古参社員に限りませんが、会社のあら探しをして陰で不平不満を言う社員は暇な人が多いですね。たいした仕事をしていなかったり、ローパフォーマーの傾向があります。「私はこの会社にいてあげてる」という古参社員も同様です。文句を言いながらも自分では転職が難しいのが分かっているし、居心地が良いから会社を辞めない。極論ですが、組織に悪影響を与える老兵は百害あって一利なしです。

―― 世渡り上手なんですね。そんな「良い人仮面」に騙される経営者やその上司も同じレベルなのでしょうが……。

野崎 経営者は人の裏表を見る目は必要です。古参社員は陰口を叩きながらも、仕事をしているフリが上手なので、経営者の中には「あいつは頑張ってる。信頼できる」と信じてしまうこともあります。経営者が悪影響を及ぼす社員だと気づかなければ組織はどんどん蝕まれていきますよ。

―― 新入社員のほうがわかっていて、「あの人に嫌われると会社にいられないから、話を聴くフリをしている」というケースも見かけます。処世術に長けていますよね。

野崎 それはレベルが高い新入社員ですね。仮面をかぶっていても、新人にすら素顔を見透かされているんですよ。哀れですね。

指導する前に新入社員の個性を見極めよ

―― 新入社員と言えば、野崎さんのFacebookに、「入社後3カ月で扱われ方が決まる。1度付いたレッテルを覆すのは難しい。新人は地頭が良くても仕事はできないのだから、最初は先輩とうまくやることが大事。その上で、3カ月働いて合わなければ辞めてもいい。今は『石の上にも三年』の時代ではないし、時間の無駄だから。ただし退職の原因となる問題を解決しなければ次も同じ問題にぶつかる」(抜粋)と書かれていて、「時間の無駄だから3カ月で辞めてもいい」というのはまさにその通りだと感じました。会社からすると社員に短期間で辞められるのはつらいでしょうが。

野崎 つらいのは期待していた社員が辞めてしまうケースですね。優秀な社員が辞めるのは会社に問題があるからなので、見直さないと同じことが起こります。私は会社に悪影響を及ぼす社員には改善を促しますが、改善されないのであれば別の道に進んでもらったほうがいいと思っています。

一方、社員も会社で働き続けることが難しい、会社にいても将来が見えないと思うなら、短期間でも躊躇なく辞めることもアリだと思うんですよね。多くの人は次の転職先が見つかるか不安なので文句を言いつつ会社にいます。歳を取るごとに転職リスクは高まるので、早い段階から会社を辞めても転職できる能力、つまり食っていける力を養うことが大切です。

――「入社3カ月で扱われ方が決まる」もそう。レッテルを剥がす難しさは中途でも同じです。しかし、新入社員のなかには、「最初は実力を出さないほうがハードルを上げなくていいから手を抜く」という人もいますね。

野崎 それは愚行ですね。それでは入社早々「使えないやつだ」と思われてしまい逆効果ですよ。

―― 逆に頑張って成果を出しても評価されないケースもありますよね。会社に評価体系がなく、まともな評価者もいない。あるいは人の好き嫌いや一時的な印象で評価を行う会社です。私の知人女性の例ですが、職場でパワハラを受けてダメ社員扱いされ、古参社員に退職勧奨されて辞めたんですね。

彼女は一生懸命なのですが、段取りが下手で、その辺が合わなかったのかなと思うのですが、「仕事ができない」「ダメ社員」という評価は違うなと感じていました。案の定、退職後すぐに大企業に入社し、今は評価も高く人間関係も良好で幸せだと話しています。評価ができない会社は有能な人材を生かせないんですね。

野崎 能力が正当に評価されなければ辞めたほうがいい会社の典型例ですね。その会社は退職勧奨した古参社員がダメなんでしょうね。彼女も職場と合わなかったのでしょう。そうしたことが続くと優秀な人材は会社に残らなくなり、会社が衰退していきます。

―― そう思います。直近のテーマとして、会社は新入社員とはどう接していけばいいのですか?

野崎 新入社員に何かをやらせるときに小さなステップを踏ませて達成感を与えるようにするといいですね。いきなり理想とする高い目標レベルを示してもできません。あとはまず行動したことを褒める。失敗しても行動を褒めて、次はこうやろうと指導していく。最初から失敗を責めて、自分のケツは自分で拭けでは誰も付いていきませんし、失敗を恐れて行動しなくなります。

また、新入社員といっても一人一人個性が違うので、じっくり観察して把握することが重要です。会社の指導マニュアルがあっても、指導の仕方は個人ごとに変える必要がある。だから教育は難しいんです。部下育成を苦手とする管理職は多いですが、避けては通れない重要な役割です。

新入社員の行動で見るべきポイントは?

―― 野崎さんは具体的にどういう行動を観察していますか?

野崎 まず時間を守れるか。待ち合わせの何分前に来るか、遅刻する場合は連絡してくるかなど。あとは食事にも人間性は出ますね。例えば注文の仕方ですぐ決めるのか、なかなか決められないのかなどから決断力の有無もわかるのではないでしょうか。仕事と違って食事のときは素が出やすいかなと思います。

―― その辺は私も見ます。特に食事はその人の嗜好や育てられ方もわかりますし、最初のデートに良い理由ですね。

野崎 私はホテルのバイキングは赤の他人でも観察していますよ。例えば料理の取り方でその人の要領の良さが分かります。何も考えていない人はサラダから食べようとするので、行列に並びます。普通はみんなそうするので最初にサラダを取りに行くと混むのに。

全体を俯瞰して空いているところから取ればいいんですよ。空いていれば最初からメインのサーロインステーキでもいい。どうせあとから混んでくるのだから空いているうちに取ればいいんです! 食べたいものをいかに効率よく食べるかが……。

―― あ、もう十分です。バイキングを熱く語る野崎さんの人間性はよくわかりましたから(笑)。

社労士・野崎大輔氏

(のざき・だいすけ)。日本労働教育総合研究所所長、グラウンドワーク・パートナーズ株式会社代表取締役、社会保険労務士。上場企業の人事部でメンタルヘルス対策、問題社員対応など数多の労働問題の解決に従事し、社労士事務所を開業。著書『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(講談社+α新書)など。

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