経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

アイリスオーヤマが顧客対応にAIを導入 業務効率と利便性が改善

大山繁生・アイリスオーヤマ専務取締役(左)と石田正樹・エーアイスクエア代表取締役

アイリスオーヤマ(大山晃弘社長)は、7月から顧客の問い合わせ対応にエーアイスクエア(石田正樹代表取締役)のAI自動応答システム「QuickQA(R)」を導入。ホームページの専用フォームで活用して以降、顧客からの評判も良く、他の社内業務の改善にも利用できる可能性が見えてきたという。

QuickQA (R)とQuickSummary (R)

大山繁生・アイリスオーヤマ専務取締役(左)と石田正樹・エーアイスクエア代表取締役

大山繁生・アイリスオーヤマ専務取締役(左)と石田正樹・エーアイスクエア代表取締役

生活用品の製造卸で業績を伸ばしてきたアイリスオーヤマは2009年に家電事業に進出して以来、現在では家電事業の売上高が全体の約5割を占めるようになった。それに合わせて顧客からの問い合わせも急増、全国数カ所にあるコールセンターのオペレーターは休むことなく電話の応対に追われていた。家電製品の使い方など問い合わせ内容は多岐に渡り、オペレーターの習熟度を上げる研修や人材の確保など、同社にとっては長年の課題だったという。そんな時に出合ったのが、エーアイスクエアの「QuickQA」だった。

大山繁生・アイリスオーヤマ専務取締役は次のように言う。

「家電部門は近年、対前年比2ケタの成長を続けているのですが、それに比例してお客さまからの問い合わせも急増しています。本来ならオペレーターも同様に増やさないといけないのでしょうが、現実的ではありません。当社は年間1千点以上の新商品を販売しているので、その教育の負担も大きかったのです。でも、お客さまからの問い合わせをコントロールすることはできないので、ここが長年のジレンマでした」

エーアイスクエアの「QuickQA」は、機械学習をベースとしたアルゴリズムから適切な回答を導くもの。運用の変更や新領域への拡大に対しても、ユーザーが管理ツールから簡単に学習データの洗替が可能で、プログラミングによるシステム改修は不要だ。

FAQシステムやチャットボットとして活用されるほか、電話対応するオペレーターの応対支援にも役立つ仕組みとなっている。ポイントは顧客の生の声からQAを構築するので実効性が高く、得られたデータを社内の商品開発やマーケティングなどでも利用できることだ。

また、要約エンジン「QuickSummary」は、文章全体の中から重要度を見極めてキーワードを自動的に抽出したり、要約(サマリー)することが可能。例えばコールセンターでは、オペレーターの通話内容を音声認識でテキスト化し、その中からキーワードを抽出してカテゴリー別に自動分類したり、顧客への回答結果を要約してCRMに登録したりすることができる。これまで数多くのチャットボットを開発してきた石田正樹代表は次のように語る。

「お客さまとの会話内容から自動的に最適な回答をオペレーターさんに伝えるものです。新人でもベテランと同じような回答ができます。ただ、聞き方にはコツがあって、グーグル検索のように『単語・スペース・単語』では意味が通りにくく、普通に『てにをは』を付けて会話してくれた方がいいですね。当社の技術は自然文を解析するので、普通に会話してもらった方が回答率は上がります。アイリスオーヤマさんに何回も足を運び、このようなやり方でQ&Aを作るようアドバイスした結果、いい成果が表われました。今では当社より上手に使っていただけていると思います」

AIの利活用で先鞭をつけるアイリスオーヤマの戦略

AI導入を決めた社内プレゼンは大反響だった(写真は毎週月曜日に開催しているアイリスオーヤマのプレゼンテーション会議)

AI導入を決めた社内プレゼンは大反響だった(写真は毎週月曜日に開催しているアイリスオーヤマのプレゼンテーション会議)

新システムはLEDシーリングライトで試験導入し、数カ月の精度検証を経て、利用可能と判断、今では全家電製品に対応している。

「試験導入が始まってからレポートを見ていると当初は『既に知っていること、邪魔』と受け止めていたベテランのオペレーターも、今では『なくては困る』に変わりました。オペレーター自身の負担も軽減され、お客さまにとっても便利です。コールセンターへの電話はつながる時間帯が決まっていますが、ホームページは休日、深夜でも絶対につながります。現在ではホームページからの問い合わせが全体の35%まで増えています」(大山専務)

アイリスオーヤマでは毎年、オープンイノベーションと称し、部署横断で新たなビジネスチャンスの発掘につながるアイデアを共有しているが、コミュニケーションセンター(コールセンター)でのAI導入に関するプレゼンは、大反響だったという。

「コミュニケーションセンターで始まったAI活用ですが、議論を通じていろいろなところで使えることが分かりました。まずは社内の問い合わせで、多くは商品情報です。データベースがあるのに電話を使うと2人が無駄な時間を費やしてしまいます。また失敗事例の共有です。資料として残していますが、どこにあるか分からないので同じ失敗を繰り返してしまうことがあります。失敗は財産です、このような宝の持ち腐れをなくせば商品開発の生産性は相当上がると思います」(大山専務)

この指摘について石田代表は「当社の技術を使えば簡単に作ることができます。当社が提供しているのはエンジン部分だけで、後はアイリスオーヤマさんの人たちが使い勝手のいいように作っているのです。コミュニケーションセンターだけでもまだまだ省力化の余地はあると思いますが、マーケティングデータを取れる仕組みなど、いろいろな展開も可能です」と言う。

アイリスオーヤマは22年12月期にグループ売上高を1兆円(17年12月期は4200億円)にする目標を掲げている。大山専務は「厳しい競争の中で勝ち残るには、いいものは先鞭を付けてやる、このスピード感が大事です。後からくっついていけば失敗は少ないかもしれませんが、普通の会社で終わってしまいます」と語る。同社にとってAIは次世代の成長に必要な重要なツールの1つになっている。

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