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靴下が靴の代わりになる「はだし靴下」の機能と特徴に迫る

繊維メーカー昌和莫大小、奈良県産業技術センター、畿央大学の3社で共同開発した、外で履いて歩ける靴下「はだし靴下」がインターネットで密かに評判になっています。

本来、人の体幹や足の機能を最大限に引き出すためには「はだし」が良いとされています。そこで、この商品は屋外で「はだし感覚」を体感するための「靴下」として人気が出ているのです。

「はだし靴下」の構造と特徴は?

「はだし靴下」は、最低限の足裏保護で、人間本来の持つパフォーマンスを取り戻し、体幹から体を鍛える靴下です。

人間の足裏には、身体の傾きや地面の状況などを感知するセンサーが無数に備わっていますが、最近流行の高機能シューズなどを履いていると、足裏のセンサーが退化してしまうとの意見もあります。

特に、小さな子どもたちには、靴で歩くよりもはだしで歩く教育が推奨されているように、はだしの良さが近年見直されています。外で履くことを前提とした「はだし靴下」の人気が高まっているのには、こうした背景があります。

「はだし靴下」は意匠登録済みで、東洋紡の開発したイザナス糸とポリエステル、ポリウレタンなどが三層構造になっています。靴下の裏側には強力な滑り止めが付いているために、外でも履ける仕様となっており、足の各指を、手袋のように1本ずつ履く点も特徴です。

「はだし靴下」の外観

「はだし靴下」の外観(筆者撮影;原宿キャットストリートにて)

「はだし靴下」の発想は高機能シューズの逆張り

「はだし靴下」の発想は、現在流行している高機能シューズの逆張りと言っても良いでしょう。

ナイキ社の厚底シューズやニューバランス社の薄底シューズなど、高機能シューズの利点は、最先端のソール部衝撃吸収材やアーチ部の反発機能で、着地衝撃が緩和される点にあります。

しかし、そのことによって人間が本来持つ筋力やバランス補正機能が低下して、身体が自ら行うフォームの矯正が出来ずにそのダメージが蓄積されてしまうといった弊害も指摘されています。その結果、稀にですが重篤なケースに発展してしまうこともあるそうです。

「はだし靴下」開発側の考えとしては、人間が本来の持っている感覚を大事にし、足裏センサーを最大限に使って走る気持ちよさを訴求したいというところでしょう。そもそも靴下なので衝撃吸収や反発などがなく、人間本来の自然な走る形を維持できるのです。

ちなみに、価格は税込みでスタンダード子ども用(1,728円)、スタンダード大人用(2,700円)、大人ロードモデル(3,780円)と比較的手が出しやすくなっているので、経済的負担もそれほどではなさそうです。試してみる価値はあるでしょう。

 

「はだし靴下」のデメリットとは

「はだし靴下」のメリットは、体幹を鍛えるために足裏センサーを鍛えて体の自然を保つということですが、いくつかのデメリットがあることも事実です。

まず、危険な場所は走れないということです。もしガラスが散乱した場所などを走れば、足に怪我をすることになります。

また、シューズと違って靴底の強度が低く、実際にフルマラソンで42.195キロを走り続けると、足裏が破れてしまいます。開発メーカーが実際にメルボルンでフルマラソンで試験したことがありますが、途中で靴底が敗れてしまって現在改良中だということです。現状では1足だけでフルマラソンを走り切る耐久性はありません。

「はだし靴下」の足裏

長時間走り続けると足裏が破れることもあり改良の余地あり(筆者撮影;原宿キャットストリートにて)

「はだし靴下」は体育館内や校庭では安心して使える

安全な路面でないと使えない、フルマラソンなど長時間の走行に耐えられないということなので、使用できる場所は限定されます。

そこで推奨されるのが、学校の校庭や体育館などでの使用です。特に近年、子どもたちの間で扁平足や浮き指等、足の変形が高い確率で発症していることがさまざまな機関より報告されています。「はだし靴下」で足裏に外部からの刺激を与えることで、健全な足の発育を促すことができるわけです。

子どもたちの健やかな成長をサポートするために、「はだし靴下」開発者メーカーの昌和と奈良県産業振興総合センターでは、既に幼稚園や小学校において子供たちに商品を履かせるテストを行っています。その結果、子供たちの66%で駆けっこのタイムが向上し、90%以上の子どもから、「楽しい、使いたい、欲しい」という回答を得たということです。

小中学校で体育館シューズを「はだし靴下」に変えてみたり、校庭で運動をさせてみたりするのは、比較的安全で現実的な使用法だと思われます。

「はだし靴下」の機能にアスリートも着目

「はだし靴下」が持つ、体幹、筋力、バランス力を復活させてパフォーマンスを最大化させるという機能は、既にマラソンランナーやプロのサッカー選手などにも着目されています。

サッカー選手の場合はシューズの中に履くことになりますが、靴の中での足の滑りが無くなり、パフォーマンスに好影響を与えるということです。

他には登山家が下山する際の靴下として使われたり、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックで正式種目として採用されたサーフィンでも、この靴下を履いて波乗りするとボードと足が滑らなくなり激しいアクションがしやすくなるといった報告がされたりしています。このように「はだし靴下」の使用用途は、多方面に広がっています。

サーフ専用はだし靴下

OLENO はだし靴下 ロード・5フィンガー (ブルーMIX 23cm-25cm)3,780円税込み

筆者が試した「はだし靴下」の実際の履き心地と性能は?

筆者も「はだし靴下」を履いて外を走ってみたところ、とても不思議な懐かしい感じがしました。夏場に街中をビーチサンダルで歩くことは結構あるのですが、「はだし靴下」の場合は感触がまた違います。

はだしの感覚は非常に気持ちの良いものです。しかし、見た目はただの靴下に見えるため、周囲からは不思議に見えたかもしれません。

実際のパフォーマンスは、ランニングシューズよりも軽がると走れるような気がしました。前述の通りフルマラソンを走り切る耐久性はまだありませんが、素材には防弾繊維を使うなどして強化されているそうなので思ったより丈夫な印象です。

「はだし靴下」を開発した昌和莫大小は、奈良県にある創業83年、従業員十数名の企業です。地方の中小企業がこれほど素晴らしい画期的な新商品を生み出せるのですから、大企業も知恵を絞って、斬新で「それそれ待ってました!」という商品やサービスを開発してもらいたいものです。

たまには高性能シューズを脱いで、健康のために、このはだし靴下で安全な場所をのんびりと歩いてみることをお勧めします。ただし、くれぐれもガラスなど危ないものは踏まないように気を付けてください。

※本連載の過去記事はこちらから

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山本康博(やまもと・やすひろ):ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役、ブランドマーケッター。日本コカ・コーラ、JT、伊藤園でマーケティング、新商品企画・開発に携わり、独立後に同社を設立。これまで携わった開発商品は120アイテム、テレビCMは52本製作。1年以上継続した商品を計算すると打率3割3分、マーケティング実績30年。現在では新商品開発サポートのほか、業界紙をはじめとしたメディア出演や連載寄稿、企業研修、大学等でのセミナー・講義なども多数実施。たたき上げ新商品・新サービス企画立ち上げスペシャリスト。潜在ニーズ研究家。著書に『ヒットの正体』(日本実業出版社)、『現代 宣伝・広告の実務』(宣伝会議)、英語著書『Stick Out~a ninja marketer~』(BVC)など。

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