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日本の「食」はなぜ成長産業になったのか

日本の「食」最前線

今やすべての産業が転換期にある。その中で日本は、成長産業を育成していかなければならない。その有力候補が「食」にまつわる分野だ。日本食のブームとともに、世界での日本の「食」の需要が急増している。

海外で評価が高まる日本の食文化

醤油の国際化が新しい食文化を生み出す

「日本の食文化の中心であるしょうゆは、日本料理だけでなく欧米やアジアでも現地の料理に使われるなど、食文化の交流・融合に役立ってきました」と語るのはキッコーマン取締役名誉会長の茂木友三郎氏。茂木氏は昨年、文化功労者に選ばれたが、それも長年にわたり食文化の国際交流に貢献したことが評価されたものだ。事実、今ではしょうゆは世界各地で使われるとともに、現地の料理と融合し、新しい食文化を生み出した。

2013年、和食がユネスコ世界文化遺産に登録された。

その理由は①多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重②健康的な食生活を支える栄養バランス③自然の美しさや季節の移ろいの表現④正月などの年中行事との密接な関わり――の4項目が高く評価されたものだが、その前提として、しょうゆの国際化とともに日本の食文化が世界に広く知れ渡るようになったことがあげられる。

事実、今やどの国に行っても、日本食レストランは存在する。中には日本人にとっては認めたくないような店もあるが、世界のいたるところで日本食が食べられている。

外国人が自国民に勧めたい日本食1位は?

少し前までの外国人は「生の魚は食べられない」「納豆は腐っている」等、日本食に拒絶反応を示す人も多かった。ところが今では世界中の人が上手に箸を使い、しょうゆとワサビで刺身を食べる。

タキイ種苗が行った在日外国人を対象とした「日本の食文化に関する意識調査」によると、日本食の素晴らしいところとして一番多かった回答は「食材が新鮮」、2位が「盛りつけが美しい」、3位「カロリーが低くてヘルシー」、4位「栄養バランスに優れ健康的」という結果だった。

一方、「自国民に勧めたい日本食は」という問いには、1位「ラーメン」、2位「寿司・刺身」、3位「天ぷら」、4位「お好み焼き」、5位「カレーライス」という結果となった。在日外国人の調査だからということもあるが、庶民的な食べ物も多く含まれていることが分かる。日本人が普段食べているものが世界の人たちにも「おいしい」と思われるようになってきたということだ。

インバウンドで広まった日本の食の豊かさ

日本食の普及は、外国人観光客の増加にも結びついている。昨年のインバウンド数は3100万人を超え、2020年4千万人の目標が現実味を帯びてきた。そして日本を訪れた観光客の多くが、日本の味を堪能して帰っていく。それをSNS等で発信することで、次のインバウンドを呼び寄せる。そして帰国後も、日本の味を求め続ける。

毎年3月、千葉県の幕張メッセで「フーデックス・ジャパン」という国際食品・飲料展が開かれ、食に関わる人たちが一堂に会するが、年々、外国人の入場者が増えている。昨年は4日間で約8万人の入場者があったが、そのうちの2万人が外国人だった。フーデックス・ジャパンには、日本各地の生鮮食品から加工食品まで、あらゆる食品、飲料の製造者が出店する。それを自国に持ち帰りたいと考える外国人バイヤーが増えているのだ。

それほどまでに日本の食に対する関心は高い。そしてその興味の範囲は、日本食だけではなく、日本の食材にも向いている。

輸出が増加する日本の「食」と成長産業としての期待

海外に活路を求める日本の農水・食品産業

昨年12月、中国が新潟県産のコメの輸入を解禁した。東日本大震災以来、中国は10都県産のコメの輸入を禁じていた。今回新潟県産が解禁されたのは、コメの安全性が確認されたこともあるが、やはりその味が決め手となった。

「品質の高さと安全性に絶対の自信を持っている。必ず中国の皆さんに受け入れられる」と花角英世・新潟県知事は語っているが、これは新潟県だけではなく、日本のコメ農家すべての思いだろう。昨年、1970年から続いていた、コメの生産調整が打ち切られた。

これは、コメの生産過剰を防ぐために取られた政策で、生産調整に応じた農家には補助金を交付した。しかしこれが結果的には農家のやる気をそぐ結果につながった。この制度がなくなったことで、日本のコメ生産は自由競争に突入した。

人口減少に加え一人当たりのコメ消費量も落ちているだけに、国内需要に頼っていてはじり貧になる。そこで活路を海外に求めたというわけだ。

日本の平均的なコメの小売り価格は1キロ当たり400円。ベトナム産なら50円、米国産でも100円と、価格差は大きい。ただしインバウンドの増加に伴い、日本のコメのおいしさに気づいた人も多く、帰国後もその味を忘れられずに、日本のコメを求める人も徐々にではあるが増えており、マーケットは確実に存在する。

最高級の評価を受ける青森産リンゴ

そしてこれはコメに限った話ではない。日本市場は今後大きく拡大しないことは、すべての産業にとっての共通認識であり、その活路を海外に求めるのは必然の流れだ。農業はそのひとつにすぎない。

日本の農産品の輸出で最も有名なのがリンゴだろう。日本の生産量の約半数を占める青森産リンゴ。その生産量は約50万トンだが、そのうちの2万トンが輸出されている。率にして4%だからけっして小さな数字ではない。

そしてそのうちの95%が台湾向けだ。台湾では日本のお歳暮のように、旧正月に贈答品を贈り合う習慣があるが、そこで青森産リンゴが最高級の評価を受けている。

そして今、力を入れているのが中国本土への輸出だ。実は中国はリンゴの一大産地で、その生産量は日本の30倍もある。当然価格も安く、日本産に比べると10分の1以下だ。

しかし味や見た目など、日本産と比べるとその差は明らかであり、中国に富裕層が増えるにつれ、日本産のリンゴへの需要が増えている。

現在では中国の百貨店や高級スーパーを中心に販売されているが、取扱い量は近年急増している。こうした例をいかに増やしていくかに日本の農業の未来がかかっている。

「食の輸出」は5年連続で増加中

農産物以上に海外で人気を呼んでいるのが加工食品だ。その中でも人気が高いのがお酒で、日本食の海外進出に伴い、日本酒の輸出も増えている。「獺祭」が人気の山口県、旭酒造の桜井博志会長によると、「アメリカで試飲会を開くと、そのたびに多くの人が集まってくれる。中にはセレブもまじっている」というほど、日本酒人気は高い。農水省の統計によると、日本酒の輸出量は1万トンを超え、毎年、記録を更新し続けている。

日本酒以外の酒も海外で評価が高まっている。

ウイスキーコンテストの中で最も権威があるのが「ワールド・ウイスキーアワード」で、毎年、世界一のウイスキーを認定しているが、昨年、サントリーの『白州25年』がワールドベスト・シングルモルトウイスキーに選ばれた。

またニッカウヰスキーの『竹鶴17年ピュアモルト』がワールドベスト・ブレンデッドモルトウイスキーの栄冠に輝いた。埼玉県秩父市のベンチャーウイスキーが製造する『イチローズモルト』も、ワールドベスト・ブレンデッドウイスキーリミテッドリリースに選ばれている。

日本国内でもウイスキー人気が高まったことで、各社とも原酒不足に悩まされているが、それぞれ増産しており、飲み頃を迎える頃には、ウイスキーの輸出量も大きく伸びそうだ。

農水省のデータによると、2017年の日本の食品輸出品は、8073億円と前年より7.6%伸びた。増加はこれで5年連続で、18年には9千億円を超えたとみられる。農水省の掲げる1兆円の目標も近づいてきた。日本の「食」を世界が待っている。

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