経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

髙松孝年・髙松建設社長に聞く「創業家出身社長の覚悟と会社の未来」

髙松建設社長 髙松孝年氏

親族から経営を引き継いだオーナー企業の社長には、創業経営者とはまた違った苦労や目的意識がある。13年ぶりの創業家出身社長として就任した髙松建設の髙松孝年氏に話を聞いた。

髙松孝年・髙松建設社長プロフィール

高松孝年氏

(たかまつ・たかとし)1970年生まれ。大阪府出身。94年関西学院大商学部卒業後、大手ハウスメーカーに勤務。98年髙松建設(現髙松コンストラクショングループ)入社。2010年取締役、14年髙松建設代表取締役副社長などを経て、18年4月より同代表取締役社長に就任。

創業家出身社長として髙松社長が思うこと

次世代への「バトンランナー」

髙松建設は2019年に創業102年を迎える長寿企業で、2008年にはホールディングカンパニー制へと移行。現在は、東証1部上場企業である髙松コンストラクショングループ(TCG)の傘下に、事業会社である高松建設グループと青木あすなろ建設グループなどを持つ体制を敷いている。

大阪と東京に本店を構える髙松建設の中心事業は、5~10階建ての中高層賃貸マンション建設だ。オーナーに対して土地の有効活用とマンション経営を提案する営業戦略で業績を伸ばしてきた。以前は郊外の案件も数多く手掛けていたが、近年では都心部への回帰戦略を加速させている。

その髙松建設の社長に、髙松孝年氏が就任したのは18年4月のこと。創業家出身としては13年ぶり、4人目のトップとなる。

「僕自身は“バトンランナー”だと思っているんですよね。自分が走るのはあの地点まで、というラインが仮にあっても、それでレースが終わらないという宿命がある」

髙松社長は自身の立ち位置をこんなふうに語る。ベンチャー企業の創業社長などによくあるケースと違い、会社を上場させたら株を売却して終わり、というわけにはいかない。歴史ある企業のトップとして、次の世代に引き継ぐための責任感は強い。

1970年生まれの髙松社長は団塊ジュニア世代。いわゆる「ロストジェネレーション」と呼ばれる層の最前線で、社会的には損な役回りのポジションと見られがちだ。

ただ、髙松社長は「良い意味でのハイブリッド感覚が持てている」と自己分析する。創業家出身ではあるものの、会社に対する過度な所有意識がなく、働き方改革やハラスメント防止といった、新たな施策を柔軟に取り入れる感覚がある。

「自分が話の分かる社長だと言うつもりはないですが、生きてきた時代と、創業家から4人目の社長でもあることの両方が影響していると思います」と語る。

オーナーでありつつ、会社の一部として生きていく

100年企業を任せられたバトンランナーの感覚とはどのようなものなのか。髙松社長はこう語る。

「創業家出身の社長にも良し悪しがあって、たとえば従業員が全員喜んでいるかと言えば、そこには疑問もあります。ただ、今後も社長の座に就くチャンスは誰にでもありますし、年功序列や株式の保有比率で決まることはありません。守りに固い人は守ってもらうし、攻めに強い人には攻めてもらう。つまり適材適所で役割が決まっていくと思います」

オーナー企業は守りに強いが、ややもすると攻めに弱いところがある。そこで優秀な経営人材を同族以外からも入れるなどして、上手く登用していくのが課題だとも言う。

「私の次を誰がやるかは分かりませんが、同族から次の社長が出るまで是が非でも自分が粘るつもりもないですし、支配と経営を常に一緒にする必要もないと思っています。しかるべきことをその時々で柔軟に対応していけばいい。トヨタ自動車を見てもそうですが、変化や波乱の時期には同族が戻ってくる。われわれもそうやって上手く使われながら、オーナーでありながら会社の一部として生きていく感覚です」

「使われる」という感覚は、創業社長にはあまりないものだろう。生え抜きのサラリーマン社長ともまた違う。表現の端々に、その特殊な立ち位置ゆえの感性が垣間見える。

高松孝年氏

「周囲にうまく使われながらやっていく」と語る髙松社長

髙松建設の次の一手と長寿企業としてのビジョン

変革の時期に差し掛かる髙松建設

さて、就任からもうすぐ1年が経つ髙松社長にとって、最初の通期決算はほろ苦いものとなりそうだ。2019年3月期は売り上げの先行指標となる受注高は好調なものの、売上高は着工時期の遅れにより計画を下回る見込みだ。その要因について、こう説明する。

「今は郊外型から都心型にシフトした影響が露呈している状況です。たとえば、更地に一から建てる際には発生しなかった住人による退去の遅延や、部材の納期遅れなどが発生しています。昨年まで右肩上がりで受注を増やしてきた反動が一気に噴き出してきたのが今期でした。ただ、これはウチの業態が変わってきていることで起きた一種の“成長痛”と受け止めています」

来期以降は今期受注の積み残しが一気に売上として計上できるため、挽回できる見通しだという。

東京オリンピック・パラリンピックや大阪万博の開催決定など、建設業界全体にとって明るいニュースはあるものの、国内需要は今後縮小に向かうという予想が大勢を占める。中堅ゼネコンである髙松建設にとっても、今は将来に備えるための重要な時期にあたる。都心への回帰を進めているのも、将来のマーケット縮小に備えてのことだ。

「地方都市のコンパクトシティ構想を考えても、駅から遠く離れたところに無理に建築需要を掘り起こせば10年後、20年後に禍根を残すだけ。一方、都心部における建築物の老朽化は顕著で、業界全体でも保守やメンテナンスに移行する動きが主流になっています。建て替えはそれの一番大掛かりなもので、都市強化、耐震も含めて建て替えを促進するのがわれわれの使命だと考えています」

主力の賃貸住宅のシェアは伸ばしつつ、商業施設の分野にも力を入れていく。現在は数多くの案件を手掛けることでノウハウを蓄積している段階だという。

「今後は経営努力によって、ライバルとの圧倒的な差別化を図っていきたい。マンションはどこで建てても一緒と思っている地主さんもいますが、痒い所に手が届く施策をいくつも打っていくつもりです」

と、力を込める。

髙松孝年社長

将来のマーケット縮小をにらみ手を打つ

次の100年に向けて最重視することとは何か

今後取り組んでいくテーマとして髙松社長が挙げたのは、まずM&Aだ。ここ数年、あまり話題を呼ぶような大型案件はなかったものの、今後は建設関連の枠組みの中で、今まで取り組んでこなかった領域も注視していく方針。髙松建設と青木あすなろ建設に次ぐ、ホールディングの柱となるような企業を傘下に収める可能性もあるという。

また、将来を見据えた研究開発としては、たとえばロボットやドローンを用いた建設物の検査や警備の実現も目指している。

次の100年に向けたビジョンを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「100年後には間違いなく自分はこの世にいないので、ビジョンを考えるのは難しいですが、とにかく成長し続けることを最重視しています。創業者には走り切って終わる人もなかにはいるかもしれませんが、未来永劫走り続ける会社の一ランナーに過ぎないので、自分の役割にベストを尽くします」

【マネジメント】の記事一覧はこちら

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る