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企業も注目するブートキャンプ式プログラミングスクールの凄さ―カニ・ムニダサ(コードクリサリス共同設立者&CEO)

コードクリサリス共同設立者&CEO ニ・ムニダサ氏

10年ほど前に流行したフィットネスプログラムによって日本でも広く知られるようになった「ブートキャンプ」という言葉は、元々は米軍の新兵訓練施設のこと。今ではさまざまな分野において軍隊式の厳しいトレーニングを指すようになったが、ソフトウェアエンジニアの育成においてもブートキャンプ方式を取り入れた学校が日本に登場した。創業2年で早くも実績を重ね、評価を高めているCODE CHRYSALIS(コードクリサリス)のカニ・ムニダサCEOに話を聞いた。(取材・文=吉田浩)

カニ・ムニダサ・コードクリサリス共同設立者&CEOプロフィール

カニ・ムニダサ氏

高校生までスリランカで育ち、東京農工大機械システム工学科を卒業後、日米の企業で18年間働く。IT企業の戦略サポートや顧客サービスなどに従事するも43歳の時に思い立ち、米国のコーディングスクールHack Reactor(ハックリアクター)でプログラミングを学ぶ。シリコンバレー式のエンジニア養成校を日本で設立することを決意し、ヨルダンでコーディングスクールを運営していたヤン・ファン氏と2017年にコードクリサリスを共同設立。

コードクリサリスブートキャンプの特徴

 

シリコンバレー式コーディングスクールとは

プログラミングを学びたいという需要は、学生やビジネスパーソンの間で年々高まっている。学校教育現場での必修化の動きを見ても分かるように、語学力と同じくプログラミングコードを書くスキルが、今後ますます重視されるようになると見られているからだ。

では、どこで学べばよいのか。米国では、シリコンバレー式と呼ばれるコーディングスクールが人気を集めているという。3カ月程度の期間で集中的に学び、初心者でもプロフェッショナルのレベルのコードが書けるようになるのが特色。その手法を2017年7月に日本で初めて導入したのが、コードクリサリスである。

創業者でCEOのカニ氏はこう語る。

「自分が初めてプログラミングを学んだのは43歳でしたが、その年齢になっても自分が知らない自分を発見できたのが驚きでした。そこで、人の能力を開発する仕事として、やってみたいと思って始めたのがこの学校なんです」

内容ははっきり言って厳しい。プログラムの質、量ともに、社会人であれば会社を辞めて勉強に専念しなければ卒業できないレベルだ。卒業生たちの多くが「キツかった」と感想を漏らす。授業を理解したり、生徒同士でコミュニケーションをとったりするために、ある程度の英語力も求められる。

コードクリサリスブートキャンプ

ブートキャンプ式のハードなカリキュラムを導入しているコードクリサリス

入学前から始まる厳しい選抜

入学希望者には最初からさまざまな課題が与えられる。まず、ウェブサイトの入学申し込みボタンをクリックすると出てくるコーディングの課題を解かなければ、申し込みフォームに記入すらできない。全くの初心者は、コードの書き方に関するガイドラインを見ながら解いていくことになる。そこで挫折するようでは、授業についていくのは到底無理だからだ。

次に行われるのが、ペアプログラミングテストと呼ばれるもの。生徒は一切キーボードを打たず、先生が次々に与える問題の答えを口頭で伝える形式。そこで評価されるのは、自分の考えを上手く説明するためのコミュニケーション力だ。頭に浮かんだことをどんどん口にしたり、分からなくても先生に質問したりする積極性が求められる。

それをクリアしてもまだ終わりではない。今度は入学前のプレコースとして、終了までに約2カ月は必要な大量の宿題が与えられる。これらを完全にクリアして、晴れてブートキャンプに入ることができるのだという。

コードクリサリスを受講するのはどんな人たちか

開講してから約2年間、生徒の属性は大きく分けて3パターンあるとカニ氏は言う。

「一番多いのが完全な素人で、プログラミングスキルを将来のキャリアに活かしたい人たち。これまで、ミュージシャンや学校の先生、英会話教師の外国人、海外から来たバレエダンサーといった人たちが受講しました。次に多いのが新たなソフトウェアの作り方を学ぶなど、スキルアップしたいエンジニアです。そして金融会社の社員や起業家など、エンジニアと対等に話をするために知識を身に付けたい人ですね」

3カ月の受講料はプレコース込みで103万円と、決して安くはない。しかもその間、ほかのことは一切できないほどハードな日々を送ることになる。それでも、仕事を辞めてまで受講を希望する猛者たちが絶えないのは、卒業した暁にはどこに行っても通用する実力が付くことが分かっているからだ。

選考のハードルを高く設けているため、これまで1回あたりのブートキャンプ参加者は多くて12人程度で、8人や6人の時もあったとのこと。それでも

「ビジネス的には多くの生徒を受け入れた方がメリットがありますが、基準を下げることはしません。もっと緩い内容にした方が人は来ますが、頑張る人たちを本当にヘルプするなら、数が少なくても世界で戦えるエンジニアを育てた方が良いです」

と力を込める。

コードクリサリスブートキャンプ

世界で戦えるエンジニアを育てるため、授業のレベルは落とさない

コードクリサリス卒業生の進路はどうなっているか

卒業生たちはソニーやグーグルといった大手企業に就職したり、自ら起業したりと、ブートキャンプで得た力を存分に発揮しているという。現在、卒業生たちのソフトウェアエンジニアとしての初年度年収の平均は652万円と、業界平均を300万円上回っているとのことだ。

企業が実施する入社テストへの対策や模擬面接、レジュメ作成などのサポートも行うが、就職先は自ら探してもらうのがコードクリサリスの方針。それでも、今のところエンジニアたちの就職率は100%だ。最近では、ヘッドハンターや企業の採用担当者からも、注目されるようになっている。

「給料が以前の3倍になった人もいる一方、待遇は度外視して以前から憧れていた企業に入ることを選んだ人もいます。われわれとしては、給料が高い企業に入ってもらった方が実績としてアピールはできますが、ここで勉強して夢をかなえてくれたことのほうが嬉しいですね」

 

コードクリサリスが重視するエンジニアに必要な要素とは

 

チームプレーができるコミュニケーション力

 エンジニアとしてコードを書く実力はもちろん、コードクリサリスで重視されるのがコミュニケーション力だ。その理由についてカニ氏はこう説明する。

「エンジニアの世界はチームスポーツになっていて、昔のように命じられたことを一人黙々と行うものではなくなっています。シリコンバレーでは、エンジニア同士や、プロダクトマネージャー、マーケッターなど、さまざまな人達が議論しながらプロダクトを作っていく。そんな中、日本のエンジニアからの発信がほとんど聞こえてきません。コードを書けるだけでなく、自分がやっていることをバリューとして提供できないと限界があります。また、英語でコミュニケーションを取りながらプログラミングを学ぶうちに、直接世界に発信できるようになりますし、プロダクトも自然とグローバルマーケットを視野に入れたものになります」

「自分はできる」というマインドセット

もう1つ、カニ氏が強調するのが、エンジニアの自立性だ。コードクリサリスでは、受け身の学習ではなく、生徒が与えられた問題をどう解決するかという点を大事にしている。それをクリアしていくことで、「自分はできる」というマインドセットが培われるようなカリキュラムにしているという。

「世の中に貢献できて、自分の意見を言えるエンジニアのリーダーを育てたいなと思っているので、お客さん扱いはしません。付いてこられなければ退会になるというプレッシャーの中で人間を作っていく。生徒たちが卒業するときにいつも感動するのが、自信や姿勢が本当に変わっていることなんです」

カニ・ムニダサCEO

エンジニアに必要な要素としてコミュニケーション力とマインドセットを重視するカニ氏

カニ・ムニダサCEOが描くコードクリサリスの未来

学習意欲の高い個人だけでなく、エンジニア養成機関として企業からも注目され始めたコードクリサリス。今後の成長と事業の安定のために、企業との提携を強化していくことも重要になりそうだ。

ブートキャンプがスタートした当初、某大企業の社員が立て続けに3人も入学のために休職しようとし、人事部に断られたため、やむなく退職したことがあった。不思議に思った人事担当者がコードクリサリスのことを知り、今ではその企業からは休職扱いで入学できるようになったというエピソードもある。

「企業とは単発ではなく、どんな問題があってどう解決するかを一緒に考えるパートナーになりたいですね。実績をさらに積み重ねて、さらに信用を付けていきたいと考えています」

企業との関係を強化する際の課題は、「日本でやっている意味を忘れないこと」だとカニ氏は言う。決して外国人をないがしろにするわけではないが、外資系企業や外国人ばかりを相手にしていては、日本で事業を行っている意味が薄れてしまう。最終的には生徒の50%を日本人にするのが理想だ。

日本人の生徒がまだ少ない理由として、英語力の問題と自己投資に対する考え方の違いがあるのではないかとカニ氏は指摘する。

「勉強のためのお金は、親か会社か国が払うものという考え方が日本人には根付いているようにも見えます。ウチの卒業生の年収が平均の2倍であるといったことがもっと知られれば、価値を分かってもらえるのではないでしょうか」

自分と向き合い、必死に努力して能力開発に成功した先に見える世界がある。その景色を見られる日本人が1人でも多く増えることが、カニ氏のモチベーションとなっている。

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