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北朝鮮ナンバー2、張成沢の処刑をどう読むか

佐藤優

張成沢が北朝鮮訪問の猪木議員に発した失脚のシグナル

 

処刑された北朝鮮の張成沢・前国防委員会副委員長

処刑された北朝鮮の張成沢・前国防委員会副委員長

 2013年12月12日、北朝鮮の張成沢・前国防委員会副委員長(67歳)が処刑された。

〈12日に開かれた特別軍事裁判で、張氏がクーデターを画策する「国家転覆陰謀行為」を認めたとして死刑判決が下され、ただちに執行されたとしている。事実上のナンバー2だった張氏の処刑で今後、側近らの粛清が続くとみられ、金正恩第1書記の独裁体制が強まる見通しだ。/故金正日総書記の妹の夫で、正恩氏の義理の叔父にあたる張氏は正恩氏の「後見人」とされてきたが、反党・反革命的な分派行為や不正・腐敗行為があったとして、8日の朝鮮労働党政治局拡大会議で党行政部長などすべての職務から解任された。〉(13年12月13日『朝日新聞デジタル』)

 筆者は、12月5日にアントニオ猪木(猪木寛至)参議院議員と懇談した。11月下旬、平壌を訪れた猪木氏は、張成沢氏と会見した最後の外国要人になる。筆者と猪木氏の間でこんなやりとりがあった。

佐藤 「張成沢さんとのやりとりで何か気になることがありましたか」

猪木 (少し考えて、)「(北朝鮮を訪れた)『あなたの勇気を称える。あなたの正しさは歴史が証明する』と言っていた。『歴史が証明する』という言葉が、印象に残った」

佐藤 「『歴史が証明する』とは、現下の政争では敗れるが、いずれ敗れた側が正しかったことが後の歴史で証明されるという意味です。旧ソ連時代、政争に巻き込まれた政治家がよく使った言葉です。張成沢が失脚したことは間違いないです。平壌から何かシグナルがありましたか」

猪木 「今朝、平壌から『今回の出来事(張成沢粛清)にかかわらず、猪木先生との約束は生きていますし、来年1月の日本からの国会議員団の受け入れも予定通りに行います』という連絡があった」

 猪木氏と会見した時点で、張成沢は、処刑されるかどうかは定かでないとしても、失脚は必至であるとの認識を持っていたので、猪木氏に仮託して、「正しさは歴史が証明する」と述べたのであろう。

 

北朝鮮では旧世代エリートの粛清が進行

 

 今年、平壌の外国文出版社から日本語で刊行された金正恩『最後の勝利をめざして』に北朝鮮でイデオロギー転換が本格的に始まったことをうかがわせる記述がある。

 本書では、従来の「金日成主義」に代わって「金日成・金正日主義」が北朝鮮の指導思想になっている。

 旧ソ連の独裁者スターリンは、従来の「マルクス主義」から「レーニン主義」という新しいイデオロギーを構築した。同時に、トロツキー、ブハーリンなどのライバルをレーニン主義に反する「分派活動をした」「資本主義の復活を幇助した」などの罪状で粛清した。金正恩は、スターリンから権力基盤確立の技法を学んでいるのだと思う。

 『最後の勝利をめざして』には、「革命家の遺児は万景台の血統、白頭の血統をしっかり継いでいく先軍革命の頼もしい根幹となるべきである。・・万景台革命学院、康盤石革命学院創立六五周年に際して学院の教職員、生徒に送った書簡」が収録されている。この書簡の日付は、12年10月12日だ。

 金正恩は、北朝鮮のエリート候補生である万景台革命学院と康盤石革命学院の関係者に対して意味深長な警告を行っている。

 〈万景台革命学院と康盤石革命学院は、生徒に対する教育活動において何よりも思想教育活動を強化すべきです。

 革命家の血筋を引いているからといって、その子がおのずと革命家になるわけではありません。偉大な大元帥たちが述べているように、人の血は遺伝しても思想は遺伝しません。
 革命思想は、ただ絶え間ない思想教育と実際の闘争を通じてのみ信念となり、闘争の指針となり得るのです。〉(132頁)

 「革命家の血筋を引いているからといって、その子がおのずと革命家になるわけではありません」というのは、金正恩体制下で今後、エリートを流動化させるという宣言だ。金正恩の叔父である張成沢はまさに「革命家の血筋を引いている」が粛清された。
 張成沢だけでなく、旧世代の政治エリートを一掃する大規模な粛清が北朝鮮で現在進行していると筆者は見ている。

 

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