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「サンリオピューロランドを復活させた組織論とリーダー論」―小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)

小巻亜矢氏(サンリオエンターテイメント社長)

サンリオエンターテイメントが運営するサンリオピューロランドは、2000年頃から長く低迷していたが、4-5年前からV字回復している。その背景には、14年6月に同館に赴任した、同社の現社長・小巻亜矢氏のリーダーシップがある。小巻氏は一人一人の社員との“対話”を通じて、パーパスドリブンな組織へと同社を導いていった。文=唐島明子(『経済界』2020年3月号より転載

小巻亜矢氏プロフィール

小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)

こまき・あや 東京出身、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。1983年サンリオに入社し、結婚退社後、出産などを経てサンリオ関連会社に仕事復帰。2014年サンリオエンターテイメント顧問就任、15年サンリオエンターテイメント取締役就任。16年サンリオピューロランド館長就任、19年6月に同社社長に就任。子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル」委員長、NPOハロードリーム実行委員会代表理事、一般社団法人SDGsプラットフォーム代表理事。

小巻亜矢社長が取り組んだパーパスドリブンな組織づくりとは

聴衆に投げかけた「パーパス」につながる問い

「今皆さまが行っている事業が、もし無くなってしまったら、いったい何人の方が悲しむと思いますか」――。サンリオエンターテイメント社長の小巻亜矢社長は、「ピューロランドをV字回復させたパーパスドリブンの組織変革――経営危機を脱出させた対話力――」と題した講演をガートナー主催の「ITシンポジウムXpo 2019」で行い、その冒頭で聴衆にこう問い掛けた。

2019年6月に社長となった小巻氏は、その5年前の14年6月、長く続く苦境から脱出できずにいたピューロランドに赴任してきた。そして同館に活気を取り戻そうと、マーケティングを学ぶために招いた講師から、この問いを投げ掛けられたという。

「実はこれはすごくパーパス、言いかえれば『存在意義』につながる問いです。いったい私たちは何を提供しているのか。ピューロランドは世の中にどんなバリューを提供できているのか。今どれくらいのファンの方がいるのか――。予期せぬ赴任だったこともあり、当時の私はこんなに大切な問いに答えられませんでしたが、そこから私のテーマパークの仕事が始まりました」と小巻氏は語る。

全社員との対話を繰り返し各自のパーパスを顕在化

パーパス(purpose)は直訳すると「目的」だ。小巻氏は、そのパーパスを「存在意義」と表現し、「私たちは何のために存在しているのか」と一歩踏み込む。

サンリオエンターテイメントとしてのパーパスは明確だ。同社の親会社であるサンリオの企業理念は「Small Gift Big Smile」。何万円もする贈り物ではなくてもいい、1本30円のかわいい鉛筆や1冊100円のノート、ちょっとしたグリーティングカードのような小さな贈り物があれば、コミュニケーションを通じて世界中のみんなが仲良くできるだろう。その「Small Gift Big Smile」がパーパスだ。

他方、一人一人の社員のパーパスは何か。これを探るために小巻氏が始めたのが“対話”だった。

赴任した14年、社員は約250人いた。そこで役員や管理職とは1オン1ミーティング、その他の社員とはグループワークを通じて、小巻氏はそれぞれの思いに耳を傾けた。

対話したのは5つの項目、(1)なぜこの会社で仕事をしようと思ったのか、(2)なぜ大変なときに辞めずに頑張ってきたのか、(3)一番大変だったこと、苦労したことは何か、(4)一番楽しかったことは何か、(5)誰かにピューロランドを自慢するとしたらどこか。

「大変な作業でしたが、会社をつくっているのは人ですから、一人一人の中にどんなパーパスにつながる答えがあるのか知らないと手を打てないと思いました。5つの質問を社員と共有し、さらに社員同士が共有することで、連帯感が生まれるという期待もありました。質問への答えを口に出して語り合うのは照れ臭いですが、対話によって初心や誇りなどの内的動機が呼び起され、今度はそれをお互いに承認し合い、評価されることで外的動機へと循環していきます。赴任してからの5年間、このような取り組みを重ねていきながらパーパスドリブンな組織を目指してきました」

対話の仕組みを構造化した「対話フェス」と「朝礼」

1オン1ミーティングとグループワークを終えた14年9月には、社内のコミュニケーションを活性化し、各社員が「何のためにピューロランドの仕事をしているのか」というパーパスを日常的に考えるようにするため、対話の仕組みを構造化した。

その1つが「対話フェス」だ。社員がテーブルを挟んで椅子に座り、2、3分ごとに席を移動しながら、イベント時間内で数十人と話すというもの。全社員参加のイベントで、部署・役職・年代・性別など関係なく、みんなが同じテーマで語り合い、顔は知っていても話したことのない社員同士ができるだけ会話するようにしている。

「対話フェスを通じて、『怖そうだと思ってたけど、話してみるとなんか親しみがわいた』など、お互いの人となりに触れることで、すごく温度を感じるコミュニケーションが生まれるようになりました」(小巻氏)

対話フェスで出てきたアイデア、例えば「スタッフのコスチュームはもっとこうした方がいいのではないか」というようなものは、できるところから具現化していった。小さな成功体験が重なることで、「次の年の対話フェスがとても楽しみ」という良い循環が生まれているという。

また19年7月からは、小巻社長がコーチングを学んだ経験を生かした「お誕生日コーチング」も導入した。各社員の誕生月に15分の時間を取り、小巻社長がコーチングする。社員一人一人とのコンタクトポイントを増やすのが狙いだ。

さらにテーマパークで働くアルバイトを中心とした対話の仕組み「ウォーミングアップ朝礼」もある。毎回15分の朝礼で、ドミノ倒しのようにチームビルディングに役立つゲームを行うこともあれば、地震の時にどう来館客を誘導するかの防災訓練、あるいは海外ゲストを迎えるための語学を学んだりする。

小巻氏は「事業ですから、売り上げや利益率、動員数は必要ですが、数字だけ見ていると苦しくなります。しかしパーパス、存在意義を意識するだけで、生産性は確実に上がります」と語る。

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