経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

温泉発電と小水力で町おこし。復興へ地域資源をフル活用(福島市、元気アップつちゆ)

地域再生の現場を行く

16号源泉に温泉発電施設 小水力発電所は東鴉川流域に

熱湯が噴き出す源泉設備。この隣接地で、温泉発電を行う(福島市土湯温泉町)

熱湯が噴き出す源泉設備。この隣接地で、温泉発電を行う(福島市土湯温泉町)

 東日本大震災と原発事故による風評被害で客足が急落した福島市の温泉街で、再生可能エネルギーを生み出す新たな挑戦が繰り広げられている。市西南端の土湯温泉町が町を挙げて取り組んでいるもので、2014年末に小水力発電事業が、15年春には温泉発電事業がそれぞれ動き出す。地域でエネルギーの地産地消を目指すとともに、事業で得た収益金を賑わいある町づくりに生かす方針だ。

 土湯温泉町は市の中心部から西南へ16㌔、磐梯吾妻国立公園の一角にある山あいの温泉郷だ。標高450㍍の高原を流れる荒川沿いに旅館やホテルが立地し、多様な泉質と豊富な湯量が自慢の温泉地として有名だ。

 70カ所ほどある源泉の中で最大の湯量を誇るのが、温泉街から荒川を2㌔さかのぼった16号源泉。所有者は湯遊つちゆ温泉協同組合で、井戸から湧き上がる温泉が毎分1200㍑、配給管を通じ24時間絶え間なく旅館やホテルに給湯されている。この16号源泉の隣接地に、地熱発電の一種である「バイナリー発電所」(別称、温泉発電)がお目見えする。

 温泉発電事業の経営主体は「元気アップつちゆ」(資本金2千万円、加藤勝一社長)である。協同組合とNPO法人(まちづくり協議会)が出資して12年10月に設立した株式会社だ。温泉発電の主要設備は温泉地の立地条件や湯量などに合わせて作るので、オーダーメード型の設備発注が普通だ。「元気アップ」では実績のある米国オーマット社製設備の導入を決定、14年中にイスラエルで製作される。

 出力は400㌔㍗で、設備投資額約6億円のうち、1割相当の6700万円を経産省の補助金で賄う。運転開始は15年4月で、作った電力は固定価格買取制度を活用して全量、東北電力にキロワット時42円で売電する。

 一方、小水力発電は東鴉川の第3砂防堰堤近くに「元気アップ」が建設するもので、出力は約136㌔㍗。発電設備は国産機器を採用し、総額約3億円のうち、1億700万円を経産省の補助金で賄う。運転開始は14年12月で、こちらも全量、東北電力に売電(34円)する。

「温泉枯渇の心配がない」 投資回収、8年以内の見込み

 バイナリー発電は地上に噴出する温泉の熱を利用して沸点の低い媒体を沸騰させてタービンを回し発電する仕組み。媒体にはアンモニアや代替フロン、炭化水素ガスを使うことが多い。

 地熱発電と言えば、新たに深い井戸を掘り高温蒸気を取り出して利用するのが通例だが、バイナリーは違う。現有源泉の余剰温水を有効活用できる点が最大の特徴だ。地球環境に優しいエネルギーだし、①日照や天候に左右されず24時間働くので、発電効率が大きい②地震などの災害時に独立電源として使える③観光施設に役立てやすい︱︱などのメリットもある。

 そうした利点を生かしつつ、「元気アップ」が特に注目するのが、現行の150度程度の温水と蒸気をそのまま利用できること。「温泉の効能に影響をもたらさないし、温泉が枯渇する心配もない。住民からも理解してもらえる」と加藤社長は話す。

 もう1つの小水力発電は河川を利用する全国でも珍しい試みだ。町の周辺には急流な川が複数、流れており、全部で32の砂防ダムが造られている。このうち最適なダム周辺地点でまず、小水力発電を事業化するわけで、事業が軌道に乗れば、他地点への事業展開も十分、可能だ。

 温泉発電にしろ小水力発電にしろ、地域の資源を上手に生かすところに土湯温泉町の取り組みの特色がある。「街の活力を取り戻すには、使えるものを使って自分たちで立ち上がるしかない」と加藤社長は言い切った。

 人件費や管理費を含めると、2つ合わせた総事業費は10億円。人口500人ほどの町にとってまさに大仕事だが、「8年以内には投資を回収できるのでは」と関係者は意気軒昂だ。

背景に震災と風評被害 町おこしへ野心的な計画

 温泉街が再生可能エネルギーの事業化に踏み切った背景には、大震災と風評被害で地域が被った深刻な窮状がある。大震災の後、しばらくして2軒の旅館が廃業し、1軒が長期休業に入った。その半年後には3軒が廃業し、16軒あったホテル、旅館が10軒に減ってしまった。

 利用客の落ち込みは激しく、11年度は20万人と前年度比半減し、12年度は同10%減。13年度も客足は戻っていない。原発事故の2次避難所として受け入れた被災者が12年秋に旅館から立ち去ると、さらに活気を失い、商店街や土産店、飲食店などにも悪影響が広がった。

 窮状が長引くにつれ、このままでは地域全体の存続が危ぶまれるとの声が高まっていく。危機感を募らせた有志が12年秋、再生協議会を結成して対応策を協議したが、その結果行き着いた先が、地域の資源を生かした自然エネルギー事業だった。

 とはいえ、事業化の前途は容易ではない。立地の適地はあるのか、温泉は枯渇しないか、資金調達は? 事業収支は? と、課題があまりにも多い。「元気アップ」スタッフの千葉訓道氏は「温泉発電は環境省の調査補助金(5500万円)、小水力は国交省の調査補助金(1680万円)などを活用し、一つずつ解決していった」と話す。

 エネルギーで得た収益金を街の復興につなげようと、関係者は新たな町づくりに走り出した。空いた旅館の活用(観光交流施設)、エネルギーミュージアムの建設と産業観光の推進、高級魚養殖や野菜栽培、電柱地下化などの構想が浮上している。

「3年間で20億円近い大事業」となりそうで、自然エネルギーを軸にした野心的な町おこしが、温泉街で続きそうだ。

 
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