経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

トップ人事は業界や国籍でなく戦略に従う時代に

世界で勝つためのイノベーション経営論

縮小する日本のマーケットとトップ人事の新潮流

 

人口増と内需に支えられた日本の成長

 2013年の推計で、日本の人口自然減(出生数が死亡数を下回ること)が24万人を超え過去最高になった。少子高齢化が本格化してきている。

 前回の東京オリンピックの1964年、日本の人口はまだ9700万人にすぎなかった。それが現在は1億2700万人。驚くべきことに、オリンピック以降日本の人口は約3千万人も増加していたのである。

 これは、この半世紀にイラクあるいはマレーシアといった約3千万人級の人口が流入したことに匹敵する。この人口急増に60〜70年代の高度経済成長や80〜90年代のバブル経済が展開されたのである。

 日本の成長はまさに人口増と巨大内需に支えられたと言っても過言ではない。

 しかし、それが減少に転じたのは05年であり、昨年過去最高の人口自然減を記録したのである。

 残念ながら、この現象は一時的なものではなく、今からさまざまな手を打ったとしても50年までは確実に継続する長期的減退なのである。ということは、国内市場は確実に減少し続けるということなのだ。

 そして、この現象と裏腹に「日本企業のグローバリゼーション」という言葉がある。すなわち、縮小するマーケットから全世界を相手にしたビジネス展開が必然的な要請になっているのである。

LIXILはなぜ異業種からのトップ人事を実行したのか

 こうした状況下で、昨今のトップ人事に新しい傾向が顕著になってきた。最も代表的な事例が11年8月にLIXILグループ社長に就任した藤森義明氏だろう。

 LIXILはトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社を傘下に抱える建材・住宅設備機器総合メーカーである。同社はそれまでにも国内外の積極的M&A戦略で事業内容を拡大してきたが、藤森氏を迎えてさらにグローバル事業を急拡大しようとしている。

 藤森氏の社長就任後、同社は欧州最大の衛生陶器・水回り機器メーカーの独グローエ、さらには米国最大手のアメリカン・スタンダードを買収した。まさに、潮田洋一郎会長と藤森社長が共に掲げる「世界一の住宅機器メーカーになる」ための大きな布石だったのである。

 当初、藤森氏の米GEから日本の住宅機器メーカーへの転身を奇異の眼で見る向きもあった。事業分野が違う上に、当時のLIXILはまだまだドメスティックな企業だったからである。

 しかし、藤森氏の経歴と業績を見れば、この人事が何を狙ったものかは明白である。東大工学部卒業後、日商岩井(現双日)に就職し、カーネギー・メロン大学でMBAを取得した後に86年にGEに転職。当時ジャック・ウェルチ率いるGEの医療機器事業部・核医学事業部長を経験した後に、本社上級副社長を兼任した上でアジア統括と日本GE社長・会長を歴任している。

 藤森氏は、まさに強いリーダーシップを持って、グローバルにビジネスを展開できる貴重な人材なのである。

 LIXILは同氏を迎えることによって、縮小する国内市場から世界市場へ打って出る決断をしたのである。

 

トップ人事の考え方に起きた変化

 

日本の老舗企業が戦略に従い外国人社長を招聘

 同様に昨年11月に武田薬品工業が、14年6月から新社長に、フランス人で、英国大手製薬企業グラクソ・スミスクライン(GSK)の成長部門ワクチン事業を統括してきたクリストフ・ウェバー氏を迎えることを発表した。

 創業1781年という老舗企業が外国人社長を選出したことに対して、日本ビジネス界では驚きの声もあった。しかし、製薬マーケットの推移や今後の事業展開を冷静に分析すれば、至極当然な人事である。

 12年の武田の1兆6千億円の売り上げ内訳は、日本47・2%、米国27・2%、欧州20・2%であり、日本を中心に欧米がほぼ拮抗していた。

 しかし、アジア圏は3・9%、インド・南米・アフリカなどの新興市場に至っては1・6%と全く手つかずであった。一方、GSKの約3兆5千億円の売り上げ内訳は、米国32・0%、欧州27・7%、新興市場+アジア太平洋25・7%であり、欧米ばかりか新興市場+アジア太平洋地域にも強いことが分かる。

 武田の売り上げは日本最大と言っても、世界最大の米ファイザーの5兆円強の3分の1にも満たない。今後武田が成長し続けるためには、成熟化した国内市場や欧米市場に加えて新興市場攻略は欠かせない。そして、新興市場攻略の鍵はワクチンなのである。

 GSKでワクチン事業を統括してきたのがウェバー氏なのだから、この人事はかなりロジカルだということができるだろう。

トップ人事と組織形態は戦略に依存する

 僕の師匠アルフレッド・チャンドラーは「組織は戦略に従う」という名言を残した。どのような組織形態を採用するかは、実行したい戦略に依存するという意味だ。

 そして、「トップ人事も戦略に従う」のである。日本企業も選択した戦略がグローバル展開ならば、そのリーダーは世界中の幅広い人材プールから選ぶのが当然である。

 もはやトップ人事は、業界とか国境とか国籍の問題ではなく、その企業が一体何を実行したいのか、すなわち戦略の問題なのである。

 

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