経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

苦境の飲食店支援で生まれる新たな地域支援の輪

境はづきさん、淺野真澄さん

新型コロナ騒動による営業自粛要請で、飲食店の多くが崖っぷちに立たされている。急遽テイクアウトメニューを揃えたものの、認知が広がらず苦労している店舗も多い。そんな状況の中、神奈川県茅ケ崎市で立ち上がった1つの活動が注目されている。(吉田浩)

営業自粛で苦境に陥る飲食店を支援

「活動を始めてまだ1週間ですが、飲食店のテイクアウトの動きは間違いなく活性化しています。世の中は新型コロナのニュースばかりですが、茅ケ崎ではテイクアウト情報が一番流れている感じです」

こう語るのは淺野真澄さん。営業自粛で苦境に陥る地域の飲食店を支援するため、友人と2人で「茅ケ崎foodaction テイクアウトできる店」というフェイスブックページを立ち上げた。

テイクアウトメニューを手掛ける茅ケ崎の飲食店と、その支援者たちによる約1500人のグループをわずか3日で形成。その後もハイペースで規模を拡大し、問い合わせも日増しに増えている。

活動を始めたきっかけは、地元で花屋とカフェを経営する境はづきさんから、弁当メニューの告知について相談を受けたことだ。店舗営業自粛の影響でテイクアウトメニューを始める飲食店は全国的に増えているが、個別のPRでは認知がなかなか広がらないのが実情だ。

そこで、そうした地域の店を一覧で紹介する場をオンラインとオフラインで作り、支援する活動を2人でスタートさせた。

特筆すべきはスピード感だ。まずはウェブサイトの立ち上げを考えたが、時間がかかると判断してフェイスブックグループの形成に着手。その傍ら、茅ケ崎商工会議所などの協力を得て、折込みチラシの作成や、個人的ネットワークを通じた参加飲食店の募集も始めた。3日後には、44店舗のテイクアウト情報を掲載した初回のチラシが配布されることになった。

茅ケ崎foodaction

初回44店舗だった参加店は現在も増え続けている

「1日20人ぐらいとメッセージでやり取りして、複数のチャットグループをつくって境さんと2人で対応しています。大変ではありますが、基本的にスマホ1台あれば仕事は回せます」

飲食店の状況が日に日に切迫していく中、行動の「早さ」はとにかく意識している。

 ウェブサイト立ち上げを急ピッチで行う一方、今後は参加人数をさらに拡大し、リアルの場での認知を広げるためにチラシの枚数と配布場所もさらに増やしていく。自治体の掲示板や地域の広報誌といった場所での告知も行い、利用者とのタッチポイントを増やしていく考えだ。

多方面からの支援が地域全体に広がる    

淺野さんはもともとローカルファースト研究会という団体の代表として、地域情報を発信する機関誌の出版などを手掛けてきたが、今回の活動は完全に個人で行っているという。

「この活動は多くの方の共感を得ることが絶対に必要と思ったので、団体の名前は一切出さないことにしました。あくまで個人の情熱だけでやっていることなので」

協力の輪は着実に広がっている。商工会議所のほかにも、たとえば、飲食店に対して野菜を半額で提供できるという農家や、販売スペースを貸せるというガソリンスタンド、料理の写真撮影に協力するというカメラマン、さらにチラシ配布については観光協会や隣の藤沢市など、さまざまな方面から支援の申し出が届いているという。

こうした幅広い支援が得られている背景には、普段の仕事を通じて積み上げた信用がある。

「私も境さんも、地域の人たちをつなぎ合わせるネットワークをそれぞれ持っているのが大きいですね。あとは女性ならではの行動力も生きていると思います」

茅ケ崎の動きをモデルケースとして、他の自治体からの問い合わせも増えているとのことだ。

「みんな考えすぎて動けない部分もあると思いますが、どんどん真似していただければと思います。私たちは単純に情報発信グループとして認知活動をしているだけで、組織として利益を得るためにやっているわけではありません。私たちの活動を起爆剤に、全国的な動きになればと考えています」

茅ケ崎foodaction

茅ケ崎foodaction発起人の淺野真澄さん(右)と境はづきさん

社会情勢の変化で進化する地域支援の形

活動の規模が拡大するにつれ、ビジネス目的による協力のオファーも増えてきた。しかし、特定店舗の利益や企業の広告宣伝につながる話については、活動の趣旨と異なるため今のところ進める考えはないという。あくまでも「自らのメリットではなく、みんなで勝つために活動する」という姿勢は崩さない。

世間の情勢がどうなるかはまだ見えないが、「新型コロナ騒動が終焉しても活動は続けていくつもりです」と淺野さんは語る。飲食店から始めた活動を、別の業界について展開する可能性もあるという。

新型コロナ騒動がもたらした社会の変化は、地域活性化の在り方も変えようとしている。