経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

経営者がSNSで情報発信する意義と支持を集める秘訣― 笹木郁乃(LITA社長)

笹木郁乃LITA社長

寝具メーカーのエアウィーヴ広報責任者として、売上高を1億円から115億円にまで伸ばした実績を持つ笹木郁乃氏。コストをかけずにSNSなどを活用して企業と商品・サービスの認知を上げるのが真骨頂だが、その手法は経営者の自己プロデュースにも応用できるのか。初の著書『0円PR』(日経BP)で紹介された内容をもとに、経営者自身が発信する意義と効果について語ってもらった。(写真=山田朋和)【『経済界』2020年6月号より加筆の上転載】

笹木郁乃・LITA社長プロフィール

笹木郁乃LITA社長

(ささき・いくの)1983年生まれ。山形大学工学部卒業後、アイシン精機で研究開発職に従事。その後寝具メーカーのエアウィーヴ第1号社員として転職し、PRに注力して売上高1億円から115億円に伸ばす急成長に貢献。鍋メーカーの愛知ドビーを経て、2017年ikunoPRを設立、19年LITAに社名変更。企業のPR支援のほか、経営者や個人事業主、広報担当者などにPRスキルを伝える「PR塾」も主催する。

経営者がSNSを始める前に知っておくべきこととは

SNSの活用はまず目的の明確化から

私たちのところには、SNSを使った自己プロデュースが必要と感じている企業経営者からの相談が増えていますが、炎上リスクなどを考慮して大きな会社ほどやっていない印象です。特に50代以降の方は、メディアに出るのはOKでも経営者が自ら前面に出て発信することに対する抵抗感が強いようです。

一方、中高年の中小企業経営者が上手くSNSを活用して、業績向上や人材採用で大きな成果を出しているケースも出てきています。

経営者個人の自己プロデュースで成果を上げるには、まず、目的をはっきりさせることが重要です。法人相手のビジネスがメインの企業などでは、必ずしも経営者の認知度拡大が業績向上に結び付かないケースもあります。そんな場合は人材採用に目的を特化して、応募者の興味を深堀りしてもらうツールとして活用するのも手です。

事前の設計図をしっかりと描く

一気に認知を広げる広告と違って、SNSは少しずつじわじわとファンを増やす活動で、言ってみれば田植えのようなものです。たとえば、既に著書を出していて周りから「先生」と呼ばれているような方がSNSを始めると、地味な作業に音を上げてしまうこともあるようです。

SNSをはじめとするネットの情報発信は絶対にやらなければいけないわけではないですが、始めるなら事前に設計図をしっかり描くことが重要です。無駄なパワーを極力使わず、結果が出ない間も試行錯誤しながらツールの雰囲気に染まっていく努力が求められます。

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「経営者のSNS発信は事前の計画が大切です」

SNS・ネットツール活用の具体的なテクニック

 

各ツールの特徴と活用法

自社商品のPRと相性の悪いSNSを使って無駄な労力を割くケースもあるので、目的に応じたツールを選ぶことが非常に大事になります。

例えばツイッターやフェイスブックは多くの人から注目を集めるのに、ブログは読者の興味をさらに深堀りするのに有効なので、社長の価値観や会社への関心を惹きつけることを書かないと意味がありません。

ラインやメルマガについても、経営者や会社の価値観により深く共鳴してもらうためのツールと言えるでしょう。不動産投資など、高額商品をじっくり選んで購入してもらう場合には、SNSよりメルマガが有効になります。

また、フェイスブックと比べて制約が多く、効果が出る分野は限られるものの、商品やサービスの購入率が非常に高いのがインスタグラムです。特に、旅行、アパレル、美容、フード系など、女性をターゲットにした領域には強いという特徴があります。購入率の高さの理由として、写真によって世界観を作りやすいインスタの投稿はあまり宣伝っぽく見えないという点が挙げられます。

フェイスブック投稿のコツと注意点

謙虚さはもちろん必要ですが、誰でも利用できるSNSの中で自分を差別化するには、仕事やメディア登場の実績などをしっかり見せて、自分の価値を高めることが必要です。

私がよく活用するフェイスブックを例に挙げると、投稿する内容のバランスとして「実績、お役立ち情報、人柄、告知」の順に「3:3:3:1の法則」を意識しています。実績だけアピールするのが好きな方もいますが、これだと威厳は出てもなかなかフォロワーが増えません。役に立つと思ってもらうには、読者にとってのお役立ち情報を同じくらい上げると良いでしょう。

さらに、実績とお役立ち情報だけだと同じようなことをやっている人がいる可能性が高いので、共感を得て差別化するために大事なのがプライベートの情報や考え方など人柄が分かる投稿です。そして、商品やイベントの告知は1割程度に抑えます。

文章に自信がない人でも、考え方を入れるだけで興味を惹きやすくできます。例えば、「今日ラーメンを食べた」という投稿なら、それだけに終わらず「自分は飲食より思考に時間を掛けたいから、サッと出てくるラーメンが好き」というふうに「なぜ?」の部分を付け加えることによって差別化が図れます。

流し読みされない工夫も必要です。フェイスブックの場合だと、読み手のニュースフィードに現れる写真と最初の5~6行にはかなり気を遣います。一度投稿した自分の書き込みは必ずチェックして、写真の見え方が変だったり文章の引きが弱かったりする場合は、編集して上げなおします。客観的に、他の人が見て面白いと思ってもらえるかについては相当こだわっています。

他の細かな工夫としては、フェイスブックではタイムラインに外部のURLを載せると読み手のニュースフィードに上がりにくくなる傾向があるので、コメント欄にURL入れることもあります。ただ、私の場合はメルマガに登録していただける方を増やしたいので、表示回数が減ってもあえて目立つタイムライン上にURLを入れるようにしています。

集客に強いメルマガ

私の場合は、まずフェイスブックで知ってもらって、それからブログ、メルマガ登録という流れが多いです。メルマガとラインは、登録してもらうためのハードルは高いのですが、それを超えてきていただいた方はコアなファンとして定着します。ちなみに、私が継続的に主催しているPR塾に関しては、メルマガからの集客が9割となっています。

やってしまいがちな失敗は、イベントなどを先にSNSで一般告知して反応がなかったらメルマガで告知するというパターン。これではメルマガ読者は、ないがしろにされた感じを抱いてしまいます。まず、コアなファンが多く集客しやすいメルマガで実績をつくってから「残り〇〇席」という形で、SNSフォロワーの気持ちをくすぐるほうが効果が上がりやすいです。メルマガは最初なかなか登録者が増えずに不安になることもありますが、何かを告知したときの反応は強くなります。

メルマガは最初のうちはなかなか登録者が増えないので、いきなり始めず100人程度の登録者の見込みが立ってからスタートするのをお勧めします。

ブログツールは何を使えば良いか

最近、利用者が増えてきた作品配信サイトのnoteのメリットは、ホームページのようにデコレーションや記事の編集機能がしっかりしているので、内容の濃いコラムをしっかり見てほしい場合は有効でしょう。ただ、noteだけ更新しても認知は広がりにくいので、記事拡散用のツイッター、フェイスブック、インスタなど、強いSNSを1つ持って組み合わせで使うと結果が出やすいようです。

ブログサービスとして代表的なアメブロも、依然として利用価値は高いです。アメブロの良い点はユーザー数が6千万人以上と多く、アメブロ内で回遊するユーザーが多いので、noteに比べると自分を見つけてもらうチャンスが増える点にもあります。ランキングやトピックなどに抜粋されると一気にアクセスが増えるのも良いところです。

経営者の情報発信を人材採用に活かす

経営者自らSNSで発信することの効果が高まっているのが、人材採用の部分です。商品購入の場合はユーチューブやツイッターなどで事前に評判をチェックすることはあっても、社長のSNSなどを見ることはほとんどないと思います。でも入社する企業に関しては、特に最近の若い人は誰と働きたいかを重視する傾向が強まっているので、トップの情報発信が大切になります。

例えば、ITエンジニア養成スクールを運営するdiv社長の真子就有さんは、ユーチューバーの「マコなり社長」として活躍しています。ユーチューブでは仕事や人生で成功する秘訣といった内容で10分程度の動画を2日に1本ぐらいのペースで上げ、チャンネル登録者は45万人以上にもなっています。

始めた当初は同業者などから懐疑的に見られていたようですが、入社希望者が殺到するようになり、メディアの取材も増えて周囲の目が大きく変わったということです。

笹木郁乃LITA社長

「企業トップの情報発信が人材採用にも影響します」

まとめ―結局SNSで勝てる経営者とは?

 

繰り返しになりますが、SNSを始めるときに何のためにやるか、どこまでの結果を目指すか決めることが重要です。最初は失敗もしますが、比較的すぐに結果を出す人も長期的に結果を出す人の共通点は、古臭い言い方かもしれませんが根性があるということ。

そしてもう一つ。SNSのツールごとに、好まれる投稿のテイストや、フォロワーが増えやすいコツのようなものがあります。それを理解し、柔軟にSNSのツールにあった投稿の仕方に合わせられると伸びやすいです。

何かの分野で実績があっても、SNSの世界では他の人とスタート地点が同じということを理解して、プライドを捨てても戦える人が強いのです。

0円PR

実践的なPR手法が学べる笹木氏の著書『0円PR』