経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「米国では成功した起業家が 投資する好循環があります」―戸村 光(HACKJPN CEO)

戸村光・HACKJPNイラスト

世界で活躍する起業家に憧れを抱き、高校卒業後に単身渡米し、シリコンバレーでHACKJPNを起業した戸村光氏。日米の起業家を取り巻く投資環境や文化の違い、少子高齢社会で日本の経営者がやるべきことなど、世界を知る若き起業家の目線から熱く語っていただきました。

戸村 光氏プロフィール

戸村光

(とむら・ひかる)大阪府堺市生まれ。世界的な起業家の活躍に感銘を受け、高校卒業後、2013年渡米。サンノゼ大学入学。14年HACKJPN起業。企業や市場の分析・評価情報を提供する「datavase.io」、起業家と投資家をつなぐイベントも手掛ける。

若手の起業家を支援する米国の投資環境とは

佐藤 HACKJPNは、「datavase.io」を活用した企業や市場の分析・評価サービスを主軸にされています。毎年1月にラスベガスで開催される電子機器の見本市「CES」の出展企業の情報も提供されているそうですね。
戸村 CESの情報提供は毎年続けています。世界各国の企業や投資家がCESに出展する約4千社のスタートアップの動向を注視し、その情報を元に新規事業をつくろう、投資をしようと考えています。

 そこで、非ヒト型のロボットが出てきた、ドローン製品の伸び率はこれくらいだが、新たに農場に肥料をまくドローンが出てきた、といったリアルかつ最新の情報を提供しています。
佐藤 ウェブでは調べ切れない情報として価値がありますよね。米国では起業家も投資家も意欲的ですね。
戸村 そうですね。大企業などが有望な起業家に投資し、その起業家が上場あるいはエグジットして、起業家や投資家に一定のキャッシュが入ると、それをまた次の世代に投資するという循環があります。市場が拡大すれば投資家の関心もさらに高まり、アイデアを持つ若い起業家も資金を集めやすくなります。

 ただし、シリコンバレーでは、「同じ時代にアイデアを思いつく人は1万人いる。実際に行動するのが1千人、形になるのが100人、世に認知されるのが10人、最後に勝つのは1人。だからアイデア自体に価値はない」と言われていますが。
佐藤 面白い。だからこそ若者のチャレンジを支援しやすい環境があるのはいいですね。私も事業承継を考えると、有望な若者が近くにいれば、と思います。しかし、少子高齢社会の日本では、年配の経営者が事業承継したくても子息には継ぐ意思がなく、できないという会社が無数にあります。するとM&Aするか廃業するしかない。日本の10年後はどうなるのか、不安でいっぱいです。
戸村 日本の中小企業の課題は、上場を目指さず、それこそ次の世代にバトンを渡すのを目的とする経営者が多いことです。経営者マインドのない世襲経営者に事業承継しても、企業も市場も活性化しません。

 今、跡継ぎのいない東大阪の町工場を米アップル社が次々と買収していますが、いい兆しです。閉めるしかなかった工場を高値で売却すれば、社長は次の世代がやりたいこと、例えば留学や起業を応援できますから。

datavase.io

「datavase.io」は約1万社の国内外の情報を網羅。約1500社が利用している

世界で戦えなければ企業価値を高められない

佐藤 日本では若者が起業家になりたいと言うと、親や大人たちは良い大学に入って、安定した公務員や銀行員になりなさいと言います。
戸村 僕もそうでした(笑)。日本のように長い歴史の中で文化が培われてきた国では、年配者が尊敬され、文化も企業も継続することが美徳とされます。日本には100年企業が数多く存在し、それに対しては世界的な起業家たちも畏敬の念を抱いています。

 一方、米国は破壊的イノベーションを繰り返してきました。異なる文化を持つ移民が集まり、どの思想が正しいではなく、常にみんなでディスカッションして新しい何かをつくろうとします。これは企業でも大学でも同じです。
佐藤 日本では教育も答えありきの暗記式ですし、会社の会議でも発言しない人の方が多いです。
戸村 日本の教育は先生の意見が正しくて、1+1がいかに2になるかを学生たちに暗記させます。米国では1+1が何になるのかを学生それぞれに発言させ、答えをみんなで考えます。社会に出ても日本人は上司の指示どおりに行動しますが、米国では、その仕事をやる理由を問われます。その理由を説明し、この目標をみんなで達成するためと伝えるコミュニケーションが必要です。
佐藤 日本の企業が世界で戦えない理由が分かりますね……。
戸村 日本には1億2千万人の豊かな市場があり、その市場をスタンダードに考えるので、リスクを負ってまで世界で挑戦しよう、そのために世界について知ろうとする経営者が少ないんです。

 経営者の使命は自社の価値を高め続けることですが、消費者もユーザーも減っていく日本ではそれも難しい。この先、世界で戦えない企業は倒産し、それが転換期となって、大企業の優秀な人材がスタートアップに流れるでしょう。そこから本格的な世界の挑戦が始まるのではないでしょうか。
佐藤 古い経営者からすると怖い時代が来ますね。話は変わりますが、御社の経営理念「周りの人から幸せに」の意図するところは?
戸村 僕たちの「幸せ」の定義は、「成長」と「共感」です。人の幸せはさまざまですが、中には成長をストレスと感じる人もいます。なので、僕たちと同じ船に乗るのは、共通の成長意欲を持つ人がいい。そういう人たちから幸せにしたいという思いを込めました。
佐藤 「成長」をテーマに生きる戸村さんらしい。古い価値観にとらわれない戸村さんのような起業家がもっと出てきてほしいですね。

新旧の経営観を融合させて、これからの新しい日本の社会をつくりましょう(佐藤)

聞き手&似顔絵=佐藤有美
構成=大澤義幸 photo=西畑孝則
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