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行為計算否認規定の怖さ~節税と税務調査~

元国税調査官が明かす税務調査の秘密

筆者プロフィール

松嶋洋(まつしま・よう) 元国税調査官・税理士。2002年東京大学卒業後、金融機関勤務を経て東京国税局に入局。07年退官後は税理士として活動する傍ら、国税調査官の経験を生かし、税務調査対策のコンサルタントや執筆活動も行う。

 

税務調査の伝家の宝刀「行為計算否認計算規定」

 税務調査において「伝家の宝刀」といわれる課税方法があります。これは「行為計算否認規定」といわれるものです。節税のためある取引を行った場合、それが節税以外に目的がなく、かつあるべき取引から見て不合理極まりないようなものであった場合、税務署はその節税を広く否定することができる、というものです。

 この「行為計算否認規定」が適用されると、全くのゼロベースで税金の計算を考えることになり、言ってしまえば法律など関係ない、といった形で課税処分が行われます。

 「行為計算否認規定」が法定化されているのは、税金計算のルールは明確に定められていますので、そのルールを利用すれば税金を少なくできるからです。といっても節税は当然の権利ですので、やりすぎの節税がその対象となる、と言われています。

節税行為による行為計算否認計算規定のリスクを回避するには

 言うまでもなく、問題になるのは「やりすぎの節税」の具体的な内容ですが、それは極めて不明確です。適用されると酷な結果になるのに、その要件がよく分からない、というのが「行為計算否認規定」の怖さなのです。しかし、税務署もその点を深く理解していることから、結果としてどうしても使わざるを得ないような場合に、切り札的に使っているため「伝家の宝刀」と言われるわけです。

 怖いけれども使ってくることは基本的にない、という理解があるので、税理士はこの規定をほとんど意識していません。事実、以前勤務していた会計事務所のOB税理士などは、クライアントが行っていた、あからさまな節税行為であっても、「行為計算否認規定」のリスクを説明することもなく、問題がない、と安易な回答をしていました。

 確かに、「行為計算否認規定」の適用は難しいものの、ゼロではないため、このような安易な回答は論外です。

 このため、最低限事前にやっておいていただきたいのは、節税という本音があっても、建前としては節税以外の目的を、嘘ではない範囲で用意しておく、ということです。

 「やりすぎの節税」をけしからん、とするのが「行為計算否認規定」ですから、節税以外の目的があれば、おのずとそのリスクは低減します。

 例えば、「節税のために子会社をつくる」という理由と、「事業部長の業績をより明確化するために、事業部長を社長とした子会社をつくる」という理由では、税務署に与える印象は全然違います。税務署は、納税者の権利である節税を含めて、「税金の削減」を憎む役所ですので、「税金の削減」と関係がない事業理由がある取引に対しては、基本的にはタッチしないのが原則です。

節税以外の事業目的をはっきりさせる事が重要

 ところで、このような話を税理士にすると、ほとんどの場合、「手間が掛かり過ぎて面倒だ」と反論がされます。しかし、このような節税目的以外の理由があれば、単に「行為計算否認規定」のリスクヘッジに止まらず、税務調査対策全般において非常に好ましい対策となります。

 と言いますのも、税務調査官は法律を知りませんから、自身の正義感、すなわち「(合法違法を問わず)税金が少なくなることを憎む」という思いだけで仕事をしているところ、事業目的を用意していれば、税金の削減以外の目的があるという説明が可能になり、心証を良くすることができるからです。

 もちろん、不正取引など法律的にクロと判断される計算誤りであれば、その目的に関係なく、是正されることになりますが、税法にはクロかシロかで割り切れない、グレーゾーンの部分が非常に多く、税務調査においても、グレーゾーンが問題になることが多いのです。

 本来、グレーゾーンについては、きちんと法律を読んだ上で、法律の解釈を争うことになるはずですが、つたない法知識しかない税務調査官にとって、このような解釈の争いは基本的には不可能です。

 結果、節税以外の事業目的がしっかりしていれば、悪質性はないとして、グレーゾーンの節税については、おおむね問題にしない傾向にあります。

 

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