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(インタビュー)寺島実郎日本総合研究所理事長が注目する「国際関係の変化」と「日本経済の課題」

寺島実郎 日本総合研究所理事長

寺島実郎の視点1:全員参加型秩序への移行が進む国際社会

 2013年を振り返るにあたり、ここでは背景にある大きな構造変化に注目して論じてみたいと思う。

 まずは、世界の動きの中で13年の最大のウォッチポイントは、米中関係の変化である。第2期に入ったオバマ政権と習近平体制に入った中国の関係が、世界を揺るがしかねないということを年初から指摘してきたが、実際そのとおりになっている。今年6月にカリフォルニアで米中首脳会談が、7月には第5回米中戦略経済対話がワシントンで行われたが、これは単純に米中関係が良くなっているという話ではなく、両国は多くの懸案事項を含みながらもコミュニケーションを深めていると解釈すべきだ。

 両国間には、中国の人権問題、米中間の貿易摩擦、知的所有権侵害等、さまざまな問題があるが、21世紀のアジア太平洋の秩序を米中がリードしていこうという思惑が双方にある。お互い相手を警戒しながらも、相手を巻き込むことでプレゼンスを高めようという思惑が働いている。こうした輪郭が13年には見えてきた。

 米国はアジア太平洋において、中国を戦略的対話の相手としてゲームを作ろうとしているが、一方では米国の国際関係における影響力の低下も見えてきている。中東、アジア、アフリカ、中南米などあらゆる地域でいかなる国もヘゲモニーを持たない状況が生まれている。つまり全員参加型秩序への移行が進んでいる。

 東西冷戦が終わった頃、米国が唯一の超大国になったと言われ、その後BRICsの台頭などで多極化論が唱えられたが、ここへ来て「極」という構造で世界をとらえるのは無理が出てきた。米中のG2という言い方もされているが、明らかに全員が参加して自己主張する時代になってきた。その構造変化こそが、今年の最も大きな出来事である。

 国際関係における来年以降の重要なファクターとしては、ロシアの存在感の高まりを挙げたい。ロシアはここへ来てシリア問題でオバマを揺さぶるなど、国際社会のゲームを動かしている印象が強い。日本は石油とLNGの約1割をロシアからの輸入に依存し、20年までにはこれが2割になるといわれており、同国との関係を強めている。ロシア側も、米国のシェールガス革命の影響で自国が欧州へ輸出するLNGの価格が引き下げられる中、日本のような安定した地域にエネルギーを売りたいという思惑がある。特に日本にとっては、中国と韓国との関係が悪化する中、14年はロシアファクターが重要になってくるだろう。

 

寺島実郎の視点2:日本経済の課題は実体のある政策を打ち出せるか否か

 次に日本国内に目を向けると、アベノミクスによる異次元の金融緩和と財政出動を刺激剤として好況感を印象付けているが、現実は株高幻想にすぎない。9千円台だった日経平均株価が今や1万5千円と5割近く跳ね上がっているが、日本経済の実態が5割も良くなっているかと言えばそうではない。

 東証が発表した数字によると、過去1年間に外国人投資家による日本株の買い越しが14兆円ある一方、日本人の機関投資家は累積13兆円の売り越しとなっている。つまり、日本人が日本の将来に向けて投資を増やしているわけではない。外国人投資家のほとんどはヘッジファンドで、値上がり期待の短期保有。日本の産業や企業を育てる投資ではない。ここにアベノミクスの一番大きな危険性がある。

 実体経済の伸びが実感できない中、原材料費は前年同月比で2割近く跳ね上がっている。川下の消費財価格はじわじわと上がっているがせいぜい1%程度だ。人々の所得が伸びず消費が伸びていないから、価格を上げたくても上げられないというねじれ現象が起きている。そこで、労働者の所得の伸びがポイントとなるが、多くの企業は徹底的に身をそぎ落としながら戦っており、利益の源泉は海外へとシフトしている。そうなると、多くの経営者は国内の労働者に還元しようとは考えない。

 今後、物価が徐々に上がり出すが、給料はそれほど上がらないという苛立ちの中で、消費税増税が待っている。そこでアベノミクスは正念場に入る。もしも外国人が日本株を売り抜けばアベノミクスは失敗の烙印を押されるため、何とか株高だけは維持しなければならないという強迫観念に陥るだろう。日本にとって幸いなことに、今はBRICsに対する過剰期待がはげ落ち、新興国にカネが向かわなくなり、米国はそろそろ金融引き締めに入りそうな局面であるため、金融を緩めている日本にカネが回る状況になっている。しかし、世界の金融力学が今後どうなるかは予測が難しく、それに左右されるというのは非常に危うい話だ。

 そこで、実体のある経済政策をどう打ち出すかが重要になるが、今の成長戦略はすべてビジョン政策にすぎない。問題はプロジェクトエンジニアリング。つまり、どういった制度改革が必要で、どのような施策が必要かという実行計画を考えなければならない。例えば、日本の産業構造は自動車産業に過剰に依存してきたが、ポスト自動車のプロダクトサイクルを何か作っているかということだ。

 農業の分野でも、日本が過剰に食糧を海外に依存しているのは事実。食糧における貿易赤字を縮小しない限り、日本の産業構造は安定しないと思っている。自給率の低いトップ20品目位を個別に点検してプロジェクトとして重点的に組成していけば、自給率を6割ぐらいまでに持っていくことは可能だろう。産業で培った技術と資金力を注入して、農業分野を支えるプロジェクトを作るといった試みが求められる。

 金融政策でジャブジャブになったカネで、具体的なプロジェクトに挑戦している姿を世界に見せるという方向感を取らないと、アベノミクスはマネーゲームの中の幻想に終わるだろう。単に「株価が上がってめでたい」という話から、どう脱却するかが鍵となる。 (談)

 
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